第40話 勉強開始


「絶対無理!」


 俺は昼休みの時間を使い、ミッションの結果報告をする為、屋上に来ていた。

そして、俺の真正面で叫ぶ男、その名を高山勇樹。

俺の後ろの席で、何かと俺にちょっかいを出し、今回のチケットミッションを俺に与えたボスだ。


「まぁ、一科目だけなら何とかなるだろ。がんばれよ」


「俺には無理だ。天童、君だけが頼りだ。何としてもミッションを完遂させるのだ!」


 そこまで俺にさせるか?


「姫川を誘ったのは高山だろ? だったら高山がテスト頑張れよ」


「あの姫川だぞ! 俺には絶対無理だって! 天童の方が確率高い! 絶対に!」


「じゃぁ、今回の件断るか?」


「それも無理! せっかくつかんだチャンスじゃないか! 何としても俺達の手で掴みとるんだ!」


 そうですか、『俺達の手』でね。

はぁ、めんどくさい。でも、まぁ乗りかかった舟だし、姫川も映画見たいと言っていたし……。


 いやいや、勉強は自身の為になる。ここは少し真面目に取り組み、基礎力向上に努めよう。

最近色々とあって、勉強する時間が少し減ったしな。


「分かった分かった。一科目だけなら何とかなるかもしれんし、俺も勉強するよ」


 その一言を伝えた途端、高山にハグされた。

やめてくれ。俺にその趣味はない。


「さっすが親友! 話の分かる男で良かった! じゃぁ、俺は当日のプランを考えるから、天童はいけそうな科目の勉強を頼むな!」


 言いたいことだけを言って屋上から去っていく高山。

おかしい、作業分担するにしても分け方がおかしくないか?


 姫川とうまく作業分担できていると思うが、高山との作業分担は負担の差が大きすぎる。

今回、姫川に一科目でも得点を上回る為には、対策は必要だろう。

その対策も俺が考えるとな。少し本気で勉強しようかな……。



――


 そして、放課後を迎え、その日は何事もなく自宅に帰る。

どうやら今日は俺の方が先に帰って来たらしい。

正面の玄関を開け、自室にバッグを投げ込み、ソファーに転がる。


 目を閉じながらこれからの対策を考えよう。

まず、姫川は苦手分野が無い。こないだの試験も平均九十六点らしい。

現国は満点と先生が言っていたので、今回はそこを攻めない。


 残りの教科を考えるとどこが一番点数が低かったかがポイントだな。

俺の得意科目と重複していれば、一点集中で何とかなる気もしないでもない。

うーん、姫川の苦手科目……。何だろう? 直接聞いてみるか。


 リビングにとりあえず勉強道具一式を広げ復習をする。

ノートに教科書、参考書。そして、駄菓子。


 カリカリしていると玄関の戸が開く音が聞こえた。


『ただいまー』


 姫川の声だ。今朝と違って少し声が明るくなっている。

機嫌が直ったのか、俺は少しほっとしてしまった。

とりあえず、ペンをころがし、玄関に出向く。


「おかえり」


 なぜかビニールの大きな袋を持った姫川が玄関に立っている。

今朝は持っていなかったので帰宅中に何か買ってきたのか?


「はい、これお土産ですっ」


 俺に手渡ししたビニール袋は重い。

何だこれは? お土産ってなんのお土産?


 袋を覗き込むと緑色の葉っぱが。

キャベツ? なぜキャベツ?

俺は頭にハテナを浮かべながら、姫川の目を見つめてしまった。


「さっき、八百屋のおじさんが持って行けって。断ったんですけど、押し付けられてしまいました」


 ん? 違和感を感じる。あのオッチャンが無償提供? そ、そんな馬鹿な!

また袋に何か入れたんじゃないか? きっとそうに違いない。

俺ならまだいいが、姫川にそんな事を! 


「そっか、ちょっと冷蔵庫に入れてくるな」


 姫川を横目に俺は小走りで台所に向かう。

そして、ダッシュで袋からキャベツを取り出し、中身を確認する。

絶対に何かあるはずだ!





――無い! キャベツ以外、何も入っていない!


 当たり前の事なんだが、嘘のようである。

絶対に何か変なものが入っていると思ったのに……。


 ものすごい違和感を覚えつつ、俺は袋にキャベツを戻し、野菜室に放り込む。

うん、キャベツ二玉入れたらこうなるよね。

野菜室がほぼキャベツで占領されてしまった。


 そんな冷蔵庫はさておき、俺は再び勉学に励むため机に向かう。

カリカリと駄菓子を食べながら。


「勉強しているんですか?」


 後ろのソファーに座った姫川が俺のノートを覗き込んでくる。

制服から私服に着替え、マグ片手にリラックスムードだ。

テストも近いのに、さすがは学年トップ。余裕ですね。


「まぁ、映画の件もあるし、成績も落とす訳にもいかないからな」


「もしかして、映画の件、本気で取り組んでいます?」


 何ですか? もしかして冗談だったのか?

それとも初めから行く気はないと……。

そうですか、成績優秀者は負けるはずがないと。

いいだろう、本気でやってやる!


「もちろん本気だ。一科目でも姫川より点数が高ければいいんだろ?」


「確かにそうですが……。ちなみに天童君の得意科目は?」


「こないだのテストでは数学が一番良かったかな……」


「良かった。私こないだのテスト、数学が一番悪かったんですよね」



 ん? 何か姫川の言葉に違和感を感じた。

どういうことだ? 俺は姫川の言葉をもう一度思い浮かべる。

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