1-31 イヴォーク王国防衛戦
「お前っ……何なんだよっ!!」
苛立ちを滲ませた表情でそう叫ぶのは、体の至る所に傷を作ったオストだった。
先程から何度もぶつかり合うが俺はほぼ無傷のまま、というのも焦らせる原因になっているのだろう。
その隻腕を振るい、魔法を使い続けている。
しかしその攻撃は既に未来の映像で見ていた。その映像に従って体を最小限に動かし、魔法をクリスタルへと変えて砕いていく。
そのまま体を滑り込ませて、隙だらけになったオストの顔を思い切り殴り飛ばす。
「ハルカ! 後ろだ!」
「ああ、知ってるよっ!」
レオの声に答えつつ、背後に回り込んだブラストのアンデッドに向けて新たに作り出した剣を叩きつける。
「アアアアァウァ……」
汚れた深紅の鎧にも、少しずつ亀裂ができ始めていた。
「それだけの魔法を使っていて……何故、魔力が底をつかない……? それにその動き、まるで未来が見えているかのように……」
オストがゆらゆらと立ち上がり、光の消えた様な黒い瞳を真っ直ぐ向けて言う。
その問いに答えたのはレオだった。
「魔力が無制限という訳じゃないが……これがクリスミナの力ということだな。それに未来など見える筈ないだろう、お前の動きがアンデット並みに単調なんじゃないのか?」
未来を見るという能力の事は言わないまま的確に煽るレオの楽し気な表情に思わず苦笑いをしてしまった。
こいつ、アストとは違って中々に「良い」性格してるな。
すると見事に煽られ、怒りの炎を燃やしたのかオストは叫ぶ。
「この僕がアンデッド並みだと……? ふざけるなあああああああぁぁあッ!!」
その時、オストの体から無数の黒い線の様なものが噴き出した。新手の攻撃かと身構えるが、何か様子がおかしい。
黒い線は、その一つ一つが何かと繋がっているかのように少しずつ動いていた。
「天才の、僕の得意分野は……死霊魔法だ!」
そしてオストがその線を捻る様に体へと引き寄せると黒き線は消滅して、それは起こった。
遠くの方から、無数の声が聞こえてくる。よく聞くと、それはアンデッドの叫び声だった。
「流石に不味いぞハルカ……この数は」
視界に入ってきた光景に、レオの言葉に同意するしかなかった。
この王都中の至る所から、次々と出て来ては段々と俺達の方へと向かってくる大量のアンデッド。もうこの町で生きている市民は本当にいるのだろうかと疑う程だった。
目の前の二人を相手にしながら、あの数のアンデッドも相手となると勝てる気が全くしない。
それに加えてオストの背後へと未だに繋がっている一際大きな線。あれは恐らく、先程から動きのない黒き骨の竜へと繋がっているのだろう。
あの竜を呼ばれては、いくら何でも無理だ。
自分の心が少しずつ後ろ向きになりかけた、その時。
何かが俺の傍へと降ってきた。
「今度こそ失わない……せめて、ハルカ様の背中をお守りします」
「貴方が死んでしまうと姫様が悲しむのです。私も共に」
力強い声と共に現れたのは、レウスとロゼリア。
「助かる……心細くて死にそうだった」
自然と零れる笑みに、心はしっかりと前を向いたのを感じる。しかしそれを嘲笑うかの様にオストは声を上げた。
「古びた英雄アリウスと、弱そうな女騎士、それに忌まわしきクリスミナの末裔……これだけの数を相手にたかが三人で何ができる? それにこの国は滅んだも同然だ」
だが、ロゼリアは片頬を吊り上げる様に笑って言った。
「たかが三人? イヴォークを舐めるのも大概にしてもらおう」
「突撃いいいいいッ!」
「「ウォオオオオオオオオ!!」」
それとほぼ同時、城門からの合図とともに雄叫びが上がった。そこから、赤い鎧に身を包んだイヴォークの騎士達が次々と出てくる。
猛然と突撃を始めた赤き軍隊は、そのままアンデッドの群れへと向かって行く。
「それにこの国は滅んでなんかいねぇよ」
すると今度は、気配を全く感じさせずに発せられた声が響いた。それは一瞬のうちに俺達の隣に真っ黒な影として現れた。
よく見るとその腕には、負傷したフロガが抱えられている。
「……忍者?」
「お前、あの時の……」
そうとしか思えない恰好をしていた影は、声からすると男なのだろう。レウスの様子を見る限り面識はあるようだ。
すると隠した口元は恐らく笑っているのだろうが、視線だけをこちらに向けて話し始めた。
「ニンジャという者は知らんが、お会いできて光栄だよクリスミナの王子。それに……今はレウスだっけ? 随分とマシな顔つきになったじゃないか」
レウスがそれを聞いて苦々しい表情を作っている所を見ると、苦手なのだろうか?
しかしその男はお構いなしに続ける。
「王都市民の被害に関しては大丈夫だ。俺達『影』がアンデッドの侵攻ルートと反対側に誘導して安全を確保している。流石に、被害が0とはいかなかったがな」
そしてその影は、姿が段々と見えなくなった。少しだけ魔力の気配を感じたから、魔法の一種なのだろう。
「俺はフロガ王を安全な場所へと連れて行く。すまないがここは任せるぞ」
そう言った男は、気付けば気配すらも無く消えていた。
「全く……無駄な抵抗をするものだな、お前達は」
その顔を歪めるオストは、吐き捨てる様に言った。
そのオストに聞こえない様に、ロゼリアが耳打ちをしてくる。
「ハルカ、姫様が現在『召喚』を起動中です。今はなぜか活動を停止していますが、黒き竜が起き上がる前に私達はこの魔人を」
「なるほど……わかりました」
つまりここが、この戦いの最終局面になるのだろう。
「お前達人類は……どのみち負けだろうがああああっ!!」
「負けられないっ」
衝突するのは青と黒の魔力の奔流。
それは周囲を吹き飛ばさんとする勢いで削り合った。
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