猫の目錠
パン
と軽快な音を立てて目の前が弾けるように拓けた。
今まで私に絡みつくように拡がっていたこの
この荊の森には長い間苦しめられてきた。
これでもうオサラバだ。
私は足早に荊の森を抜けた。
清々しい空気、明るい世界。
なんて素晴らしいんだろう。
大きく深呼吸をすれば、慣れない新鮮な空気に気後れしたのか、盛大に咽せてしまった。
それにしてもこの世界は素晴らしい。
360度、どこを見ても輝いている。
“ニャー”
私はどこからかやってきたこの愛らしい猫を撫でようと手を伸ばす。
“ニャー”
その鳴き声が私の頭に響いた瞬間、
世界は崩れ、真っ暗闇になってしまった。
辺りを見回しても、何も見えない。
いくら待っても、目が慣れることはない。
右も左も、前も後ろも、上と下さえも、自分が今、何をしているのかさえもわからない。
パン
また、あの音。
視界も意識も一気に浮上し、あの素晴らしかった世界が拡がる。
そしてまた猫が鳴いて、世界は崩れ落ちる。
もうかれこれ何度繰り返したことだろうか。
あの素晴らしかった世界さえ、色褪せ、恐怖の対象へと変わってしまった。
あの時、一度だけ、たった一瞬だけでも、振り返ってさえいれば。
あの荊に咲くという美しい白い花に気付けたかもしれない。
今となっては、あの森が恋しい。
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