荒地の塔

荒地の丘に崩れかけた塔が立っている。


かつて塔には、既に失われた古代の言葉を研究していた老人が暮らしていたという。


もはや誰一人正確に話す者のいない言語に関する、独自の視点に基づいた革新的な彼の論文は、あまりにも革新的で、あまりにも核心を突いてしまっていた。

耳をつんざくほどの無理解と嘲笑に立ち尽くした彼は、無数の本と共に塔にこもった。


1人きり研究を続けるうちに、会話にも古代の言葉が混じるようになった老人は、やがて完全にこの世界の言葉を失った。


それからの老人は象牙色の髭の中に埋もれるような笑顔を浮かべて幸せそうに暮らし、彼がいなくなってからは、夕暮れになると、朽ちた本から飛び出した文字みたいなコウモリたちが、ヒースの花色の空を飛び回っている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る