第4話 恩恵
雨が降ってきた。最初は体から流れ落ちるほどであったが、今では肌を多少濡らすていどだ。長い時間、振り続けている雨はあまり見られない景色を見せた。
一凛の花の上に落ちた雫が弾けた。雫が見せる様々な動きに目を凝らすと、溜まったり、弾けたり、流れたり。晴れている日には見られない不思議な動きを見にすることが出来た。
「おもしろいなぁ」
「なかなか降らないものね」
そう一言話すと、すぐに黙った。
この音の中で喋るのが勿体ないと思ったからだ。耳を澄ますと、葉っぱに当たる音が聞こえた。まるでそれが会話しているようで可愛かった。
彼女も微笑みながらその音に耳を澄ましていた。なんだか、二人でこうやって同じ音を聞いているのが楽しかった。
「でも、そろそろ日が見たいかな……」
「そんなこと言わないであげてよ」
彼女がむっとした顔をした。彼女の言葉にまるで答えるかのように雨が止んだ。徐々に雲が避け始め日が入り込んでくる。
「ほら、拗ねてしまったわ」
雨は、また来てくれるだろうか。
「見て……」
日が雫に反射して、島が光っているように見える。細い光が何本も目に届いた。花は凛と茎と花びらを伸ばしていた。
雨が残した綺麗な光に息を飲む。俺が日を見たいっと言ったからだろう。
「大丈夫よ。拗ねてはいないは。こんなにも素敵なものを置いていってくれるのだもの」
彼女はそういうと膝を頬の支えにして眠り始めた。きっと、雨に打たれて疲れたのだろう。日に照らされたその光景を見た俺は、素直に綺麗だと思ってしまった。
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