第8話 起源
「なぁ」
寝ることに飽きたのか女は、風にたなびく草の姿を目にしていた。目の奥で緑が踊っている。静かに微笑み細める目には優しさが籠っていた。
「なに?」
寝起きでないからか、ずいぶんと機嫌の良い返事が返ってきた。
「俺たちって何処から来たんだろうな?」
気づいた頃にはここに居た。どれだけの時間を、この雲を草を木を女を見ることに費やしてきただろうか。短くは無かったが、決して長くもない時間だった。
「さあ、もしかしたらここで生まれたのかもしれないわね」
「ここでか?」
女はゆっくりと頷く。その光景を想像する為に二人は目を閉じた。
「体を良く触ってみて……。固い部分があるでしょ?そこは、この木から出来たの。そして、柔らかい部分。ここは土からね。きっとふかふかな土から出来たから柔らかいのよ。そして髪の毛。これは風からよ。風が吹くと嬉しそうに一緒に流れるから」
「そういうものなのかな……」
俺の納得いってない様子に、女は片手をひらひらとさせて小さく笑った。
「さぁ?実際はどうか分からないわ。貴方がそういうことで迷っているなら自分の中で納得出来る答えを作っちゃえばいいのよ。正解である必要はないと思うの」
女は語る。それが自分の中での答えなのだろう。嬉しそうに木に指を滑らした。真似て木に触れた。枝が揺れると、まるで鼓動しているかの様だった。
自分がこの島の一部のような気がした。
「良いね。その考え。もらった」
女の色素の薄い目が俺を捉える。初めてこんなにもまっすぐ見られた木がした。勿体ない木もしたが、気恥ずかしくなってその場に寝転んだ。島の一部として体が溶けて行くようだった。木の固い一部になり、土の柔らかさを感じ、風に流れる。
あぁ、気持ち良い……。
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