燃える家
ティーカップのふちに渡された、か細いスプーンの橋は、ほんの少しの揺れで崩落してしまいそうに不確かだ。
「ヘンゼルとグレーテルのお菓子の家みたい」
分厚いカーテンをひいた部屋の中で、薔薇紅が角砂糖をスプーンに乗せる。
ブランデーが染み込んだ真四角のお菓子の家は、やがて音も無く青白い炎に包まれる。
「完全犯罪ね」
不敵に笑う薔薇紅のまなじりは赤く腫れている。
「なぐさめなんてごめんだわ」
機先を制す言葉は聞こえなかったふりをして、光る白い石の代わりにチョコレートを渡す。
薔薇紅が金と銀の包み紙に夢中になっている間に、手を繋いだ子どもたちは、燃える家を背に歩き出す。
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