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あめのちあさひ

第1話 鉄風

 刻はうしみつ月も眠るころ、帝都大東京は歌舞伎町なる魔街の一角、L♡VEするホテルの裏口の、ごみばこのすみにただひとり、あわれ全裸で震えながら、あたりをうかがいうずくまり、ネズミの走る音にすら、驚きおののき身を隠す、見るも無残な人影あり。震える影の主は、旭清十郎なる貧乏学生であった。ほんの三時間前まで、清十郎は有頂天の極みにいた。かねてより懸想したるおんなの誘いを受け意気は揚々、八卦揚々、性欲ギンギンほとばしり、反りは隆々の業物ひとふりしたがえて、指定されたるところのL♡VEするホテル「ヘヴンズ・ドア」666号室を訪れた。のぼせあがる旭青年の純情を弄んだかねてのおんなは、骨抜きの旭青年を嘲笑いつつその邪悪なるたましい、すなわち稀代の悪女の本性をあらわにし、愚かなるかな旭青年はまんまとおんなの姦計に嵌った。筆舌に尽くしがたき所業を受けた旭青年は一瞬の隙をついて命からがら、生まれたときのそのまま一糸まとわぬすがたでまろびいでたのであるが、それは神のはからいかそれとも死神のたわむれか。家屋の外に逃げだせたとてここは帝都東京新宿歌舞伎町、上海に次ぐ東洋の魔都のどまんなかである。公序良俗に反する全裸のすがたがひとめにつくやいなや、治安維持を名目に射撃の腕を競うべく日夜標的を探してやまない保安官のやつばらに射殺されるであろう。

「どうしてこうなった。あのおんなめ。このうらみ。はらさでおくべきか」

 おんなの色香に迷った自らの愚行は棚にあげ、おんなへの憎しみが高まっていく。夜風鉄風に冷やされた脳裏に、おんなから受けた所業がフラッシュバックした。悪魔のおんな、ペロ子ちゃんの高笑いがあたまに響いた。


 なぜこんな目に遭っているか? その理由をつぎに語ろう。

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