第132話 顛末

 真悟人とトリネコ商会のメイちゃんのスキャンダル。

 オダーラからマウントフジへと広まって、王都でも話題になった。


 マウントフジとオダーラを守った英雄のスキャンダル!

 一夫多妻制のこの国では、実はスキャンダルでも何でもない。

 要するに面白ければ良いのである。


 他人の恋愛話程、皆の興味を引く話題は無いらしく、誰も彼もが話題に乗せる。

 貴族の話と違って、誰かに聞かれて不敬罪を問われる事の無い相手で、誰もが知ってる有名人!そりゃ面白可笑しく書き立てられます。


 言われる方はどうか?

 真悟人は牙狼村の村長であり、住民は村長の真悟人を悪く言う奴は居ない。

 嫁たちは、娶るのならばハッキリせいよ!と、言いながら静観の構え。

 本人の真悟人は、そんな事には疎くて気にしない人なので、そんな事になってるなんて、嫁たちに怒られるまでは考えていなかった。


 どちらかと言えば、トリネコ商会の内部で慌ただしかった。

 メイちゃんの元に付け届けが増え、覚えのない贈り物が届く。

 要するに、牙狼村の真悟人村長と旨くやってる内に便宜を図って欲しい商人たちから広まった。


 コレを重く見たのがトリネコさん。

 これでは店を任せられない。

 賄賂を贈ってくるような相手が、贈るだけで済ます筈がない。

 必ず何かの見返りを求めてくる。


 メイちゃんとしては、覚えのないモノは受け取れない。

 全て、上司である兄のジャニに報告。

 そこからトリネコさんに報告され、贈り物は全て返された。

 これがまず功を奏した一点。


 贈り物には、色々な受取書の他、お願いや要求などが書かれた手紙付きが多い、中には証書や請求書を送り付けてくる輩までいる。

 これらも一切開封せず、そのままの状態で送り返した。

 要するに、受け取りを拒否した訳である。


 一方的に送り付けられたので、受け取りを拒否した。

 そこには、要求を履行する義務は生じない。

 この点も、理不尽な要求を突っぱねる事が出来た。


 拒否られた方はどうするか?

 やっぱりダメかぁ!と諦めてくれれば良い方だ。

 怒る者や、嫌がらせをする者、無理に要求を通そうとする者も後を絶たない。


 今回はその中で、嫌がらせをしてやろうとする者たちから端を発した。

 その後はエスカレートするばかりで、在る事無い事色々な噂が飛び交い、収集付かない状況になって暴走する輩が出てきた訳だ。


 例の子爵婦人もその一人。

 自分に便宜を図らせようと、様々な贈り物を送り付けた。

 それが全て、未開封のまま受け取り拒否されて戻ってきた。


 それに怒った子爵婦人。

 平民の分際で何たる無礼!これは絶対許すまじ!と、逆恨み。

 しかし、相手が平民とは言え直接手出ししたら貴族と言えども法に触れる。

 そこで子飼いの出版社を使って、陰湿な嫌がらせを始めたのが今回の騒動。


 子爵婦人の目論見としては、噂で疲弊したところで、自分に便宜を図れば噂なんて揉み消してやると持って行き、トリネコ商会はソコに飛びつく筈だった。


 しかし、ここで計算が狂った。

 真悟人が出版社の責任者たちを拉致って、記事は出まかせだと証言させてしまった。

 だが、証言は取られたが拉致された事実がある。

 今度はソコを突いて、犯罪行為を行う英雄にしてしまえば良い。


 ここでも計算が狂う。

 編集長以外は、無理やり拉致られた訳じゃ無いとも証言してしまった。

 そんな馬鹿な!確かに縛られて強制された筈なのに、そんな事は無いと言う。

 一体、どんな脅しを掛けたのか?それとも魔法で操られてるのか?


 実際はただの認識阻害で、魔法で操られている訳では無いから、そんな証拠も残らない。

 そして本人たちも、をしてしまっている。

 だから証言として成立してしまう。


 これによって、記事はデタラメ、噂は大ウソ!となり、面白可笑しく広まったスキャンダルは終息を迎える。


 これに納得できない子爵婦人。

 次はどんな手で攻撃してやろうか!と画策していたところへ、旦那である子爵が王宮へ呼び出された。

 普段から王宮勤めをしている子爵であったが、改めて呼び出される様な事は、今迄には無かった。


 そして、王宮から戻った旦那様を出迎えたところで、いきなり平手打ちをされた。


「お前はいったい何をやっとるんだ!!」


「!?!?」


 旦那である子爵は温厚な人柄で、今迄暴力どころか罵倒されたことも無い。

 家庭の事にも口出しはしないし、総じて穏やかな人間だった。

 それが今、顔を真っ赤にして憤怒の表情を浮かべている。


 最初の平手打ち以降は、家令が止めに入りそれ以上の暴力は無かったが‥‥


「旦那様、この場では‥‥」


「ああ、お前は執務室へ来い!今すぐにだ!」



 子爵は王宮に呼ばれて、牙狼村村長の神田真悟人とトリネコ商会のメイに関しての顛末を説明された。

 街どころか王宮でも噂になっていたので、触りくらいは聞いたことが在る。

 何故今それを私に説明するのか?不可解な気持ちで聞いていたが、驚愕の事実を知らされた。


 その噂の出処は自分の妻で、子飼いの出版社を使ってデタラメを流布し、社会を騒乱させている。

 その動機も、トリネコ商会の商品に関して便宜を図れと言う身勝手な物。

 言語道断の所業であるが、そこまでなら王宮も動かない。


 今回は相手が悪かった。

 牙狼村の戦力を知ってるか?という所から話は始まる。

 何故牙狼村と言うのか?

 牙猿と魔狼を神田真悟人が取り纏めて作った村だからだ。

 牙猿の小さい群れ1っの行軍でいくつの村が滅んだか?

 その牙猿が1千は下らない数が居る村だ。魔狼の数も近い物が有るだろう。

 彼らは今、知識を得て人間と変わらない生活をしている。

 知能だって人間と遜色ない。他国に居る獣人たちと変わらないだろう。

 その牙猿と魔狼だけじゃなくオークも人魚も牙狼村の配下である。


 そして今のエルフシティを築いたのは?

 エルフのヴィトン市長と牙狼村の真悟人村長である。

 ここ近年は、魔道具と教育に関してほぼエルフシティ頼り‥‥

 彼らを敵に回したら?‥‥このルバン王国は終わるぞ?

 誰にケンカを売ったのか?分かってやってるのか?

 知らなかったでは済まされない。

 どうすべきか、よく考えて行動しろ。


 後は、君の家庭の事だから口出しする気は無かったが、君の奥さんと言われる方は雑誌の編集長との逢瀬を重ねている。その上での今回の行動だ。


 以上、今回の話は終了だ。


 宰相からの話は以上だった。

 子爵は暫く放心状態であったが、段々と理解が及んでくると怒りが込み上げてきた。

 そして妻の顔を見た途端、歯止めが効かなくなって暴力を振るってしまった。



 結局‥‥

 子爵は離縁をした。

 妻は実家に送り返し、3人居た子供たちも末っ子は自分の子供じゃ無い事が判ってしまった。一番可愛がっていた末っ子だけに子爵の心は張り裂けそうだった。


 子爵婦人だった女は、末っ子を抱えて実家に帰る馬車の中で、自分がどれだけ馬鹿な事を仕出かしたかに気付いたが、全ては遅かった。

 自分だけで無く、家庭を壊し、家族を傷付け、信用を失い、居場所も失う。

 自分だけで無く、子供たちの未来は?末っ子の行く末は??母親としての自分を振り返って見ると‥‥


 つまらない欲望に溺れた末の結末。

 そんな噂も街で囁かれた‥‥

 雑誌の編集長は、その後を知るものは居なかった。




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