アスクレピオスの杖

サタナエル

抵抗と誇り

話せば長くなる。

私は魔術師の娘として生を享けた。

祖父はアスクレピオスの杖について教えてくれた。

私の故郷ではアスクレピオスは医術の神として祀られている。


名医アスクレピオスはアポロンとテッサリアの王フレギュアスの娘コロニスの間に生れた。コロニスはアポロンに愛され,妊娠していたにもかかわらず,イスキュスという人間の男と通じたため,怒ったアポロンは彼女を射殺した。しかしコロニスの遺体が火葬される直前に,彼はその胎内から赤子を取出し,ケンタウロスのケイロンにその養育を委託した。ケイロンから医術を教えられたアスクレピオスは死人まで生返らせてしまうほどの名医となったが,その結果死者の国の支配者ハデスの怒りを買い,ハデスの要求を受けたゼウスによって雷で焼殺された。

がそのあとで彼は復活させられてオリュンポスの神々の仲間入りを許され,医神として人々の尊崇を受け,エピダウロスにあった彼の神殿はギリシアにおける最も重要な聖地の一つとなった。アスクレピオスの持っていたへびの巻きついた杖は,のちに医学のシンボルになった。

王国にはアスクレピオスを祀る祭殿が幾つかある。

魔術師である祖父は医学にも通じていた。


「アスクレピオスの杖だとよ。あれがあればどんな病気でも治る」

賢者は私にそう話した。


王国に反逆者と見なされた賢者はこの田舎の地にて左遷せれた。

アスクレピオスの杖も医学の事もどうでもよくなったと賢者は私に言う。

黒いローブに裸足の私を見て賢者は眉を顰めた。

「今夜はもう遅い。王国の大臣か使者がもうすぐここに来る」

「話してくれてありがとうございます。魔術師としての誇りを取り戻すまでまたここに来ても良いですか?」

「かまわん。好きにしろ」

嬉しかったのか悲しかったのか分からないが私はこの賢者に認められたのだ。






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