三聖剣物語
なつ
第一部 Dear Heart 愛する者へ
はじめに
物語はたくさんの要素が折り重なっている。いくつもの視点が入り乱れ、いくつもの時が流れている。だからはじめに、物語にとって大切な、そしてそこに生きる人達にとって大切なことから伝えたい。
一つ。
「晴天の
歴史上の奇跡と称される日。
数年間雨の降ることがなかったア・ディーヌ地方に、大雨が降り注いだ。照りつけていた太陽と熱とが作り出していた干上がった世界から、その雨はすべてを流し去った。その雨は、結果、戦争の終結を告げる恵みの雨となった。ア・ディーヌ地方にとって、絶望からの解放であった。
ある歴史家は分析する。
実際には、そんな奇跡は起きなかった、と。
ある歴史家は分析する。
それは人々が創りあげた伝説だ、と。
けれど、延々と続いていた戦争が集結したのは事実だ。その時、実際に何が起きたのか、あるいは何も起きなかったのか、歴史家には永遠に答えられない命題であろう。
二つ。
「Wanted!」
わざと古臭い書体で書かれている。その下にある人相書きは、白黒で少女の絵が描かれている。丸い顔立ちに大きな目、肩に掛からないくらいの髪を、左耳のところで軽く束ねている。どれほど似ているのか分からない。
「ショコラ=ロリータ。21歳。王国の宝を奪い現在逃亡中。髪は太陽の色。目は深い茶色。背丈は余り高くないが、大剣を使いこなす。女性と思って侮るなかれ。あやかしの術も使いこなす」
簡単な説明書き。そしてその下には「10,000$」の文字。国王のお膝元、ターシャの町。広場にあり、酒場にあり、あるいは号外もあり。あらゆる者がそのお触れを見た。
そして三つ。
「……それなら、強く生きなさい」
家を出る時、反対していた母が言った。
「最後まで、帰ってくるなよ」
扉に背を向け、酒を飲みながら、父が言った。
「……」
涙を流しながら、少年は何も言えなかった。
大陸では、国と国との戦いの激しさが増していると聞く。そんなときに、大陸に行きたいなど、少年は何を思ったのか。反対されて当然だった。勘当されて当然だった。それでも、少年は家を出る決心をした。
一袋の荷物と、護身用の短剣だけを持って。
物語は、少年と少女が出会い動き出す。そして起きる晴天の霹靂。その時に何が起きたのか、彼らなら知っているかもしれない。
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