第137話 山際さん

 朝、ゴルフ場KMカントリークラブ家宅捜索のニュースから始まり、カンダ(株)社内に激震が走った。


 これまでカンダ(株)の乗っ取り工作をしてたであろう、KMカントリークラブが突然告発された。


 それと同時にカンダ(株)の内部の掃除を慣行。

 KMカントリークラブの息の掛かった社員は、情報漏洩で告発して解雇。

 間で仕切っていた弁護士に対して訴訟を起こした事を発表した。


 現場は割と関係ないのだが、事務関係は大きく変わった。

 直接は関係なくても、気軽に情報を口にすることは問題になると、皆気付いたみたいだね?どんな情報が金になるか分からないので、重々気を付けて欲しい。


 他にも、間で情報のやり取りなどで動いてる奴等が居たようだ。

 何なら魔法操作も辞さない覚悟だったが、多分?先に祖母ちゃんが動いていて、間で動いてた奴等はアッサリと駆除された。

 社員に寄生したり、ハッキングしてたり、パスワードやセキュリティキーを偽造したり?祖母ちゃんの魔法で‥‥迷宮行?いえいえ何でもございません。


 俺が忍び込んでPCに細工した後は、諜報部の方々がリモート操作で情報を確保して、山際さんが内容を精査。

 何処かにメールで情報を送信っと!山際ネットワークは恐るべきものだった。


 実は、山際さんの友人には税務局や検察庁や判事、弁護士など錚々たるメンバーが揃っている。

 山際さんは、最終学歴が日本の最高学部を好成績で卒業しており、切れ者として有名だったらしいが、突然と方向転換して、自然に係わる仕事が良いなぁ!とカンダ(株)に入社してきた人である。


 本来なら雲の上の人だったのかも?と言ったら、社長こそ異世界じゃ雲の上の人じゃないですか?と返されてしまった。

 山際さんも異世界旅行大好きですもんね!

 エルフや人魚さんに囲まれて、真っ赤になってるのが新鮮でした。


 山際さんの友人である、弁護士の方に当時の武勇伝を色々聞きました!


 車で信号待ちをしている時に、前の車がタバコのポイ捨てをしたので、降りて行ってタバコを拾い「落としましたよ?」と返すんだそうだ。

 大抵の人は「すいません」と受け取るが、相手によっては逆切れして暴力を振るう奴も居るが、武道心得在りって感じで、サラッといなすと謝ってくれたり、捨て台詞を吐いて逃げ出したり?やり返さないのがスゴイね!


 割り込みには注意をするし、電車で席を譲るのも当たり前。

 痴漢を捕まえた事も何度もあって、表彰されたことも在るそうだ。


 他にも、駅のホームから線路に落ちた酔っぱらいを助けたり、スゴイ事としては、通り魔が包丁持って暴れてるのを取り押さえて、表彰されたのを全国放送で流れたと。

 正に武勇伝として、友人たちは鼻が高かったと言っていた。


 今回は、あらかじめ検察及び税務局の友人に根回しをしておいて、情報が集まり次第に連絡を取り、内容の精査とどんな内容が必要かを相談しながら情報を流したので、朝には家宅捜査チームを結成して押し込めたんだそうだ。


 あの頃の山際が帰ってきた!と検察の友人は言ってました。

 自由な発想で、何の柵も無く動ける環境じゃないとあいつはダメになる。

 鳥は籠に入れちゃダメなんだよ。大空を飛んでなんぼなんだ!

 そんな山際健人に戻してくれてありがとう!と、とても嬉しそうにお礼を言われてしまった。当の山際さんは恥ずかしそうに苦笑いしてましたが。



 今回の騒動で何人もの事務職が解雇された。

 カンダ(株)の様な小さい会社では、一辺に5人も6人も事務職を解雇すると業務が滞るもんです。

 でも実は、彼らに疑いを持った時点で重要な仕事は回さないし、情報にも触れさせないでいたから、アルバイトが2,3人居れば何とかなる程度。


 彼らも仕事が来なくなった時点で、気付いてるはずなのに更に首を突っ込むから破滅するんだよ。

 ご愁傷様。


 そんな訳で、ハローワークに事務募集の掲載と、いよいよ海まで繋げる為の土地の買収を始める事にした。

 ここでも山際ネットワークの友人パワーが炸裂するのだが、それはまだ後の話。


「社長、一連の情報は出し終わりました。後はどうなるか?ですが、ここまで証拠が揃っていれば、有罪、実刑に持ち込めると思います。それと、カンダ(株)に対する乗っ取り工作に関しては、犯罪を立証するのは難しいので、自滅してもらいました。これで株価も大幅に下落するので、カンダ(株)の物になるように動きます。」


「山際さん。ありがとう。貴方が居なかったら、結構ピンチだった気がするよ。」


「いえ、実際に動いたのは社長ですし、周りのスタッフのお陰でもあります。」


「うん。皆に感謝してるよ。近々、アッチ行きましょうか?」


「はい!さすが社長!みんな喜びますよ。」


「そういう山際さんがイチバン喜んでる?」


「そりゃそうですよ。‥‥‥‥私はもうこのまま枯れて行くと思ってましたから。そんな意味でも社長に感謝してますよ。」

 山際さんは独身である。

 結婚歴も無い。

 女性に興味が無い訳ではなく、仕事が楽しくてそのまま来てしまったタイプであったのだが、異世界に行って変わった。


 男同士なら分かる、ニヤッとした笑いを交わして、

「落ち着く頃を見計らって、日程は任せますよ。」


「社長、了解です。先に行っちゃ駄目ですよ?」


「うん。分かってるよ。そんな事したら、香と京子にメチャメチャ怒られるよ。」


「社長‥‥よく決心しましたね?」

 山際さんの言う決心とは、富岡香との結婚と井坂京子との愛人契約である。


 富岡香とは、入籍して公の場で妻として行動してもらう。

 会社関係は当然として、日本での立場としても保険、税金、相続関係もれっきとした妻の座である。


 一方、井坂京子は愛人となる。

 現代日本で、こんなに不利な立場は無い。

 それでも彼女は愛人で良いと言う。

 彼女には身寄りが無く、家庭を築くという事が分からないと言われてしまった。

 でも、一人では生きていけない。

 女として生まれたからには子供も欲しい。

 そして、異世界を知ってしまった。

 逞しい女たちを見てしまった。


 彼女の希望は、愛人として結婚はしない。

 富岡香もトゥミたちも認めてくれる。

 子供は欲しいし、認知もして欲しい。

 そして、自分と子供の生活の面倒を生涯に渡って見て欲しい。

 叶えてくれれば、精一杯愛し愛される女で居ます。

 女を捨てません。

 お母さんでも奥さんでも無く、恋人で居ます。


 グッと来た!

 もう、男冥利に尽きる!そう思った。

 最初こそ、色香に負けて流された感はあった。

 決して不本意だった訳じゃ無く、攻め落とすのではなく、攻め落とされたから不満?なんて贅沢な事を感じてた。


 でも、彼女の本心を知ったら、こんなに可愛い人は居ない。

 日本での立場は中途半端かも知れない。でも異世界なら?

 常識も考え方も違う世界なら受け入れられる。

 彼女は、異世界に住むことを希望した。


 直ぐにじゃない。

 子供が出来たら行きたいと。

 それはそれで俺の悩みも増えるのであった。


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