第12話 高嶺の花たち
歩いているとアーケード街を抜けて交差点に差し掛かる。ここまで来れば学校まではあと少しだ。
信号待ちをしている間にふと後ろを見ると、振り返った先にはリュートが眠たそうな顔をして歩いていた。
「リュート!」
体ごと完全に後ろを向いて、叫びながら手を振った。
僕の声に気付いてリュートは小さく手を振り、歩くペースは変えずこちらに向かってきた。
「おはよ」
リュートが僕に並んだのを横目に見て声をかける。依然リュートは眠たそうにしていて、その声は若干ガラガラと重たかった。
「ああ……おはよう」
「おはよっ! リュート!」
ハルも持ち前の笑顔を向けながら言う。ハルは誰にでもこの笑顔を振り撒く。だからよく勘違いされてしまうのだが。
「……おはよう」
リュートは顔色一つ変えずに一言だけ言って前を向いた。
普通ならばここで男子の方がハルに笑顔を向けられてあたふたするものなのだが、こうも興味を示さないとなれば、僕の中にあるハルという印象を否定されたような気がして、なんだか少しだけ腹が立つ自分がいる。
そもそもリュートはどこかハルに冷たく接しすぎていると思う。僕とリュートが会話している時でも、ハルは僕らの会話に混ざってくることが多いのだが、その度にどういう訳かリュートはハルを毛嫌いしているように感じるのだ。
リュートはいい奴だ。いい奴ではあるのだが、こうもハルのことを毛嫌いしていると、僕としては納得できないし気に食わない。
「…………」
一歩引いてハルとリュートを観察してみる。
ハルがあの笑顔を保ったまま延々と話題を振っているが、リュートはそれを適当にあしらって次の話題をハルに振らせている。
適当ながらもこうして応答し続けている辺り、別段嫌っているわけではないと思うのだが、好んで話してもいないという理由が僕にはよく理解ができないのだ。
そうこう考えながら歩いているうちに、もう学校まで差し掛かっていた。校門をくぐって昇降口まで歩いて行くのだが、何故だか多くの視線を感じてしまう。僕の自意識過剰なのかと思って周りを見渡してみると違った。
昇降口へ向かう多くの生徒が僕らのことを見てひそひそと何かを言い合っているのだ。
どうにも気になり、気付かれないようにこっそり聞き耳を立ててみる。
――すげえ、リュートとハルだ
――美男美女カップルって感じだよな
――どっちもハーフだしよく似合ってるよな
――あの二人の遺伝子から子供が生まれればきっと絶世の美女かイケメンが生まれるぞ
――なるべくして、ってやつだな
なるほどそういう訳か、僕はため息をついた。ここまで浅はかで愚かだった自分自身に、だ。
僕がリュートのことを気に食わなかったのは、ハルを否定されているように感じたからではなかった。それは僕の思い違いで、この感情をそんな言葉を使うことで隠していただけだ。
僕はリュートに嫉妬をしていたんだ。
今までハルに釣り合う人間など存在しなかったし、僕自身がその存在を認めてこなかった。
しかし、炎の転校生であるリュートの人気と言えば、まさにハルに勝るとも劣らない。
高嶺に花が二輪あるなら片やに相容れるのは、片やと相まみえるのは対となるもう片やしか存在しないのは周知の事実だ。
しかし、周囲の期待と双方の利害が一致するとは限らない。ハルが誰に好意を持っているのか僕の知るところではないが、先の言動を見る限りリュートにその気があるとは感じられないのだ。
高嶺にある二輪の花は相容れることはあっても、相まみえることはあっても、思い思われることは必ずしもそうであるとは限らないのだ。
と、僕はせいぜい負け惜しみを吐いておくとしようじゃないか。
下駄箱から上靴をぞんざいに取り出し、僕は階段に足をかけ上を行く二人を追いかけた。
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