47 国王毒殺未遂事件
「きゃああああああああっ!!」
「毒だ! 陛下の食事に毒が入っていたんだ!」
「おいっ、大丈夫かっ!? 駄目か……」
国王と妃、それと幼い姫が夕食を取る──筈だった食堂。
机の中央にある真紅の花を挿した陶器の花瓶が印象的な部屋で今、国王や妃や従者達が悲鳴をあげている。
──壁際で泡を吹いて倒れ絶命しているメイドを見下ろしながら。
「隣国よ! 隣国の奴らが仕掛けて来たんだわっ! 陛下を亡き者にしようと…!」
「おおおっ落ち着けっ! 家臣かもしれんだろっ!」
「陛下、これが隣国の仕業なら外交を有利に進められますぞ」
「こんな時にそんな話はするな!」
今にも泣きそうな顔で骸を見下ろしている国王は顔面蒼白だ。
この城では給仕が毒見役を兼ねている。実際に目の前で少量食べ数分待ち、何事も無かったら王家に提供される。
のだが。
今日は国王の料理に強力な毒が混入しており、食堂はこの騒ぎになっている。
「陛下が食べる前で良かった。この料理を作った者を一刻も早く捕らえなさい!!」
「う……うええええええええんっ!」
メイド長の怒号に、妃の腕の中に居た姫が耐えきれず泣き出す。
「私と姫は部屋に戻らせて貰うわっ! アリサ来なさいっ!」
「は、はい……お供致します……」
食堂から飛び出していった妃に気まずそうに着いていったのは隣国出身の侍女アリサだった。国王や執事はアリサの後ろ姿をキッと睨み付けている。
「……」
その気配を感じたのか、アリサは一層俯くばかり。
「医者を呼んでこい。何の毒か見当を付けて貰おう」
「ああ、少しは犯人が絞れるかもしれん……」
僅かに静かになった部屋の中央、花瓶に生けられた真紅の花がいっそ毒々しく咲き誇っていた。
***
「大丈夫よ、もう怖くないからね……」
「うーっ!」
夏故に夜とは言え明るい廊下。娘を抱きながら妃は笑みを浮かべ自室に向かっていた。
「……」
姫の邪気の無い声を聞きながら、後ろを歩くアリサは今もまだ俯いている。
本当は全部気付いている。
この国王毒殺未遂事件の犯人が妃である事を。
彼女が本当に殺したかったのは陛下では無く、侍女だった事も。
あの侍女は陛下のお手つきだった。
それだけに妃は男子が産まれる事を──愛娘の王位を揺るがしかねない芽を摘んでおきたかったのだ。
アリサを名指しで呼んだのだって、妃が料理長に何か渡していた現場を目撃してしまったからに違いない。
「アリサ、部屋に食事を持ってきてくれない? 私と娘分」
「……は、はい」
「有り難う、貴女に着いて来て貰って良かったわ。お礼にこれ貰って。これからも宜しくね」
そう言って妃は引き出しから宝石がふんだんにあしらわれたブレスレットを取り出し、アリサの手に握らせてニコリと微笑む。
「……有り難うございます」
これは。
これはどういう意味なのだ。
殺さないから手駒になれ、か。隣国出身の自分はさぞ使いやすい筈だから。
「じゃあ宜しく。毒なんて入れないでね」
そう言って笑うこの女性が何を企んでいるのか、自分には分からなかった。
ただ分かるのは──自分はもうこの人から一生逃げられない、と言う事だった。
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