第111話 牙狼村(魔狼)


 牙狼村において2大勢力の筈だった魔狼。


 牙猿は大幅に増えた!

 大きい群れを併合して実力者も揃った。


 しかし、魔狼はそんなに増えていない。

 大体、絶対数が少ない上に同じ地域に他の群れは居ない。

 他所の群れには特別な事情が無い限り近づく事は無い。


 特別な事情‥‥住んでる地を追われるような事情。

 戦争や開拓など、抗えないことも間々あるが、数で押されない限り押し返せる実力はあるが、開拓込みで押されると‥‥どんどん減っていく森と住処。

 流石に抗えなくて流れていく。

 いたずらに仲間の命を懸けては戦えない。

 そうやって流れて来た群れがあった。


 群れの数、およそ600強。大きなボス狼と屈強な精鋭部隊。

 森の住民は、だいたいが道を開けるし逆らわないし逃げていく。


 北から森を抜けて、草原では牛たちが大きく肥えてゆっくりと草を食んでいる。

 やっと抜けた!と思った。森と草原の交わる所。理想の狩場と住処になる。


 600も居る群れの腹を満たすには生半可な事ではない。

 その腹を満たせるだけの環境がありそうだ。


 しかし、その前に立ちはだかる者が居た。



 ~~~~~~~~~~



「真悟人さん!」


「おう!シャマル。久しぶりだな。」


「はい!‥‥ってそうじゃなくて」


「お前ちょっと見ない間に綺麗になったなぁ!」


「綺麗に‥‥」

 真っ赤になってヨシッと拳を握るが、今はそれどころじゃない。

「そ、そんな事じゃ無く、聞いてください!」


「ん~?どうしたんだ?」


「魔狼の群れが向かってます。」


「はっ!?」

 一気に緊張が走った。

 魔狼何て、早々居るもんじゃない。

 それが向かっている??


「群れの規模は分かるか?」


「‥‥多分、500~600は居るかと? そ、そんな大きい群れは聞いたことありません。だから、魔狼だけじゃなく草原狼たちも混じってるかと‥‥」


「アルファはなんて言ってんだ?」


「ア、アルファは‥‥尋常じゃない群れだから見に行くと‥‥」


 大きく溜息をついて、

「シャマル。よく聞け!報告は事実をありのままに伝えるんだ。自分の思った事は必要ない。聞いた事をそのまま伝えるのが大事なんだよ。それがちゃんと出来ればお前はもう一ついい女になれるぞ。」


「は、はい。ごめんなさい。」


「事実を在りのまま伝えて、その後で自分はこう思うと言ってくれるといいね。」


「はい!分かりました!」


「うん。いい子だ!可愛いぞ♪・・・よし、アルファの所に行くぞ!」


「か、可愛い‥‥」

 シャマルはまだ、事の重大性を分かっていない。

 何があっても真悟人が守ってくれると妄想している。



 ~~~~~~~~~~



「アルファ。」


「主‥‥」


「状況は悪そうだな。」


「斥候だけで20近くいます。こちらの事も分かっている。手を出す気配は在りません。相手にしないのか?されていないのかは分かりません。」


「そうなのか?‥‥‥」


「‥‥斥候のボス、あれは、私じゃ敵いません。」


「そうか。それ程の相手なんだな。」


「わ、私は天狗になっていました。身の程を思い知りました‥‥」


「それは、今はいいよ。終わってから頑張ろうぜ。な?」


「主‥‥」


「今は冷静に対処できるように。シャマルは前に出せないだろ?」


「すいません、シャンとします!」


「それでいい。俺の後ろで冷静でいてくれ。」

 彼は多分、自分より力量の優れた者を見る機会が少なかったんだろう。

 だから衝撃を受けてしまった。

 斥候でこれならボス狼は‥‥‥



「主、森を抜けます‥‥‥」


「ヨシ!腹くくるべ!お前たち、守りたい者を浮かべろ!」


「主‥‥逆効果じゃ?」


「何言ってんだ?何の為に戦うんだ?愛する者を守る為だろ?他に戦う理由あるか?」


「‥‥‥‥‥はい!!!!守るため戦います!!」


「よし!それでいい。」


 最初は俺一人で行くから、お前たちは待ってろ。

 エクスカリバーを浮かべながら、道具たちに頼むと言ってから出た。



 ~~~~~~~~~~



 森を抜けたその先には‥‥‥‥


 人間が待っていた。


「よぉ!自己紹介は必要か?」


「‥‥‥あぁ、俺達の方からしよう。魔狼のシバだ。」


「‥‥魔狼のシュナウザーだ。」


「ブルとトサだ。」



 ブルった。

 洒落じゃない。こいつら尋常じゃないぞ。

 多分、こいつらに攻められたら牙狼村は落ちる‥‥‥


 ヤル気になったら皆殺しにされるだろう。

 ただ、全員痩せている。

 それは、この行軍でかなり過酷な旅をして来たのだろう。



「俺は、この辺の山と草原を収めている神田真悟人だ。俺の下に就くのなら全員の飯と寝床は保証してやろう。無理なら黙って通過してくれ。」


「むぅ‥‥」

「‥‥‥‥」

「あぁ?」

「ちっ!」


 シバとシュナウザーは冷静に思案中。

 護衛と見られるトサとブルの2頭は反発してるな。

 まぁ、シバが冷静なら何とかなるだろう。

 ただ、暴発は避けられないかもな‥‥‥


「それでは、ここを‥‥‥」

「あぁ!?お前?誰にモノ言ってるんだ?俺たちが通るって言ってんだから、それなりの物を用意するのが筋だろうが!?」


 一瞬で暴発した。

 シバが何かを言いかけた時には捲し立てだした。

 これはトサのほうかな?ブルの方も戦闘態勢のようだ。

 シバとシュナウザーが抑えようとするが、本気で抑える気は無い様だ。


 溜息を付きながら、

「あぁ、所詮は犬っころの群れに過ぎなかったか。」


「んだと!!」


 トサの方が噛み付いてきた‥‥が、


「ギャン!!」

 無様に転がっていた。

 周囲の魔狼達も気色ばっていたが、一瞬の事に呆気に取られて動揺している。


「相変わらず後先考えねぇ奴だな?」


「‥‥アルファか!?」


 シバが目を丸くして、アルファの登場に信じられないという顔をしている。


「アルファ、知り合いか?」


「主、申し訳ありません。整えるのが遅くなりました。」


「主だと!?どういう事だ!?お前は人間に尻尾振ったのか!?」


 シバは俺とアルファが主従関係にあるのは気に入らないようだな。


「大将、俺にやらせて下さい。アルファの野郎は昔から虫が好かなかったんだ。不意打ちとは言え、俺に手を出した事を後悔させてやる。」


 あぁ、こっちはアルファに何か因縁?みたいなものを持ってるのか?

 でも、こいつとじゃ格が違うと思うんだが‥‥


「ふっ。トサか?全然成長しねぇなぁ?シバの元に居たら、もっと強くなってそうなのになぁ?」


「なんだと!?その言葉、後悔すんなよ?‥‥‥」



 今、トサがアルファに飛び掛かろうとする、その時!


「やめなさい!!!」


 姫様が登場した。


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