第38話 悪魔合体恐るべし!!

 いつもの神域へ向かう道中のことであった。


 いよいよ愛の成就したオレちゃんは、一路、愛しのガー様の元へロケットスタートしていた。


 ――はずなのだが、なぜか気が付いたら罠的なものにハマり、逆さ吊りにされている状態なのでした。


 ハハッ、ウケる―。っていうか恥辱ちじょくぅ♡


「おーいイタズラっ子はダレだー? おじさん怒んないから出て来てごらーん? ホントだよー。たーだ軽くぶっ殺がすだけだからーHAHAHAHA!」


「やだこわーい」


「こわーい」


 逆さのまま虚空にメンチを切っていると、子猫のような声がした。


「そ、その声は!」


 振り返ると(振り返れるとは言ってない)、そこにいたのは可憐な幼女の2人組。


 そう、悪魔ちゃんズであった。


 オレはなぜか悪魔ちゃんズの襲撃にあったのである。


 しかし身に覚えが無さすぎる。会うのもなんか久しぶりだし。


「悪魔ちゃん! なんでこんなことをしたんだい!?」


 怒るよ!? いくら悪魔ちゃんでもおじさん怒るよ!? なんならまた関西弁が火を噴くよ!?


「あら。わからないのかしら? むしろ、怒ってるのは私の方なんだけど?」


 悪魔ちゃんは不機嫌そうに腕を組んだ。

 

「えー? オレがなんかしたっていうのん?」


 前もこんなことなかったっけ? やだよもー、幼女は変なことで機嫌を損ねるからおじさんげんなりだよぉ。


「悪いんだけど今度にしてくんない? オレにはガー様といちゃつくという大事な使命があってだね」


「それよ!」


 悪魔ちゃんはズビシ! と指摘してくる。


「なんであなたがあの女神とそんな風になってるのぉ!?」


「あー、ピーちゃんから聞いたのか。てか、そんな風、ってオレとガー様が晴れてステディな関係になったってこと? やだなー、そんなはっきり言われちゃうと恥ずかしいっていうかデヘヘヘヘ」


「いや! もうやめて!! デレデレしてぇ!」


 悪魔ちゃんはンギーッ!! と地団太を踏む。


「なんで悪魔ちゃんがそんなに怒るのさ? ――ハッ! まさか悪魔ちゃんもオレのことを」


「なんで私の眷属なのに、私の許可も得ずにあの神とそんなことになってるのぉ!?」


「――どゆこと?」


 オレは本気で思い悩んだ。


 オレは何時から悪魔ちゃんの眷属になっていたのだろうか?


「色々教えてあげたでしょ!? なんで私に言わないの!?」


 さすがにちょっと事情が見えねぇ。悪魔ちゃんは何に怒っているのだろう?


 わからにゃい! こういう時は人に訊こう。ヘルプや!!


『――妹ちゃん、聞こえていますか? いま、あなたの心に直接呼びかけています』


『――おやつが欲しい』


 こういう時は理解が早いなこの子は。


『――後でホットケーキ焼いたげるから!!』


『――やたー! えーとね、おねー様けっこういういうことあるの』


『――こういうこと?』


『――うん。えっとね。自分の中でアレコレ決めて。それを他のヒトもわかってるだろうっていう、ぜんてー? でうごくの。そのせいで、相手が予想通りにこーどーしないからってね、怒るの』


『――えー、いわゆる『お気持ち勢』じゃないですかヤダー』


『――それでよくケンカしてるよ』


 脳内通信終了。


 ワァオ。ワァーオ。マジかよ悪魔ちゃん。


 あれか、自分の中での決定事項は、察することができるはずだ、というはた迷惑な前提で動いちゃうヒトなわけか。


 つまり、悪魔ちゃんの中では、魔法のコツを教えたりして面倒を見てやっていたオレが、悪魔ちゃんにおうかがいも立てずにいたことを怒っている――わけか。

 

「まぁいいわ。とにかく、あなたは魔界に連れていくことにするわ。――うれしいでしょ? 特別にあなたも悪魔にしてあげる♡」


 なんだろう? 似たようなセリフを最近聞いたような気がする……。


「えー、大変ありがたいお申し出なのですが、丁重にお断りさせて」


「やめて! なんなの、もう!」


「だってオレ、ガー様のことが好きだし」


「そういうのもやめて! だって、それじゃ私が負けたみたいじゃない! ニムブス上がりの神なんかに! 人間への誘惑で!」


 あ、そういう理解なのね? 


「いやね、誘惑っていうか、もっと叙情じょじょう的な、というか。もっとふわっとして、甘くて、あったかいやつがね? オレとガー様の間にはあるわけで」


「なによそれ?」


「なんかおいしそう」


 うーむ、幼女だからなのか悪魔だからなのか、なんというか説明しにくい。


 というか説明させられるのが辛い!


 こんな事自分で子供に説明するのマジで羞恥しゅうちなんですけどぉ!!


「……いいわ。無理やり連れて行ってもいいけど、問題になってもよくないからあなたの要求を聞くわ。私のどこがあの下等種族上がりの女神に劣ってるっていうの?」


 ちなみにこの質問は、本当にオレの要求を聞く気があるわけじゃなくて、自分のお気持ちを察して、自分が言ってほしい言葉を探れというメッセージなわけだ。


 そらぁ友達に煙たがられるよ悪魔ちゃん。正直面倒だもの。


 しかし、ここで答えを間違えればマジでやばいことにもなりかねん。


 ここは慎重に答えねば。えーと、悪魔ちゃんに足りないものではなく……足りないもの……足りないものねぇ。


「えーと、おっぱい?」


 よく吟味ぎんみして答えようと思ったが、と言われて、思わず答えてしまった!


 まずい! 殺される!


「――――あら、そんなことでいいのね?」


 しかし、予想に反して悪魔ちゃんは余裕でほくそ笑む。あれ!? 正解だったの!?


「そのぐらい、こっちも予想しているのよ。――やるわよ!」


「あーい」


 悪魔ちゃんが妹ちゃんに呼びかける。


 2人は並び立ち、互いに手を合わせて、精神を集中するようなそぶりを見せる。


 ――――なにが始まるんです?


「合!」


「たーい!」


 合体!? 耳をうたがう掛け声とともに悪魔ちゃんズは光に包まれ、次の瞬間には!


「うそーん……」


 幼女ではなく、ハイティーン程度にまで成長した悪魔ちゃんことブラッド・ターコイズの悪魔の姿があったのだ。


「やった! 成功!! 視点が高ーい」


 パッと見、高校生くらいであろうか。


 とんでもない美少女が現れたわけなのだが、あまりのことに脳が追い着いて行かない。


「――そんな機能あったの!? 生物としてどうなのそれェ!?」


「そりゃあ、合体くらいするわよ。悪魔合体って言うでしょ?」


「それってそう言う意味だっけ!?」


 つーかどういう構造してんだよ。やっぱこの子ら生き物なんじゃなくて、兵器か何かに女の子のガワをかぶせてあるだけなんじゃなかろうか……。


「さぁ、これで文句はないでしょ? 私の眷属になって忠誠を誓うのよ!」


 言って、お年頃と化した悪魔ちゃんは逆さ吊りのままのオレに抱き着いてくる。


 ああ、懐かしい。最初に出会った時の抱き着かれたっけなぁ。


 しかも、今はあの時には感じなかった、確かなふくらみの感触があるのだ!


「いやでも、これで軍門に下るわけにはいかんなぁ……」


 しかしオレの返答はNOだった。


「な、なんでよ!? ――大きくなったでしょう!?」


 残念だが、理由は一つだよ悪魔ちゃん。


「いやだって、ガー様はこの5倍はあるし……」


 そう、確かに先ほどに比べれば立派なお胸になったものだが、それでも所詮は手のひらサイズ! 


 身体そのものも中高生程度の体格でしかないのだ。


 しかも華奢でやせ型!


 ガー様も細っこいが、お肉の付き方は大人の女なわけである。


 いい歳(?)したおじさんとしてはちょっと物足りないよねぇ? 


「……」


 ハイティーン悪魔ちゃんは無言のまま、オレに抱き着く腕を締め上げてくる。


「あだだだだだだだだだッ! 待って悪魔ちゃん! パワー押さえて! パワー上がってるから! シャレにならないぐらい強化されてるから!」


 文字通り、耐え難い腕力である。


 予想はついていたが、合体した以上その力は2倍ではなく5倍、10倍にまで強化されるということなのか!


 恐るべし! 悪魔合体恐るべし!!


「……うひとり」


「やめるんだ悪魔ちゃん! 暴力では何も解決しな……なに?」


 ハイティーン悪魔ちゃんはつぶやく。


「もう1人……もう1人いれば……3体悪魔合体なら、もっと大人になれたのにぃ!」


 だからどういうシステムなんだよ……。


「もう1人って、ピーちゃん?」


「あいつは系統が違うからダメよ……。だから、みんなに声をかけたのに。なのに、誰も来てくれない……」


 そう言って、ハイティーン悪魔ちゃんは崩れ落ちた。


「その上……あなたまで勝手するんだもん……もうどうしていいかわかんない」


 そう言って悪魔ちゃんはぽろぽろと涙をこぼしてしまった。


「そんな、泣かないで悪魔ちゃん」


「違うわ。合体すると情緒が不安定になるだけ!」


 システム不具合出てんぞ! 誰だよこの子ら造ったの!


「そんな深刻に考えなくていいって。今まで通りだからさ。また魔法とか教えてよ」


「でも、あなたも神になるんでしょ?」


「いや、そんなつもりはないですけど?」


 少なくとも今んとこね?


「じゃあ、何が変わったの?」


「う、う~ん!?」


 そう言われるとなかなか答えづらい。


「あの女に逆らえなくなるんでしょ? 私と会っていいの?」


「あ、そういうのはないよ? 全然」


 うん。全然逆らうと思うよ?


「ホント?」


「ホントホント。マジで。誓います。オレは今まで通りです。――ただ、ガー様がもっと好きになったってだけで」


「前から好き好き言ってたじゃない。よくわかんない……」


 うーむ、このまんまってのもアレかな。


「別にいいんじゃない?」


 オレはしょんぼりする悪魔ちゃんに、改めて声をかける。


「……なにが?」


「別にわかんなくてもいいんじゃないかなって。他人なんてわかんないもんだし。他人だってこっちのことなんかわかってないって」


「だって、私は万能型の悪魔だもの。わからないままじゃ、何をしていいのかわからない」


 よー分からんが、悪魔にもいろいろあるらしい。


「なら、とりあえず今はオレと一緒に行こう」


「どこへ?」


「ガー様のとこ。いっしょにホットケーキを食べよう」


「なんで?」


「オレには君にホットケーキを食わせる義務があるからさ」


「わけがわかんない……」


「いらない?」


「いるけど」


「じゃあ行こう」


 というわけで、オレは悪魔ちゃんをいざなってガー様のもとへ向かった。


 ちなみにガー様も悪魔合体のことは知らなかったらしく、驚愕していた。


 そりゃあ驚くよなぁ。


 ……いや、やっぱ合体はおかしくないか!?







 


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