第37話 モチ子の告白 「アタイ、あんたのことが好き」(後編)
いつの間にかガー様のとなりにピンクの髪の幼女、ピーちゃんがちょこりと座っていた。
なんてことだ! この状況でさらに悪魔まで集まってくるとは!
しかもこの流れだと……ピーちゃんまでもがオレに告白するというやつなのでは!?
「いえ、そーいうのではないです」
思考を読まれた! 恥ずかしい!
「なんだいこの子は」
「あーいえ……そのぉ」
モチ子もいきなり現れたピーちゃんをいぶかし気に見る。
さてなんと説明したものか。オレへの告白とかじゃないとすると、たぶんピーちゃんの狙いは……。
「ただの悪魔です。本来はあなたに用があったのですが、お取込み中だったようなので、おとなしくしておきますので」
「悪魔がアタイに……?」
平素なまま、ピーちゃんはモチ子に言う。――しかしオレにはわかる。その、むぼっとした死んだような目の奥では、極上の乳を前にした歓喜が燃え盛っている!
おっぱいハンターであるピーちゃんはいよいよ本丸を攻めに来たのだ!
「ははぁん。……アンタだね、最近、あちこちでイタズラして回ってるってェ悪魔は」
モチ子も事情を察したらしく、愛用の
「いつか来るとは思ってたよ、アタイのとこにもね」
んも~、ピーちゃんたらタイミングが悪い!
「ピーちゃんピーちゃん、なんで今日きちゃったの!?」
オレは12枚もあるというピーちゃんの耳元で耳打ちをする。くらえ! ウィスパー・ボイス!!
「(無視して)アナタが張っていた結界が根こそぎなくなっていたので、確認ついでにきたのです。思ったよりも元気そうでよかったです」
あ、そーいうことか。
「なんだいその結界ってのは」
「んー、えーっとねー」
「この人は私があなたに近づけないように、神界の要所に結界を張ってあったのです。それがいきなり消えたので」
「はぁ!?」
どうやら、前回オレがガー様にアレコレされたせいでオレが維持してた結界も丸ごと消えちまったってことらしい。
「それで心配してきてくれたのか。ありがとねピーちゃん♡」
「礼ならおっぱいで返してください。――チラッ」
わかった。今度手ごろなやつを見繕っておこう。――って、
「ダメだピーちゃん! それはだめだ!」
ピーちゃんは横で申し訳なさそうにしているガー様を見るのだが、その人は予想以上に危険なものだから触れてはならぬ!!
「……そのようですね。難儀な話です」
いろいろすまんねマイフレンド。
「ちょっと待ちな!」
そこで、しばし唖然としていたモチ子が声を上げる。
「じゃあ何かい、あんた――アタイにその悪魔が近づかないようにて、ま、守ってたとでもいうのかい!?」
「あー、てゆーかね」
しかし、モチ子は返答も聞かずに、ドカンと床に杵を振り下ろした。
「んもぉ!! ひ、ひとのこと影から守ってんじゃないよ! んもぅ! 好きぃ!!」
モチ子は一人で地団駄している。――というかあまり床を突っつくな。モチになっちゃう!
「で、どーするんですか?」
ピーちゃんに問われる。
どーするっつってもなぁ。いや、ピーちゃんを近づけないようにしてたのは、なんかやらかした場合オレの責任問題になってまたモチされるかと思ったからなんだけど。
でも今なに言っても聞きそうにねぇなこのデカ女は。
「もう決めた! 絶対連れてく!」
「ってもなぁ――ってアブね!!」
言うな否や、モチ子は鼻息も荒くキネを突き出してくる。
「なにすんだ! まだお返事してないでしょうが!」
「答えんのが遅いのが悪い! だからアタイのことも好きだと見なす! アタイはもう決めたんだ! モチにしてでも連れてく!」
結局モチにされんのかよ!? もう嫌だっつーの!
「――――なにッ!?」
しかし、オレは突き出された杵を打ち返す。
さらに、周囲からもモチが襲いかかってくる。
「悪ぃな、対策はしてあるんだ」
オレは新たに手に取った獲物でそのモチを吸い込んだ。
「な、なんだぃその得物は――」
こいつは、こんなこともあろうかと手に入れてあったマジックアイテム! その名も、
「……『神のホットサンドプレート』ですねそれは」
後ろからピーちゃんが解説してくれる。ありがとうよフレンド!
ホットサンドプレート。よくツイッターなんかに流れてくる飯テロ動画に使用される器具である。
要するに、これに食パンと具材をサンドし、両面を火であぶればあっという間にホットサンドができるという優れものよ!
その頂点に立つマジックアイテムであるこの『神のホットサンドプレート』はどんなものでもパンとパンの間に挟み込み、自動で熱してホットサンドにすることができるのだ。
ちなみにパンの部分はいくらでも供給される。
先ほどオレを捕らえんとして襲いかかってきたモチはパンとパンの間にサンドされ、おいしいホットサンドに早変わりしたというわけだ。
「あきらめるんだな。もはやモチでオレを捕まえることは不可能」
「――なにくそ!」
さらにモチ子は周囲をモチに変えてオレを包囲しようとするが、それはその都度モチをサンドしてホットする!
そしてガション! とまた新たなホットサンドが排出される。
「こんな事でアタイが完封されるなんて……」
残念だったな。食材である以上、この神器の前ではサンドされるのみ!
「……外はサクサク。中はもっちもちですね。美味」
「おいひぃ……」
そして背後からはサクサクという音が聞こえてくる。
「食ってんじゃねーよぉ!!」
オレが輩出したホットサンドはピーちゃんに回収されていたらしく、ガー様のお皿に盛られてしまっている!
ねぇ、緊張感て知ってる?
「でも熱いうちに食べないと……」
「いきなり調理を始めたことにも責任はあると思いますよフレンド」
そんなこと言われても相手がモチだとどーしてもこうなるというか……。
「――くそぉ!」
モチ子はキネをふるってオレに打ちかかってくるが、ホットサンドプレートはこれをも受け止める。鈍器としても優秀! ヤッタね!
オレ達は幾重にも打ち合い――そして、モチ子はしおれるように座り込んだ。
「なにが、嫌だってんだよぉ……」
モチ子が言う。若干涙目だ。――泣くのは卑怯だろお前!
「わりーけど……やっぱオレはまだ転生者続けるよ」
ここでゴチャゴチャ言ってもアレなので結論だけ告げるが、モチ子は顔をクシャっとさせてオレを見た後、視線をひるがえした。
その先には――まだホットサンドをサクサクしている女神の姿がある。
「先輩はどーなんですか!?」
「むぐッ!!」
いきなり話を振られて、ガー様はむせる。
いやホントだよアンタ。当事者のくせに静かにしすぎだろ。あとサクサクしすぎ!
「わ、私には何を言う資格も……」
「そうだな。オレが心を決めても、ガー様がイヤだっていうなら、どのみち続けられねぇわけだし」
「……………」
場が静まり返る。
「結局、あなた次第なようですよ? ここで本音を言わないと、全員不幸になるのでは?」
この場で唯一当事者ではないピーちゃんが進行してくれる。有能だぜマイフレンド!
「…………私は、自分の生まれや種族、育った環境、そして本性。すべてのものが嫌いです」
すると、唐突にガー様はそんなことを言った。
「だから、私は神になったんです。神になれば――そういうものを無かったことにできると。でも、無理でした」
そしてホットサンドを置いて、身を正す。
「私は神をやめるつもりです。――後のことはわかりませんが、もう誰とも会うつもりはありません」
「――」
そうか。だからずっと静かにしてたのかこの人は。
「じゃ、オレも転生者をつづける意味はねぇな」
「なら、アタイと――」
「一緒に行くよ」
オレはモチ子ではなくガー様に向けて、まっすぐに言う。
「――それじゃ、意味がないです。また、」
またあなたを殺してしまう、と、声にならない声が続く。
「何とかするさ」
オレは極めて明るく言った。
「要するに、オレの
「……なんでそういう発想になるんでしょうか?」
ピーちゃんが言った。なにか問題でもあるのかいフレンド。
「……まぁ、できないとは断言できませんけど」
だべ? なら、あとは頑張るだけさ。今まで通りだ。
もともとニンジャも倒すつもりでいたしな。うん。変わらん。
「そうすりゃガー様も、自分のこと嫌いだなんてふざけたこと言えなくなるからな」
オレは椅子の上でうなだれたままのガー様に視線を合わせる。
「だからさ、これからもオレの女神様でいてくれよ」
ガー様は何も言わない。
はいとも、いいえ、とも。
「――――ズルい」
そこで声を上げたのは、モチ子のほうだった。
さーてやばいぞ。
「アンタいっつもそれだよ! そんなこと言ったら、誰だって引き留めるにきまってんだよ!」
モチ子は叫ぶ。しかし、この場にその意見に恭順する者はいない。
すると、モチ子は改めてぶわっと涙をこぼした。
「心配して……心配して言ってんのに……う……うぐッ………………うわあああああぁぁぁぁぁ……ぅがああああああぁぁぁぁぁ!!!」
モチ子は泣きながら走りさっていった。
悪いことしちゃったかなー。にしても「うがー」はねぇだろ。
「ピーちゃんごめん。フォローしてやってくんない?」
「初対面の相手に言うことではないですね。……まー揉んでもいいなら何とかしましょう」
ピーちゃんはワキワキしながら言う。よけい怒らせることになんねーかな?
「ほ、ほどほどにね?」
「承知しました。ではでは~」
ピーちゃんはぺたぺたとモチ子を追った。
不安だ、いろいろと。
だが、オレにはこの後ガー様を抱きしめて愛をささやくという、決死のチャレンジが待っている!
イヤね? ここまで決めた以上。それぐらいやっとかねーと締まらんでしょろいろいろと。
「じゃ、ガー様……」
オレはガー様に近づく。人払いは済ませた。あとはなんかこー、うまいことやってチッスの一つくらいはしてもらってもいいと思うんだけど……。
「はい……」
ガー様も頬を染めて顔を上げる。いよいよか。今度こそ死なないようにしないと。
「では転生の前に、片づけを手伝ってください」
静かに盛り上がるオレに、ガー様はそんなことを言いましたとさ♡
「え? どゆこと?」
「見てのとおりです。あの子が大半をオモチにしてしまったので、修繕しないと」
確かに、このオフィスは見るも無残なことになっているのだが……
だが……だが――だがなんか、なんかないんですか!?
「いやひどくない!? もっとこう、『私も好きよ』的な」
「……そうなると止まる自信がないので」
おうふ……。
「じゃ、じゃあどこまで行けるのかと試してみません?」
「……いいんですか?」
すると、空気が一気にしっとりとにじみ始めた。
――あ、ダメなやつだこれ。思いのほか発情してらっしゃる。
「い、いえその、じゃあまずは手を握るところからはじめ――」
次の瞬間、オレにも反応しきれない動きで抱き着いてきたガー様は、オレの唇を奪った。
オレの意識は、その時点でまた消失した。
――――さ、先が思いやられるぅ♡
完
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