『迷宮職場』 

やましん(テンパー)

『迷宮職場』

これは、すべてフィクションであります。


この世とは、一切関係ありません。






 ある日の午後、正確に言うと、正午の30分。


 我が職場ビルは、迷宮化したのであります。


 しかも、刻々と様相が変わる!


 まず、社長室が、玄関の真ん前に、現れたのだ!


 お客様は、最初から、社長室に直面します。


 困ったことに、受付も、エレベーターホールも、行方不明です。


 秘書長さんが、社長から鍵を貰って、恐る恐る奥のドアを開けると、そこに階段がありました。


 本来は、社長室は、22階のはずです。


 その上は、展望会議室であり、場合によっては、パーティー会場にもなります。


 さらのその上は、通常は屋上で、社長専用の高級空中自動車の発着場に、なっていました。


 社長室のドアの向こうは、社長さんのシークレット・ルームがあるはずです。


 はず、というのは、ご本と、ごく少数の人しか入ったことがないからです。


 なにがあるのか?


 謎でした。


 でも、いま、そこは『階段』でした。


 さて、秘書長さんは、遥か上方に続いている、その階段を見上げました。


 それから、『行って参ります!』と、古風な敬礼をして、去って行ったのです。


 それで、彼は、もう、夕方まで、二度と帰って来ませんでした。


 お客様の受付は、次席秘書さんが行うことになりました。


 普段は、社員に威張りくさっている、やなやつです。


 社長のいとこさん、らしいですが。


 受付なんか、やったこともない。


 おまけに、いま、なにがどこにあるのかが、わからない。



 お客様が、現れました。


『開発室に用事なんですが。あら、どうなってるの? ここ?』


 新規お得意先の、超大企業の部長さんです。


『ああ、おまちを。きみ! 開発室は、どこに行った?』


『そおれが、また行方不明です。さっきまで、連絡取れてたのですが。いまはダメです。』


 社長室の電話も、なりっぱなしです。


 電話回線自体も、大混乱に陥っているようでした。


 みな、自分たちがどこにいるんだかも、判らない状態です。


 窓際でも、外の景色は、まるで、見たこともない場所でした。


『社長さん、じゃあ、あなた聞いてくださいよ。クレームなんだから。このテレパシー会話のパソコンが、いたずらするんだ。そんな話はないだろう!、というようなことを、勝手に捏造したり、超常・異常現象が起こるんだ。おかげで、契約がごみになり、大損害が出た。保証したまえ!』


 わが社が開発販売した、最新型の超小型コンピューター『プチ・アニーさん』のことです。


 手のひらサイズのコンピューターなのに、メガ・コンピューターに匹敵する能力があるのです。


『あ、え? いやあ、それはまずは、担当者からでないとですなあ。』


『じゃあ、早く案内してください。ここは、いったい、どうなってるの? 社長室が入り口にあるのは斬新だが、話にならなきゃ意味がないだろ。え?エレベーターはどこ?』


『あの、階段ならば・・・・』


『ああ、階段でもロープでも良い。わたしは、自衛軍出身なんだから。』


『ひぇ!』


 お付きのひ弱そうな人が、小さく叫びました。


 そこに、昼食を、いきつけの『ばくだん食堂』で食べたぼくは、ぶらぶらと、歩いて本社に帰ってきました。


 あの、テレパシー対話型の超小型パソコンは、ぼくが開発したのです。


 従来のパソコンとは、基本的な概念が違います。


 まあ、実のところは、開発したというか、たまたまお知り合いになった宇宙人さんというか、その子分と言うか、から、その作り方を教えてもらったのですが。


 人工生命体『アニーさん』という宇宙人さんです。


 もちろん、それは、革命的な技術でした。


 言葉の種類には関係がありませんし、音声での会話が出来なくても、問題ありません。


 必要なのは、思考力だけです。


 その人の言葉で考えて、脳から直に、伝えればよいのです。


 キー入力よりも、はるかに速い事が証明されていますが、多少の慣れとテクニックは必要であり、2週間くらいの講習を受講することが必須です。


 わが社は、政府にも、公式な導入を促しています。

 

 ただ、従来からの大きな権限を持つ老舗さんたちが、分厚い障害になっていました。


 そこを、ぶち破るような、ものなのです。


 もっとも、ぼくは、もともと、病もちで、会社のお荷物さんであり、いただいた開発褒章金は、ほんのわずかでした。


 お給料1か月分が、一回、上乗せされただけです。


 また、ぼくの所属は、備品調達課です。


 開発課の友人とコラボして、上司に売り込みました。


 会社は、あまり、ぼくを表には出したくなかったのです。


 理由は、知りません。


 まあ、ばかだからです。


 

 しかし、会社は、いまや、大儲けになりつつありました。


 まあ、ぼくも、宇宙人から教えてもらったものだから、ぼくとしても、あまり偉そうには言えませんが、宇宙人アニーさんは、いつも、なぜか困った時には援助してくれます。


 開発室の方などからの、難しい質問にも、おかげで適切な回答ができました。


 回答を言ってるぼくは、ちんぷんかんぷんなんですがねぇ~~~~~。


 で、会社に帰ってみれば、入ったとたんに、あまり見たこともない社長さんがいるではないですかあ。


『なんだ、こやあ・・・・・・??』


『ああ、いいやつが来た。この人が、開発した本人です。きみい! ダイダラボニック社の第1取締役部長さんだ。クレームがおありだという。聞いて差し上げなさい。』


『はあ・・・それは、お世話になります。どぞ。やましんです・・・・あら、エレベーターは?』


 名刺をお渡ししながら、ぼくは言いました。


 ダイダラボニック社は、巨大商社さんです。


 おもちゃから、爆弾まで扱います。 


『わからないんだ。ドアの向こうに階段がある。』


『はあ・・・・・え?』


『さあ、早く行きたまえ!』


『はあ・・・・・まあ、じゃあ、とにかく、こちらにどうぞ。』


 ぼくは、その鬼の形相の部長さんと、気の弱そうなお付きの人を従えて、階段を上がりました。


 なんのことはない、一つ上がれば『物資部』の見慣れたプレートがあります。


 この階の端っこに、備品調達課が、ありました。


 空いていた、いつもの会議室に入り、お話を伺いました。


 ただ、困ったと言えば、周囲がまたく別世界だったことです。


 他の社員さんたちは、うろうろと徘徊しています。


 まあ、でも、ぼくは、任された仕事をしなければ。



『こいつがだな。』


 部長さんが、直ぐに怒鳴り始めました。


『おかしないたずらをして、海外の取引先の重役さんを怒らせたんだぞ。契約はパーだ。なんとかしろ。向こうの社内で、商品のおもちゃ人形が踊ったり、空を飛んだり、おもちゃの銃を乱射したり、勝手ほうだい、したらしい。』


『はあ・・・・・そうすか。そりゃあ、困ったこと、でしね。ああ、ちょっと、これ使いますね。』


 ぼくは、部長さんが持ち込んだ、小さな端末を立ち上げ、脳内から、呼び掛けました。


『こんなこと言ってますよ。アニーさん、いたい、なにしたの?』


 これは、あくまで、脳内の会話ですからね。


『ああ・・・・なるほーど。いやあ、メインコンピューターの、元祖アニーさんは、いたずら好きでーすからね、ちょっと、人類の対応力調査の実験とか、やったったみたいでース。悪気はナークですね。みな、好い人だかーら。分かってくれださーると、思ったようねぇ。実は、このような、おにさんだーったね。人間は、こあいね。よく、わかた。地球人は、相手と時と立場によって、話が違う。でも、もう、大丈夫でぇ~す。すでに先方は、当初予定の、倍の契約するーのね。あいての、怒った人の~ね、さらに上の上司の、第1社長さんがあ、すごおい冗談好きな人ね。なんか、大喜びしてるね。非常に興味深いのね。人類は面白い。空間の異変には、対応力が低いね。つまり、空間を全体から見る能力がないね。でも、がまん強く、あきらめないね。我々があ、長期支配する価値ありと、出ましたの、れす。はい!』


『はあ・・・・・はあ?・・・・・』



《ぷるるるるる》


 部長さんの携帯電話が鳴りました。


『ああ、失礼・・・はい。うん・・・・・・え~~~~~~! そりゃあすごい。すぐ帰るから。』


『なにか?』


『いやあ、失礼した。潰れたと思った契約が、倍増して実現した。よくわからんが、どうも、それもまた、君の機械のおかげらしい。向こうの社員が、冗談で考えた事態が、実際に起こったらしいんだが・・・・社長さんが大喜びらしい。まあ、上手く行きゃ、なんでもいいや。 いやあ、すばらしい。ありがとう、謝罪します。ああ、ときにあなた、なんで備品調達課なの?』


『それは、まあ、病気があって・・・・・』


『ああ・・・・・まあ、事情はあるんだろう。いや、また話しましょう。じゃ。社長さんによろしく。』


 ぼくは、気になるので、1階までご案内をいたしました。


 でも・・・・・ドアの外は、なんと、そこは、もう、部長さんの会社の玄関前でした。


『なんとお。どうなってるの?』


『さあ・・・・・・』


『まあ、いい。何だか素晴らしい。君、車、取りに行ってきたまえ。急がないから、一泊してきていいよ。ぼくは、急ぐから、先に帰るから。』


『はい。承知しました。』


 部長さんは、そのわが社の10倍くらいはある、巨大なビルに入って行きました。


『あなた、何者?』


 気の弱そうな、でも、抜け目なく、不気味に輝く目をした、その部下の人が尋ねて来ました。


『さあ・・・・まあ、下っ端なので・・・・』


『部長に目をつけられた。あの人は、実は実力者なんだ。きっと、良い事があるかも・・・じゃ。』


 その人は、道路を、ころぶように、わりと不均等に、駅に向かって、駆けて行きました。


 ぼくの会社は、500キロ以上は、先なんです。


『連れて帰ってほしいなあ。まあ、だめかあ。なんか、急に、腹へった。よく分かんないけれど、久しぶりの首都だから、おいしいラーメン食べよ。』




  ************   ************



 会社の中の混乱状態は、まずます進化しながら夕方まで続き、終業時間と共に、ぱたっと、元に戻りましたそうな。


 中には、北海道から帰ってこなければならなかったとか、ウイーンにいたとか・・・ものすごい人もいたようです。


 最終的に、社長室は、地下二階になっていたそうです。


 ドアがなかなか開かなくて、秘書さんが、蹴飛ばして開けたとか。


 秘密の部屋は、大勢の社員が、見学したらしいです。


 そこには、大量のくまさんの、ぬいぐるみコレクションがあったんだそうです。


 社長さん、なかなか、しゃれている人だったんだ。


 実際、この事態には、だれも、上手くは対応できなかったようですが、そんなことできる人がいたら、ほんとに、お目にかかりたいですよね。


 中には、脱水状態とかになったり、途中で切れた階段で、転落しそうになったり、身動きが取れなくなったりとかして、社内で遭難間近だった人も、かなりの人数いたらしいので、笑い話にはならないのですが。


 アニーさん、やりすぎだよ、と、ぼくはクレーム付けておきました。


 要するに、ぼくのお世話役でもあった、宇宙人の手先である人工生命体アニーさんが、たくさんの端末も使って、何かのいたずら、または、実験など、をしたらしいのです。


 後から聞くところでは、地球中、何か所かで、同じような異常現象が起こったらしいです。



 さて、わが社は、その後ダイダラボニックに買収され、社長さんは、イタリアの子会社の支社長に飛ばされました。


 その後任は、なんと、ぼくだったわけです。


 びっくしでした。


 ついでに、地球は、パズラー星人に征服されました。


 あまりに、技術力が高すぎて、戦争にさえ、ならなかったのです。


 で、ぼくは、長年、地球征服プランの、モニターになっていたのです。


 そういえば、そんな電話が、大昔、自宅にあったような。


 小学生1年生のぼくが、適当に回答したような気がします。


 『うん、いいよ。もにた、したげる。お礼は? え? 将来、社長さんにしてくれるの?すっご~~~~~~い。』


 すっかり、忘れておりましたが。




 余談ですが・・・

 

 みなさん、電話は怖いですよ。


 うっかりした回答すると、足をすくわれることもありそう。


 特に高齢者は、なにかと狙われます。


 留守電にする、すぐには出ない、直ぐ切る、など、対策をきちんと致しましょう。


 

 いつも、地球は、あなたは、狙われているのだ!




   🌎    🌎    🌎    🌎      🌏



  





 











 
















 














 




 




 








 
















 



 




 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

『迷宮職場』  やましん(テンパー) @yamashin-2

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る