人生やり直し?ってワケじゃないけど。~異界の指輪で幸せになろう!~

三六三

第1話 夢の途中

 田舎のお祖母ちゃん家に行った。

 あれ?なんでこんな夢?‥‥‥ん?夢って分かってる? 不思議な夢だな。


 もう既に居ない、お祖母ちゃんが一人で住んでたちっちゃな家。

 最寄りの駅からバスで30分、さらに徒歩1時間。

 バス停からは山道で、舗装もされていない道、途中でアケビや山イチゴを取って食べた記憶が懐かしい。

 最後に来たのはいつだったか?

 近くの竹林で竹の白い花が咲いていたなぁ、竹の命が終わるときにしか咲かないんだっけ?

 開発で切られるのを知ってたのかもな?キレイだったけど、ちょっと悲しい感じがしたなぁ‥‥‥


 そんな道でお婆さんが座っていた。

 昔の行商のお婆さんみたいに大っきな風呂敷包を横に置いて、石に座ってこちらを見ていた。


 風呂敷包みを見て、中は行李かな?懐かしいな。

 そんな格好の行商のお婆さんたちが、昭和の頃はたくさん見かけたなぁ。

 行李もすっかり見かけなくなって、今じゃホームセンターで売ってる押し入れ用プラBOXだもんな。

 そんなことを思いながら通り過ぎようとしたら、


「すいません、ちょっとお願いします。」


 声を掛けられ、立ち止まった。

「はい?なんでしょう?」


「この先のお宅に荷物を届けたいのですが、荷物が重くて、腰が痛くなってしまいまして‥‥‥」


 あっ!これは、正直言って面倒な予感しかしない。

「ごめんなさい無理です!」と、逃げようと思った。

 俺は悪い奴のつもりはないが、そんなに善人でもない。

 余り、人とは関わり合いになりたくない。


「途中まで荷物を持ってもらえませんか?図々しいお願いなのはわかっています。無理なら半分でも!」


 と、拝んでくる。

 いやいや、拝まれてもキビシイでしょ。

 俺も既に40代、更に腰痛持ち。

「ごめんなさい無理!」・・・・・・・・

 声には出せない‥‥‥暫し悩む。

 その婆さんが、今は亡きお祖母ちゃんに似てる気がする。

 お祖母ちゃん孝行が出来なかったからなぁ、ここで会ったが100年目!

 なんか違うね。

 結局、持ってあげる事にした。


「お、重い‥‥‥」

 この婆さん、どっから来たんだ?こんなの持ってここまで来たのか?

 めちゃくちゃ重いんですけど。


「ど、何処まで行けば良いの?」

「この先の富里村までお願い出来ますか?」


 えっ?富里村って?まさにお祖母ちゃんが住んでた村。

 でも富里村も多少の家はあるし、ドコの家かなぁ?

 五平堂や後田だったりしてぇ?と、知ってる家を浮かべていた。

 キレイな娘さんが居て、こっそり見に行って胸をときめかしたり、家の裏に大きな池があって、ザリガニを釣りに行ったりしていた。子供の頃は、本当に大好きな場所だった。

 それが開発で無くなると聞いて、真剣に悲しかったのと、時代には逆らえないのかと、複雑な心境だったのを覚えている。


 大汗かきながら懸命に歩いていると、だんだん懐かしい景色が見えてきた。

 懐かしいなぁ!五平堂の前を通って、もうすぐおばあちゃんの家だなぁ・・・

 山の感じとか、田んぼの広がる景色や、遠くの山と雑木林。

 変わらないなぁ‥‥‥ん?なんか違和感?‥‥‥なんだ?


 そして、お婆ちゃん家の前まで来たら


「ここ!この家だよ!」


「はい?? ここですか?ここは今は誰も住んでないですよ?」


 お婆ちゃんがここに住まなくなって既に数年経つ。

 誰も住む人が居なくなった家はもう廃墟のようになっていて、見るも無残な状態。


「ここだよ!この家で間違いないよ!」


「え?だってこの家はもう何年も前から空き家ですよ?

 それに、この家は自分のお祖母ちゃん家なんですよ?」


「まぁ、良いから入ってごらん?」


 なんか婆さんの態度と雰囲気が変わった。

 この婆さん、いったい?


「ん??どういう事ですか?」


 不審に思う俺を置いて、婆さんは引き戸を開けて中に入っていった。


「あれ?鍵は?鍵掛かって無かった?」

「ほれ!おいでおいで!」

「ん~????」


 どういう事だ?と中に入る。

 年月が経ったことにより、畳からは雑草が生え、襖はしみだらけで朽ちてきている。

 土間が8畳間位あり、奥が10畳の和室、その奥に板の間が3畳くらいある。

 土間には、昔、お祖父さんが職人だったらしく様々な工具や農具、何に使うか分からない道具が埃に埋もれている。

 台所のガス台は外されていて、プロパンの栓は錆びついている。

 電気は当然止められているが、ヒューズボックスの蓋が開いて、昔ながらのFuseがむき出しになっている。

 水道は来ていない。

 徒歩で少し山に入ると湧き水がある。

 湧き水の下にタライを埋めて、タライいっぱいに貯めるとデカいバケツ2杯分とちょっと。

 朝晩にバケツ持って湧き水を汲みに行くんだが、中にはたまに沢蟹やミミズが泳いでいることもある。

 そんなのは気にしない。あの湧き水は、俺の人生で最高に美味い水だった。

 その水で炊いたご飯の塩握りは最高に美味かった。

 もう、あんな美味いお握りは二度と食えないんだろうな。

 そんな、思い出に浸っていた。


「よっこらしょっと」

 気付くと、婆さんが畳に上がって荷物を広げている。


「あれ?荷物?ここに降ろしたっけ??」

 さっきから??ばっかりだ。


「さぁて、ここまで一生懸命に運んでくれたから、ご褒美をあげようかね。」


 婆さんは風呂敷包みを開けて、行李を並べている。


「えっと‥‥‥どういう事ですか?なんでこの家を知ってるんですか?それと俺がこの家の関係者だって知ってたんですか?」


 婆さんは俺の質問はスルーして言った。


「それじゃあねぇ。大きい葛籠と小さい葛籠、どっちが良い?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る