天才インコ

アール

天才インコ

あるところに両親からクリスマスプレゼントとしてセキセイインコを飼ってもらった男の子がいた。


「わあ!お父さん、お母さんありがとう!

僕、大切に育てるね!」


男の子は大層喜び、早速インコに言葉を覚えさせようと檻に向かって話しかけた。


「こんにちは!こんにちは!」


……まあ、これから地道に一つ一つ時間をかけて息子はインコに言葉を教えていくんだろうな。

……恐らくインコが一つの単語を覚え、喋るようになるまで膨大な時間と努力が必要だろう。

……この子がインコに飽きてしまわなければいいのだが。


そんな事を心の中で思いながら、両親はコーヒーを飲み、息子とインコの交流を笑顔で眺めていた。


だが、そんな2人の思いはまさかの形で裏切られる事になる。


「……コンニチワ。コノタビハワタシヲゴコウニュウイタダキマシテ、マコトニアリガトウゴザイマス。ワタシノナマエハセキセイインコ。

ドウカカワイガッテクダサイ」


なんとまだ何も言葉を覚えていない筈のインコが饒舌な口調で返事を返してきたのだ。


これには息子も、側にいた両親もあまりの衝撃に目を丸くした。


「パパ!ママ!

このインコ、言葉を覚えさせてもいないのに口を聞くよ!」


「……ねえ、あなた。

これは一体どういう事なのかしら」


「……うむ、驚いたな。

多分このセキセイインコは特別、知能が生まれつき高いみたいだね。

いわゆる、なのだろう」


「ねえ、なんだか気味が悪いわ。

ペットショップに連絡して、違うインコと取り替えてもらった方がいいのかしら」


「いや、待て。

こんな凄いインコ、見たことがない。

これをテレビやマスコミに伝えれば一躍インコは有名となり、僕らに金ががっぽり入ってくるだろう。

まさにならぬ、というヤツだ。

……今すぐ各メディアに連絡しよう」


息子の聞こえない場所で2人はそんな欲にまみれた会話をすると、すぐに電話でメディアに連絡を入れた。


すると、あるニュース番組のスタッフが生放送で取材をしたいと返事を返してきたのである。


早速やってきた有名となるチャンスに夫と妻は小躍りしながら喜び、二つ返事で了承した。





メディア関係者が家にやってくるのを待っているその間も、息子とインコは交流を続けていた。


「きみは一体何歳なの?」


「ヨンサイデス。

アナタガタニンゲンノネンレイニタトエルト、ダイタイサンジュウヨンサイクライデスネ」


「へえ!君の方が年上なんだね!

……ねえ、僕と友達になってくれる?」


「ソウデスネ…………。

コノセマイオリカラダシエクレタラ、カンガエテモイイデスヨ」


「うーん、それはちょっとできないかな。

ごめんよ。でもせっかくパパとママがお金を出して買ってくれたプレゼントなんだ。

それ以外の事なら叶えてあげるよ……」


……ふん、今更ここから出すわけがないだろう?

お前はもうこれから我が家の商売道具となるのだから。


息子とインコの会話を近くで聞いていた父親が、ニヤリと邪悪な笑みを浮かべながらそう心の中で呟いた。


と、その時。


ピンポーン。


玄関のインターホンが大きな音を立てて鳴り響いた。


ニュース番組のスタッフ達が到着したのである。


「喋るセキセイインコはどちらに今?」


何台ものカメラを持ったカメラクルー達と、1人の女性アナウンサーが家の中へとやってきた。


「こちらです!こちらです!」


初めて映るテレビに興奮しながら、妻は彼らをリビングへと彼らを案内し、檻の中に入っているインコを見せた。


「この子が利口に喋るというインコですか?」


「ええ、そうなんですよ。

どれ、坊や。

ちょっとインコとさっきみたいに会話してみてくれ」


「うん、分かったよ」


息子は父親の言葉に大きく頷き、檻へと向き合って話しかけ始めた。


「ねえねえ、ちょっとお客様にご挨拶してみて」


「コンニチワ!ワタシハコノイエデオセワニナッテイル、セキセイインコトモウシマス。

マスコミカンケイシャノミナサマ、オアツイナカワザワザワタシヲミニキテクダサッテホントウニアリガトウゴガイマス…………」


「こ、これは素晴らしいですね!

セキセイインコの中でも、ここまで流暢に喋る鳥は初めてみたな。

この映像をテレビに流せば、大変世間で話題になりますね!」


予想を超えるインコの天才ぶりにクルー達は驚き、そしていいネタを手に入れたぞと笑みを浮かべて喜んだ。


そしてすぐに、インコの撮影が執り行われようとしていた。


カメラマンの合図で生放送がスタートする。


「それでは、 開始まで3、2、1……」


「はーい!私達は今、喋るセキセイインコがいるというお宅にやってまいりました!

この子が噂のインコのようですね!

どれ、少し話しかけてみましょう!」


そう女性アナウンサーが明るい口調でカメラに向かって話しながらインコへと近づいていった。


「こんにちは!

あなたが喋るセキセイインコですか?」


「ソウデス!

ワタシガシャベルセキセイインコデス!」


「わぁ!すご〜い!本当に喋った〜!

本当に賢いインコですね〜!」


女性アナウンサーが感心するフリをしながらカメラに向かってリアクションをとっている。


そんな彼女に向かってセキセイインコは、とある質問を投げかけた。


「アノ、スイマセンオネエサン。

イマコレゼンコクニナガレテルンデスカ?」


「そうですよー!

もちろん流れていますよ〜!

何かお茶の間の皆様に伝えたい事はありますか?」


女性アナウンサーはインコへ持っていたマイクを近づけた。


するとインコはかつてない程饒舌な口調でマイクに向かって喋り始める。


「タスケテクダサイ!タスケテクダサイ!

ワタシノカイヌシデアルココノイッカハワタシニボウリョクヲフルッテキマス!

タタカレタリ、ライター ノヒヲチカヅケラレタリ、コレハドウブツギャクタイデス!

ドウブツアイゴダンタイノミナサン、ドウカワタシヲタスケテクダサイ……」


もちろんこの放送が全国のお茶の間に流れ、大きな騒動を巻き起こす事になるのは最早言うまでの事でもなかった。













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