第14話 勘

 日が変わって翌日、水曜日だ。


 よくよく学校では一週間の中間地点である水曜日を特別扱いするような風潮がある。やれ職員会議だ、やれ短縮授業だ、やれ八時限目だ、などと学生にとって水曜日は特別な日なのだ。僕も小学生の頃は水曜日はいつもより下校が早く、友達と遊びに出かけたものだ。


 今日はそんな特別な水曜日なわけだが、この学校では水曜日の七時間目は決まって自習学習の時間なのだ。


 前にも紹介したが、僕が通うこの高校は進学校と言う看板を立て、そのレッテルを張り自慢の高校を飾っているし、新入生説明会ではいっぱしの進学校だと言い張り、その募集人数を増やしている。


 しかし、その内実は「目指せ国公立――難関私立は難しい――大学進学はお手の物――みんなで楽しい学園生活を」という、どうしようもない進学高なのだ。


 だが、だからと言ってこの高校の生徒のレベルが低いというわけではない。できる奴はできるし、頑張っている奴はできる。

 ただしそれも「できる奴」で「頑張っている奴」に限っての話だ。全員ができるわけでも頑張れるわけでも無い。


 そんな中途半端を絵に描いたような高校の自習時間がどのようになるかなんて、考えるまでもないだろう。


 だから、僕も声を大きくしてこのことを語ろうと思わないのだが、この自習時間がどのような時間なのかというのだけは、言っておこう。


 難しい事ではない。簡潔に簡単に簡素に言ってしまえばただの自由時間だ。

 ただ、その自由時間を真面目に勉強に費やしている人もいれば、その名の通り自由に過ごしている奴もいる、ていうか大半だ。


 しかし、真面目な話をすれば一授業分――四十五分間も自主学習ができる時間が与えられているというのは進学校には滅多にないことで、本当の進学校にしてみれば喉から手が出る程に欲しい時間だろう。

 そんな時間を持て余すどころか、無駄に費やすとはあまりに救えない。


 とは言え、そう言っている僕もその時間に何をするわけでもないから、人のことを言える立場ではない。

 そもそも、勉強意欲がない人間が自習時間を設けられても仕方がないことは実に明白だ。


 なので僕は考えた。この有り余った時間に昨日の夜の出来事――リュートと僕が夜遅くにわざわざ学校にまで行った話でもしようじゃないか。


 結論から言えば、昨日の晩はリュートが言っていた通りすぐに片が付いた。

 僕とリュートが学校に忍び込み体育倉庫の前に向かうと、待っていたかのように化物が僕らの前に立ちはだかった。


 一見僕が以前に教室で遭遇した化物のような風体をしていたが、今回のは以前とは違って腕が四本生えていた。

 さながら天下一武道会編の天津飯のようであったが残念なことに気功法は撃てなかったらしい。自慢の腕は無残にもリュートに全て切り落とされていた。


 とまあ、こんな感じにバトルの幕切れは回想をするまでもない程だ。


 いや、もしかしたら僕の記憶よりも白熱した戦いだったのかもしれない。もしかしたら化物は気功法を撃っていたかもしれないし、リュートのかめはめ波も大小、威力関係なく防がれていたかもしれない。


 しれないのだが、僕からしてみればそんなことは些細な出来事に過ぎなくて、言わせてみれば本当に「そんなこと」なのだ。回想する必要もなければ重要な物語でもないのだ。


 かなり論点はずれるのだが、以前からリュートの勘はよく当たる。小テストの範囲や英単語テストの問題など、リュートが予想すると少なからず当たってしまうのだ。リュートはこれを「ラックが高いから」といつもの意味不明な発言で言いきってきた。


 リュートが言うラックという物が本当にあるのか僕には分からないし、分かっても仕方がないのだが、ただ一つ言えることは、リュートの勘はよく当たるということだ。


 そう言えば昨日、学校でリュートはハルのことを気にかけていた。「気を付けろ」と「あれは面倒くさいぞ」と。


 最後にもう一度言っておこう。リュートの勘はよく当たるのだ。


 化物退治を終えた晩、僕は家の前でハルと遭遇した。

 本当に回想すべきなのはきっとここからなのだろう。

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