尻紙家の一族連続殺人事件

ごま忍

第1話このままの君でいて

< 1 >

空は澄み渡るような青空、爽やかな風が体を駆け抜けて心地好い。ここは小さな船の上。


「ルミちゃん、気持ちいいね~!」


警視庁の刑事早月メイは、EXILE探偵事務所の一番助手納谷ルミ子と船の甲板に出ていた。

ルミ子は大きく首を縦に降って海を眺めていた。


「二人とも落ちない様に気をつけるんだよ。」

「あっ、清野さん!」


EXILE探偵事務所の所長で私立探偵の清野耕介が顔を出した。ルミ子は大きく手を降っている、それに答えながら手を降って二人の隣に歩いて来た。


「もう少しで島が見えてくるみたいだよ。」

「楽しみだなぁ、あの千留実ちゃんが結婚するなんて。でも、清野さんの知り合いとは知りませんでしたよ。」

「尻紙家の丸竹君とは古い友人でね。」

「そうなんですか。でも、新郎に名前が無いのはどういうことなんでしょう?」

「まあ、行ってみればわかるかな…。」



ある日、EXILE探偵事務所を訪れていたメイがルミ子に披露宴の招待状を見せていた。

名前には新婦、明星千留実(みょうじょうちるみ)と日時が書かれてあったが新郎とだけ書かれていて名前はなかった。

清野が手紙を一通ずつ見ていた所、尻紙丸竹(しりがみまるたけ)名義で同じ招待状が来ているということから一緒に行くことになったのだ。


「お~い、兄ちゃん達。島が見えて来たぞ!」


船の船長が顔だけ出して叫んだ。その先にはゆらゆらと海に浮かぶ様に、島の形が見えて来ている。


「そういえば船長、あの島なんで豆島って言うんだい?」

「兄ちゃん、まめじま…。じゃなくて豆島(とうとう)っていうんだ。この辺は宇尾子列島(うおしれっとう)って言ってな、いくつも島がある。」

「ウォシュレッ…」

「まあ、兄ちゃん細かいことは気にすんな!」


そう言うと船長は顔を戻した。

小さかった島の形は徐々に大きくなっていき、船着き場の先には両手を降って、笑顔で出迎える尻紙丸竹の姿があった。


< 2 >

ひとりの老人が子供達に紙芝居をしていた。子供達はくいるようにそれを眺めている。


「こうして桃太郎は、鬼ヶ島の鬼たちを全て退治したのでした。ところが油断していた桃太郎の背後には!めでたしめでたし。」


めでたくねーよと子供達は飲んでいたジュースの缶をその老人に投げつけ、対する老人は石を投げ応戦していた。



尻紙丸竹との再会を果たした清野達は、明日の結婚式に備え今晩は尻紙丸竹の家に泊まる事になっていた。

そしてその道中、この紙芝居の老人、玉手箱否吉(たまてばこいなきち)に出くわした。


すると、子供達との一戦を終え、額から少し血を垂らしていた玉手箱が清野達に気付き声をかけてきた。


「おぉ!丸竹の坊っちゃん。珍しいなぁ、お客さんかいな?」


「結婚式のお客さんだよ。千留実ちゃんの。」

少し気まずそうに尻紙丸竹は答えた。


「あぁ…あの恩知らずの娘か…。何故ワシを呼ばないのかのう?きっと良からぬ事が起きるぞ。めでたしめでたし。」


と吐き捨てながら、玉手箱は去っていった。


「なんか不気味な方ですね。」

「いや。ちょっと変わり者で有名なおじいさんでして…。皆さん気にしないで下さいね。ほらっ、そんなこんなで着きましたよ。」


目の前には一目では見渡せない程の大豪邸が広がっていた。


< 3 >

「さあ、こちらです。」


清野は丸竹に案内され大広間に通された。そこには奇妙な白いマスクを被った男が座っている。


「清野さん、彼が尻紙助喜代(スケキヨ)です。私の従兄弟にあたります。」

「清野耕介と申します、本日はお招き頂きまして…」

「ん~、なんだかな~。」


スケキヨは動かずダルそうな口調で清野の言葉を制止した。


「すいません、彼は結婚式の主役のひとりでして…」

「主役のひとりと言うと、何か訳がありそうですね。」

「その話しは後程…、スケキヨさん、これで失礼するよ。」


丸竹はバツが悪そうに答えながら、スケキヨに軽く頭を下げた。


「何ですか~、君は~」


スケキヨは金八先生のマネをして答えたが、二人はそれを無視して大広間を出た。


< 4 >

「清野さん、この島にお呼びしたのは結婚式だからではありません。」

「そうだろうと思ったよ。新郎に丸竹君の名前がなかったからね。」

「実は、今回千留実ちゃんの結婚候補は三人おります。」

「三人?」

「はい、先程会ったスケキヨと後二人おります。」

「ん~、それで…」

「こんな手紙が送られて来たんです。」


丸竹は手紙を清野に渡した。


【尻紙家に災いをおこす、結婚の義執り行えば度々不幸が訪れるであろう】


「脅迫状のようですね。」

「はい。この島には尻紙家を心良く思っていない島民も少なからずいるんです。」

「先程の老人が言っていた、明星千留実さんのことと関係がありそうですね。」

「尻紙家と明星家は昔から、この島で勢力争いをしていたんです。しかしに跡取りを残せなかった明星家の先代が、尻紙家の先代尻紙助介(スケスケ)に頭を下げこの島に明星家の血筋を残そうと考えたのです。」

「ん~、難しいですね。」


清野が考えているふりをしている所に男が歩いて来た。


「あっ、キテレツさん!」


丸竹が呼び掛けた相手は尻紙キテレツであった。


< 5 >

「ゴルフはいいぞー、丸竹君。」


渡り廊下の角から現れたのは、何故かゴルフクラブを手にした尻紙キテレツの姿であった。


「キテレツさん、日本に帰っていたんですね!」

「あぁ、親族が集まる機会なんて、そうそうあるもんじゃないからね。無理行って帰らせてもらったよ。」

「そうなんですか。そうだ、夜にでもピラミッドの話聞かせてくださいね!」


尻紙丸竹はやや興奮気味に話した。


「ピラミッド?今はゴルフの時代だよ丸竹君!」


唖然とする丸竹をよそにキテレツは高笑いをしていた。


「ところでそこのボーイは、まさか、あのジャンボ尾崎かい?」

「あっいや、えーと私、清野耕介と申します。本日はお招き頂きまして…」

「世間ではハニカミとかハンカチとか騒いでいるけど、俺はミニスカが好きだ!」


と、尻紙キテレツは清野の言葉を静止し、そのまま歩いていってしまった。


「ごめんなさい清野さん、うちの人達、変わり者ばかりで…」


「いやいや、賑やかそうでなによりです。」


清野は心にも無いことを言っていた。今のところマトモなのは、尻紙丸竹だけだなとも思っていた。


「それと…」

「何かありました?」

「えぇ…、さっきのキテレツさんでしたっけ?あの人の持っていたゴルフクラブ、先端がかなり汚れていましたね…。」

「いや…、気付きませんでしたが…。やたらゴルフにハマってるん…」


と、尻紙丸竹は会話をしてる途中、足をつまずかせ、その場にドテンと倒れこんだ。


「アイタタタ…。」


そして倒れた拍子に、履いていたズボンがずり落ち、そこから露になったのは尻紙丸竹のTバック姿であった。


パチーン!


そして清野は、やっぱりこの一族は変な奴ばかりだと思い、つい勢いでその尻をひっぱたいてしまったのであった。


< 6 >

「丸竹君、この家にはあまり人がいないのかい?」


一通り家を案内された清野は、丸竹に問い掛けた。


「結婚の準備で…。といっても候補が三人もいるので、今夜祖父の助介から話があるそうです。」

「助介さんと言うとさっきの…」

「はい、実は2年くらい前から、病気を患いまして病状があまり良くないんです。最後の言葉になるんじゃないかと…。今夜、皆集まりますので清野さんも同席してもらいたいんですが。」

「さっき尻叩いちゃったし、いいですよ。」


清野はニヤリと笑った。


「あっ、いた!」


廊下の向こう側からメイが顔を出し手を降っていた。その横にルミ子が見覚えのある汚れたゴルフクラブを持っていた。


「メイちゃん千留実さんとは会えたのかい?」

「それが、結婚式前の仕来たりとかで会わせてくれないんです。」

「すいません、お伝えしていませんでしたね。」


丸竹は軽く頭を下げ謝っていた。


「いいんです、結婚式の時に会えますから。でも…。」

「どうしたんだい?」

「ゴルフは良いとかいう変なおじさんが来て、ルミちゃんともめちゃって。」

「ルミ子君、やっちゃったのかい?」


清野が聞くとルミ子は親指を立ててニヤリと笑った。

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