第33話 モフの恩返し。薬物ダメ、ゼッタイ(後編)
「まー冗談だ冗談。問題がないならいいって。――それよりもな」
しばらく格闘した後で、モフ夫も刃物を収めた。
ふー、危ない危ない。
「今度は何だッ。じっとしてられんのかお前は」
「いや、これをやろうかと。異世界土産だよ。土産」
お前のためにわざわざ持ってきたんやぞ?
「こ、これは!」
モフ夫は目を剥いた。
そう、先ほど取り上げられそうになっていたニムブス界からのお土産!
その名も「ケミカル・イヌマン」だ!
イヌマンとは!
要するにマタタビの犬バージョンのヤツである。(ただし、植物ではなく一種のミミズを干してニムブス達のアレな技術で精製したものらしい)
獣人にはたまらん代物だというので、せっかく結ばれた二人のためにと買ってきたのだが、さて……。
「こ、こんなものを!? ふざけるな!」
「安心しろ! 合法のヤツだから!」
「そのセリフでホントに安心するやつがいるか!」
モフ夫はなかなかいうことを聞かない。
くそ! 人の好意を素直に受け取ればいいものを……。
いや落ち着け。オレは効果を試したいだけなんだ!
「そう言うなって。気が向いたら嫁と楽しめばいいだけのこと……」
「ふざけるな! そんな……そん、なも、の……?」
すると、モフ夫は腰砕けに椅子からずり落ちた。
「ほほう……なかなかの効果だ」
「バカな……いつの間に」
「あのバーベキューセットよ! ただ出しっぱなしにしたわけではなく、ひそかに火を入れ、こいつを焚いていたのさ!」
どうせ素直には受け取らんと思ったので、最初から効果を試す気でいたのさ。
オレはやると決めたらやる男なのさ!!
というわけで、今この空間はケミカルに精製されたイヌマンの香りで満ちているのだ。
ククク、なんと香しい……――っていうか普通にくせーなおい。
こんなんでモフはほんとに酔っぱらうのだろうか?
「……うぐ。むむむ。わふぅ~ん……」
あ、酔っぱらった。
モフ夫は腰砕けに床に這いつくばり、とろんとした目で身体をよじっている。
やだエロい!! こうかは ばつぐんだ!
「くそう……こんな事をして……ただで、しゅむとぉ……」
モフ夫はそれでもまだオレをにらみつけてくる。
「なぁに。すべては良かれと思ってのことよ。あとあと嫁ととともに楽しむがいい。……ただし!」
オレは小柄なモフ夫の体を抱き上げ、仰向けに横たえる。
「それはオレとの臨床試験(?)を経たうえでのことだがなぁ!!」
「バ……バカな! 今、私は男なんだぞ!?」
「笑止! 問題ないカワイイならば男でも問題ない。なぜなら、このためにカワイイまま男性化したのだからな!」
すべては計算通りよ! ククク、ちょっとだけ火遊びしょうぜ♡
「なんて奴だ……。変態め!」
「なんとでもいうがいい。――幾度となく繰り返された「おちんちんランドへの転生」それにともなう幾たびの夜が、オレを鍛え上げたのだ!」
「…………」
「いや、そんな可哀想なものを見る目を向けるな!」
好きで行ったわけじゃないからな! 言っとくけど!
「くそぅ、……こんなもので過ちを犯すわけには……それに、私は狼だ。犬ではないぃ……」
這いずるようにして逃げようとするモフ夫だが、体の自由が利かないようで、まるで意味がない。
気丈だのう、気丈だのぅ。だがそれは逆効果というものよ。
「クケケケ。我慢することはない。お前に、本物の男子の法悦というものを教えてやろう。さぁ、おなかを見せて服従のポーズをとり、きゃううぅうん♡ と鳴くのだ!!」
「く、だれが……」
「抵抗は無駄だぞ♡」
オレは、熱を持ってしまっているモフの身体の各所をつんつんする。
「きゃうん♡ ……あぁ……。くぅ♡……そんな……はぅぅ♡」
ぐふふ。気分を出しおって!
さて、本来はいたずらで済ます気だったのだが、なんだか行くとこまで行きたいような気分になってきたな。
さて、行ってしまっていいのものなのだろうか? まぁ男同士だし浮気にはならんだろう。多分。
「――はッ!?」
そこで、オレは気づいた。――殺気!
「イヤーッ!」
オレはすぐさま飛び退った。
間一髪!
「イヤーじゃありません」
「グワーッ!!」
戻ってきたガー様でした。クソー! なにげにスニーク力高けぇんだよなこのヒト!
というわけでオレはデカい七輪に押しつぶされてしまいました。
つかぜんぜん間一髪じゃねーでやんの。ウケるw
というか、なんだこれは!
「う、動かせん!? 200万馬力を誇るこのオレが!?」
「神にしか扱えない大七輪です。いくら怪力でもあなたには動かせませんよ」
まじかよ。じゃあガー様しか動かせないじゃんこれ。
「何をなさる!? てかひどいじゃないですか」
ガー様のこと待ってたのに。
「なにをしてるはこっちのセリフです! ――大丈夫ですか!?」
「うう……わふぅ……も、申し訳ない」
ガー様は床にへたりこんでしまっているモフ夫を抱き起こした。
「まさか薬物を使用するとは……」
あらー、やべーなガー様マジで怒ってんじゃん。
「いえ、でもですね? これも合法の代物だし、マタタビみたいなものって聞いたんですけど……依存症もないって聞いたし」
「よくわからないものをわからないまま使うんじゃありません! どんなものでも精製されたものは依存しやすくなってしまうんです! 砂糖ですらそうなのですから!!」
ガー様はますます険しい顔でモフ夫を抱きしめた。
「わふぅ…………」
――チ、そんなに怒んなくてもいいじゃん!
「てゆーかずるいぞ! どさくさに紛れてモフモフして!」
オレのモフモフやぞ!
「バカなことをいうんじゃありません。――すぐ水を持ってきます」
と、モフ夫をやさしくモフモフして立ち上がろうとしたガー様に、その時、当のモフ夫が飛びかかった。
「きゃあ!」
「わふぅぅぅぅ♡ ハフ♡ ワッフ♡ わふぅぅぅぅん♡♡」
そして、ガー様を床に押し倒し、胸元へ顔を、そして下半身をガー様の美脚へと擦り付けている。
あー、これは完全に発情してますわ。
「なにを――い、いけません!」
ちょっとガー様もうかつだったねぇこれは。
今モフ夫は性的趣向も男のそれになってるんだから、酩酊してるところをガー様に密着されたら、そりゃあタガが外れちまうってもんだわな。
「あ、ダメです! そんなことをしては……あ、あなたには奥様が」
「も、申し訳ない。しか、しかし、と、止まらない……止められない……あなたが、あなたがそんなに、そんなにぃぃぃ!!」
杖もなしではどうにもできないようで、ガー様はなすがままだ。
「いけません……いけません! 本当に……あぁ……ダメ、ああぁ……♡」
そーいや、さっきのモフ夫のガー様を見る目は、妙に熱かったもんなぁ。
いやー、みんながみんなうかつだったねぇ、今回の件に対しては。
「いーから、助けなさい!!」
ガー様がオレに対して叫んだ。
お、そうだな。
「っても、今オレ動けないんだよねぇ」
助けたい――というか混ざりたいのは山々なんだけど、マジでこの七輪が重くて動けんのだ。
「な、――なら、っっふぅ♡ ――なら、あ♡ だ、誰かに助けを……連絡を取って……」
それなんだけどねぇ。
この状態で誰かを呼んじゃうと、それはそれで問題なんだよなぁ。
なにせモフ夫が加害者的なことになってしまうし。
それで仮におとがめがなくても、カルラには知られてしまうだろう。理由は何であれ、カルラから見れば浮気になってしまうかもしれん。
せっかくくっつけたのを引き裂くのはしのびねぇし。何よりもその場合オレは確実に死ぬことになるだろう。二度と転生できないレベルで。
「オレにはできることがないようです。モフのためにも、オレにできるのはこの現場を撮影する事だけ」
オレは無力感にさいなまれながらカメラを構えた。クソ! なんて悲しいんだ!! 興奮するぅ♡
「他になんとでも……――――あ♡ ダ、ダメです! それだけは……」
おおっと、ここでモフ夫が大胆な行動に出た!
詳しくは書けないが、これ以上はまずい! 本当にまずい!
しかし、オレには撮影以上の自由がない!
なんということだ! 愛するガー様が、オレ以外の男に組み敷かれて、あろうことか――ああ、そんなことまで!!
しかもすべてをオレがモフを男に変えて、しかもイヌマンをけしかけたためなのだ!
まさかガチでこんなシチュエーションを体験することになろうとは思わなかった。
うーむ。そろそろマジでなんとかせねばならなんのだが、マジで動けない上に、急性NTRショックで脳がおかしくなりそうだ!
性欲をコントロールする術を見につけていなければ、今頃憤死していたことだろう――ハッ!! そうだ!
「ぅぅぅぅぅううう……はふぅ♡ きゅぅぅぅん♡♡♡」
「つ、つらいですか? ――仕方ありません。こうなったら……」
「おおっと! その必要はねーぜガー様!」
オレはなんか決定的なことになりかけていたモフを抱き上げ、お湯を張ったバスタブに投げ込んだ。
――これで正気に戻るだろう。
ふー、危なかった。
「ど、どーやって七輪を……」
「性欲ですよ!」
「はぁ?」
「そう! 今の情事を見せつけられて最高に高ぶっていた性欲を、逆にゼロにするまでコントロールすることで、覚りの境地へ限りなく近づくことができたのです!! ――すなわち、今のオレはほとんどブッダ!!」
ならば神にしか持ち上げられぬという七輪も持ち上げられぬ道理がない!
「いやぁ、うまくいきましたよ。よかったですねガー様、最後の一線は何とか守っ」
次の瞬間、オレはガー様の杖でぶったたかれた。
近年まれに見るほどに、容赦のない一撃であった。
その後、正気に戻ったモフ夫は、あらん限りにガー様へ頭を下げまくったのち、帰って行った。
で、オレはだいぶボコられた。二人がかりで。もー無言で執拗にボコられた。
うーむ。本気で良かれと思ってのことだったんだけど、無駄だと思ったんで抵抗はしないでおいた。
どこで間違えたんだろう?
今も首から下を床に埋められている。気持ちはわかるけど二人ともやりすぎじゃないです?
「ドングリは美味いですか? ガー様」
「ええ、とても」
とは言いながらガー様はいまだに不機嫌そうな顔を崩さない。
今回は重傷だなぁ。ほんとにどこで間違えたんだ。
「えへへ。そ、それじゃあ次の転生先の話なんですけど……」
「それは私が独断で決めます! 特に、ニムブスには、絶対! 金輪際! 近づかないようにしてください。いいですね? 最後通告ですよ」
「うへぇ~い」
マジでキレてんなぁ今回は。
さすがにやりすぎたぁ。
……しかし、少々疑問も残るんだよなぁ。
ガー様、妙に詳しくないか? ニムブスのこととか、薬のこととか。
なーんか隠してるっぽくない?
「なにか言いたいことでも!?」
「ひぃ! な、なにもありません!」
とにかく、しばらくはおとなしくしてた方がよさそうだ。
完
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