第167話 SNS

「魔法!?絶世の美女が人命救助!!」


 そんな見出しが躍る。

 トゥミとメイドさんが心臓マッサージをしながら、トゥミの手元が光っている写真が新聞に掲載されている。


 SNSでは、

「エルフの回復魔法!?」

「ほんまもんのメイドさん!?」

「子供にヒール!で瞬時に回復!?!?」

 メイドさんが、頭から血を流している子供の頭を撫でると、手元が光って血が止まる?

 そんな動画がリツイートや、動画サイトの再生回数を賑わしている。


 不味い!これは不味い!!

 夕べの祖母ちゃんの困った顔の意味が分かった。


 更に、SNSでは握手会に参加した人たちのコメントも寄せられている。

「新宿の高級タワーホテル前で握手会に参加しました!」

「女神様たちに逢いました!!」

「私のアポロンは本当に神だった!!(アポロン?誰?)」

「カトリーヌ様愛しています♪(王妃様の名前、何故バレた?)」

「トゥミ様は我らに使わされた女神様である!」

「アルファ様の優しい眼差しで、私は全てを溶かされた。」

「ボス様サイコー!!!!!」


 もう、頭を抱えるしか無かった。

 更に!

「私!愛を誓ったんです!アルファ様に!3か月後に神田農園で会えると!奥様のシルビア様も連れて来て下さると約束したんです!!」


 うわぁぁぁぁぁぁぁ‥‥‥終わった。

 心を鬼にしてアルファを連れ戻すべきだった。


 っと!!こうしちゃ居られない。

 マスコミが押し寄せてくる前に、王妃様たちを帰さないと、帰れなくなる。




 全員!!集合!!!




 ふう。

 辛うじて全員帰れた。


 しかし、門の前にはマスコミの車両の列。

「さて、彼らはどうしようか?」

 山際さんと、日本での嫁の香(旧姓富岡)に相談するが‥‥


 ① しらばっくれる。

 ② 何となくぼかす。

 ③ 真摯に答える。

 ④ 笑ってごまかす。

 ⑤ 魔法で洗脳する。

 ⑥ 抹殺

 ⑦ 全てを話す。

 ⑧ 所々話す。

 ⑨ 門前払い。

 ⑩ ①に戻る。


「これは、どう考えても②でしょうか?」

「私は、⑤か⑥でも良いと思いますが。」

 ちょっと香さん!?そんな過激な人だっけ?

「山際さんの意見が現実的ですが、私の気持ち的には⑤か⑥ですね。」

 あぁ‥‥

「だって、真悟人さん向こうに行ったキリが多いから‥‥」

 うん。分かった。

 香、ゴメンな。向こうとこっちの時間を見直すよ。


 変なとこで妻の不満が理解出来ました。

 昔の武将や英雄たちは、どうやって妻の不満を解消したのでしょうか?

 きっとその辺も英雄級なのでしょう!

 対応のために、王妃様は一人の文官を残した。


 はっ?

 宰相!?残っていいの??

「だって面白そうじゃん。」

 出たよ。この人、そういう人だった。




 それはさておいて、恐るべしSNS。

 有る事、無い事、在る事、色んな事。

 事実と憶測が入り混じるから質が悪い、都合が良い?


 そんな状況の中、押し寄せた記者たちを宥める為に記者会見を開いた。


 まず、彼らの存在は秘匿。

 外国の王族で観光目的。お忍びなので公に出来ない。

 ビザや詳細も、受け入れ側の一企業には分からないし公表できない。


 人数や名前も分かっているが、個人情報なので公開できない。

 当然、国名もそれに含まれる。

 国名に関しては、政府に問い合わせて下さい。

(ここで政府を出して大丈夫かな?と思ったが、宰相がOK!って言うから)


 人命救助に関しては、事実ですが表彰や感謝状は望んで居ない。

 彼の国では、その行動は当然の行動であるため、賞賛を受ける対象では無い。

 逆に、その行動は賞賛を受ける程、貴国の民度は低いのか?

 との事です。


 これには、マスコミ一同、黙った。

 バスの運転手が真っ先に人命救助に動いた。

 だから自国の民も当然の行動として動く事が出来た。

 他国の状況は分からない。

 だからここで賞賛されるべきはバスの運転手の方では無いだろうか?


 ここで大事な事は、バスの運転手の方は勝手に動いた訳では無い。

 我等の国の方の許可を得て動いた訳です。

 とても正しい行動をした。

 だから我等も自国の矜持の通り、正しい行動を取れたのです。


 ここで、一人の男が前に駆け寄り頭を下げた。

「最初に追突された女性は私の妻です。彼女は追突されて心肺停止状態だったと聞きました。しかし貴国のトゥミ様?とメイドの方の機転で命を取り留めたと聞いています。この場ではそぐわないかも知れませんが、お礼を言わして下さい。本当に、本当に、ありがとうございました。」

 彼は地に手を着いて、泣きながらお礼を言ってくれた。

 会見の間、ずっと機会を伺っていたのだろう。


 ルバンの宰相は、彼の元に向かい、彼の前に跪いて、

「頭を上げて下さい。私たちの行いで貴方の奥様が助かったとしたら、本当に良かった。これに勝る喜びは在りません。これからも健やかにお過ごし下さい。」


「ありがとうございます。本当にありがとうございます。」



 お礼を聞きながら立ち上がった宰相は、

「私たちに特別な力は在りません。ただ、人として最善の行動をしたに過ぎません。その中で助けられる事があって、本当に良かったと思います。」

 何故か記者席から拍手が起きた。

 そんな宰相の言葉を聞きながら、記者たちは拍手をしていた。

 そうして和やかに記者会見は終わった。




 なんか腑に落ちない気分で居たが、祖母ちゃんがあっさりと教えてくれた。

「上手く行ったね、人数多いと面倒だからね。」

「ん?やっぱ祖母ちゃんが誘導したのか?」

「また、この子は人聞きの悪い。」

「今回は何をしたんだ??」

「まったく!なんもして無いよ!最初の被害者の女の旦那をあそこに入れただけだろ!」


「はっ?」

 ‥‥‥なんもしてない訳じゃ無いじゃん!と思いながらも、様々な事が誤魔化せて良かったと思う。


 こりゃ今後、色んな事考えなけりゃルバンから人を呼べないな。

 色んな意味で学習した出来事でした。

 ただ、魔法というワードを浮かばないようにしたと気付いたのは後になってからでしたが。‥‥‥



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る