第7話 食む草の痛み

闇に光が入り始めた。隙間を縫って入って来る光を受け入れようと目を開ける。ゆったりと二つの雲が付かず離れず流れてゆく。

 目覚めた時間が悪かったのか、視界の先に日があった。焼かれた目に痛みを覚え、手を頭に添える。耐えるように歯を食いしばった時、なんとも言えない懐かしい感覚があった。

 その感覚を味わうかのように歯に力を入れては抜いてを繰り返した。手元にあった草を根元から抜いた。

 きっと、噛み締める度に青臭い苦みが広がるのだろう。体の一部がようやく働ける、忘れられて無かったと歓喜に震えているのが分かった。口元まで運んで食べようとした時。

「何をしているの?」

 突然の呼びかけに肩を震わせた。女からは話しかけてくるなんて珍しい。目が合うと女の感情が見て取れた。

 細かった目は鋭く尖っていた。突き刺さんとばかりに睨んでいる。

「えっと、何か食べてみたくて」

 突然、草を食べ始めたことろを見られていたとしたら恥ずかしかった。一度見られたのなら、もはや、同じだろうと思い口の中に入れようとした。

 女は、静かにそして冷たい質感を持って呟いた。

「この島の上に居るのは、私と貴方と花だけじゃないわ」

はっと手を止めた。

 女はまた目を閉じた。

 風が草木を揺らした。さー、と擦れ合う音が耳に心地よく入り込んでくる。手の中にある草を見た。ぐったりとしなんだ草からは少しの音も聞こえない。

 抜いた場所に丁寧に戻した。根に柔らかな土を掛けてゆく。もう一度風が通った時、弱々しくだが嬉しそうに他の草と擦れ合った。

 女が目を閉じたまま呟く。

「貴方のそういうところ嫌いじゃないわ……」

 女は軽く微笑むと安心したかのように眠りについた。女と草を交互に見ると小さく呟く。

「すまなかった……」

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