第4話

 彼女は純粋じゅんすい単純たんじゅん自由じゆうに生きて来た。しばられることは好きじゃない。譲葉ゆずりは悠子ゆうこ束縛そくばくしないから自由じゆうれた。


 ひとつひとつ考えてみる。


 今更いまさら、名前を聞かれた時のことを思い出した。あの時から彼は不思議な事を言っていた。

 いつか追いつけるかなと譲葉ゆずりはは言っていたけれど、追いつけないで追いかけているのは、むしろ自分だと思う。


悠子ゆうこちゃんて君を呼ぶの好きなんだ。でもね、いつも少しだけせつなくなる」

「どうして?」

「すぐに遠くまで行ってしまいそうで」

 そんな会話をわした後、悠子ゆうこせつなくなって次の言葉が見つからなかった。


悠々ゆうゆうと俺のとなりにいつも居てくれる君はね、俺の理想りそうを形にしてくれるんだよ」

 彼の理想りそうとはなんだろうと彼女は思った。


 となりでいつも新鮮しんせんな自分をあたえてくれる彼女がそばに居ないと、譲葉ゆずりはむなしさや心細こころぼそさをおぼえる。


 悠子ゆうこは単純を好むから、単純な方法で分解していった。

 そのあとも、ひとつひとつ、譲葉ゆずりは感性かんせいあふれる言葉をき続けた。

 彼がつむいだいとしい言葉の数々は、思いのほか簡単かんたん分解ぶんかい出来た。


 譲葉ゆずりははわたしを愛してくれている。愛してくれているから彼は彼の言葉をわたしにくれる。


 しかし悠子ゆうこは、その言葉の中にある、彼が自分へ本当に求めているものが、わからなかった。

 聞いたらきっと、譲葉ゆずりはは答えをくれるだろうけれど、その答えを理解りかい出来ない残念ざんねんな自分が容易ようい想像そうぞう出来てしまう。


 彼の求めるわたしで居たいと思った悠子ゆうこはあることを試みることにした。


 どうしたら譲葉ゆずりはとなりに居ても良い自分にれるのか、知りたい。

 ずっと彼の時間に身をゆだねて行きたいから、これはきっと必要ひつようはずだった。

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