第2話 『宝島は桑畑』
ここは静岡県だ、ぼくの生まれも育ちもおんなじだ。目指しているゆく先の宝島は群馬県だ!父親の生まれ故郷らしい、その兄弟の在住してる地だ。因みに、母親は静岡県。
わざわざ群馬から静岡まで来た訳や、何の縁で一緒になったのかわからない、ぼくも深く追求はしない、自白するまで待つとしよう……。
翌朝一番からのんびりと、帰郷の空気を満喫出来るように眠い目を擦って夜中に発つ。そして車が揺れること……船の帆を張り羅針盤を見つめて追い風を探し宝島を目指すこと、三時間ちょっとで目的地だ。
旅をするコロンブスの気分だけど、舵をとる手の海賊の人間も居るが。
宝島までの道のりの半分は高速道路で、
あとは下道2時間半ほどで到着予定だ。
毎年、父親の仕事の都合でぼくの夏休みか冬休みに合わせて出かける。
途中のドライブインの駐車場で、大人には酒のつまみのモツ鍋を簡素な屋台でおでんも食べて夜食を済ませる、
航海はこの先まだまだ長い……。
大人の真似して爪楊枝を咥え再出発、県境を越え埼玉県の芋畑が見えてきたらひたすら真っ暗でとても狭い、国道とは思えない道をひたすら北上する。
道は狭いし、父親の運転技術が乏しいので大きなトラックとすれ違う度の文句が聞こえてくる。
ぼくは、バンの後部座席を倒して布団を敷き自宅と同じ様な就寝スタイルで横になっている。目を瞑るが、この文句の声とカーブで揺れながら寝れるわけがない。
大海原で途中からの天候悪化になり船酔い寸前の状態だ、母親が気を利かせて、おばあちゃんの知恵で家から梅干しをいくつか持ってきていたので一つ貰ってジュースで喉を潤すとだいぶ楽になった。
出発してから休憩停車以外、一度も起きず高いびきの隣で寝ている姉を羨ましく思う。きっと、図太い根性の持ち主だろうな。
ドライブインも開いていない夜中、正確にはもう朝方の時間。
背中の方から薄明るくなって来るのをムズムズ感じながら、真っ暗な林道を進み山をいくつか越え、どこかわからない寝静まった商店街の冷たく灯る街灯を通り、芋畑も田んぼに変わりだだっ広い青く現れた田園を、国道から県道の標識に進み宝島を目指す。
流れる田園を通る道路を暫く進み、日の出の光で大人の膝丈ほどの稲が揺れる緑色に変わってくる。
揺れる緑の間に高くて茶色の一本道、ローカル線の線路と並行な道を進むと、遮断機の無い踏切を渡る。舵とりの父親が運転姿勢を直し"もう直ぐだぁー"と呟くと民家の瓦屋根が見えてきた集落が現れる、すると父親が独り言を言い出す。
「あの山、
"赤城の山もぉー今宵限り……
かわいい子分のてめぇーたちともぉー
別れ別れになるぅーかどでだぁー……
おっ親分ッ!"
……って国定忠治は知ってるかぁー
左の山がその赤城山だぞ?」
「 …………。」
助手席の母親は、ずっと夜中じゅう隣で起きていてナビと父親が眠らないように気付薬の役目で疲れ果て、口を開け上を向き寝ていた。
ぼくは横になったまま布団を被り起きていたが今更相手にはしなかった。散々文句を言いながら舵を取っていたから、ぼくは熟睡も出来なかったから腹いせだ。
姉は相変わらずで、この車が事故をしても、爆弾が落ちてきても起きない状態だった、イビキは小さくなったがよく寝ている。
父親の一言の返事が無いまま、そのあと静まり返った車内でウィンカーの音だけが響く。
カッチ、カッチカッチ、カッチ……
面舵イッパーイッ!
民家の間に、青々しい桜並木が続くと父親は徐に右へ曲がり用水路の上の鉄板が敷かれた民家の入り口を入っていった。
滑らかなアスファルトから、砂利道の悪路になり、ここでやっと姉は目を覚ました。車中泊とはこういう事か?と納得する。
「着いたぁーー!」バタンッ
バタンッ、バタンッ
父親の雄叫びが、裏山と畑にこだまする。ぼくも両手をバンザイして背伸びする。
降り立った父親は徐に、家族のために遠慮していたタバコを取り出し火を点ける。
ここへ着く前に、一人時代劇をしたけど、この地と住んでいる静岡との共通点はそれなんだぁ、と一つ納得する。
父親の知らなかった面も、タバコ好きも、静岡へ移り住んでまたここへ旅しに来ている事も、父親のルーツなんだなぁと父親の歴史の勉強ツアーをしてある様だ。
もっともお土産と言えば、ここの他にも訪問する宝島へ行けば、お小遣いは必ず貰えたが、話し下手の父親の事を関心出来るのはこの旅の時間だけだろうと思った。
群馬の地に一歩を踏む。
ぼくの中では、目的地の港へ停泊、
何週間ぶりかに甲板から地面に変わった瞬間、両足で飛び降り大地を踏む。次の旅に備えて食糧と水を調達しなければ……と言う心境だ。
ここは、父親のお兄さんが営んでいる。養蚕農家と呼ばれ、蚕を飼育し繭を採り糸を生成する養蚕業だ。
詳しくはこちら↓
"養蚕業(ようさんぎょう)は、カイコ(蚕)を飼ってその繭から生糸(絹)を作る産業である。遺伝子組み換えカイコを用いた医薬素材の生産や、カイコ蛹を利用して冬虫夏草(茸)を培養するといった新しいカイコの活用も進んでいる。"
(Wikipediaより冒頭の一部を抜粋)
農家らしい土間のある平屋の大きな和風建造の家の隣には、蚕を卵から飼育する大きな倉庫の様な古屋と、庭を挟んだ真ん前には蚕の源の餌となる桑の木が一面に広がる桑畑がある。
つづく
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