第1話 最初の始まり


あぁきっと。

あの子は人生を狂わされただけなのだ。

たった一人の欲のために。


きっと何もなければ、あの子は笑って、泣いて、怒って、笑って。

“人”として暮らすことが、生きることができただろうに。


きっと、どこかで間違えたのだ。

どこで狂ったのだろう。


あぁ、“また”だ。


ずっとずっとずっとずっとずっとずっと。


ずーっと続いている。


あぁ、でも。

“次”こそは、“今度”こそは、幸せに。























あるところに、【虹と空の魔法】と呼ばれる、所謂【乙女ゲーム】があった。

小説化や、漫画化、アニメ化までされた超人気作品だ。


内容は、8人の“色”を持つ青年達と、神に愛された少女が恋をしたり、魔王や、悪の魔法組織と戦う、といったものだ。


ごく普通の、最近ではよくある設定だが、そのストーリーの多さやスチルの美しさに人気があった。


さて、今回はそんなよくある乙女ゲームに、とある女の子が事故で死に、転生させてもらったところから始まる。



そう!最近ではありふれた、【乙女ゲームに転生】である。



転生したのは親に愛されず、愛を求めた結果、造られた愛にすがった少女。

名を【雪泣輝菜ゆきなきてな】。彼女が転生した先は、先ほど紹介した【虹と空の魔法】と酷似した世界。


生まれ変わった人物は、【虹と空の魔法】のヒロインである【アイナ】。




ゲームの【アイナ】は幼い頃から暴力的な叔父と暮らしていた。


ーまずそこに、雪泣輝菜は自分を重ねたー


しかし【アイナ】はめげずにいつも強く生きていた。


ーそこに、雪泣輝菜は強く憧れたー


そんなある時。【アイナ】に特別な力があると分かったのだ。


ー雪泣輝菜は、そんなことに夢見ていたー


利用価値があると見なされ、叔父に閉じ込められて過ごしていると、王城の兵士たちがやってきて、言うのだ。


『あなたは100年に一度の神に愛された子、神子です』と。


雪泣輝菜ゆきなきてなは憧れていた。夢見ていた。

自分にもこんなことがあれば。

自分もこんなに特別だったら。

どんなにいいだろう。どんなに愛されるだろう。










それに夢中だった彼女は気づかない。










そもそもとして、【雪泣輝菜】という存在がこの世に一人しかいなく、既に特別だということに。

そして、この世に一人しかいない【雪泣輝菜】を心配する者がいたことに。



愛。あい。哀。

愛が欲しくてたまらないの。

誰か愛して。私を愛して。




そんな時。彼女は死んだ。

神の不手際による、不慮の事故だった。



神は詫びとして、好きなように好きな世界に転生させると言った。

彼女は、雪泣輝菜はそれはもう喜んだ。


好きなように、好きな世界に。


それは、あの世界に、雪泣輝菜が夢見てやまない【虹と空の魔法】の世界に転生できるのではないか?


彼女は、頭の出来が良い方だったから、それを瞬時に理解して自分が有利になるよう、神に頼んだ。



まず、【虹と空の魔法】の世界には魔法があるから


『属性は全部できて、魔力はすごく多く』


とお願いし、まず無いと思うが、自分に惚れなかった時の保険として


『私に魅了のスキルをください』


と言った。




何故ここまで必死になるのか、と思うが。

その神は偶然にも、ゲームには触れたこともない、『げーむ?なにそれおいしいの?』状態のおじいちゃん神さまだった。


おじいちゃん神は【雪泣輝菜】を可哀想に、としか思えず、自身もちょびっと【設定】に手を加えた。

【雪泣輝菜】が絶対に幸せになれる魔法。






それは






絶対に愛される魔法。
















ーーーー


ーー







「………ふふっ」


これからのことを考え、自然と笑みが浮かぶ。

ここから落ちれば、私はもう、【愛されない子】ではない。

ようやっと、愛されるのだ!



あぁ、早く甘い言葉をかけてもらいたい。

あぁ、早く抱きしめてもらいたい。

頭を撫でてもらいながら、好きだよって言ってもらうの!



さようなら雪泣輝菜。さようなら愛されない子。

こんにちはアイナ。こんにちは愛される新たな私!



少女はより一層笑みを深めると、その白い床から飛び降りた。




落ちて行く間にも、黒かった髪は水色のような、銀色のような不思議で神秘的なものに変わり、その瞳は空色に変わる。

手足は白く細く、華奢なものになり、衣服は白地に空色のラインのワンピースに変わる。




【虹と空の魔法のアイナ】ではなく、【愛されることを望んだアイナ】が新たに生まれた。





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