元敵国同士の切り札が和平の象徴として結婚を前提に嫌々お見合いさせられた話~なんかやたら嫁が変な奴にモテてたので気苦労が絶えません~
二十八日目「『後で必ず王都を案内する』って、リッくんもそんなに知らないでしょーに」
二十八日目「『後で必ず王都を案内する』って、リッくんもそんなに知らないでしょーに」
──式典の準備は着々と進んでいる。今日だけで当日の段取りやら衣装あわせやら、おおよそ確認が終わった。
たった一日で終わったのは、私達の仕事は一時間にも満たない時間しか無いからである。
まあ大々的に『平和誓いまーす』みたいなこと宣言するだけだ。結婚式は私にとっては一生に二度と無い行事だけど、たぶん、観客にとってはおまけだろう。
結婚式の行程には、私の意見なんて一ミリも入っちゃいないの……あ、でも勘違いしないでほしい、王国の形式通りに進むことには文句はないんだよね。ただ、まあ、こういう時すら見世物にされるのはちょっと……ってだけだ。
今更なんだけどね。うん。
「…………はぁ、真っ暗。夜じゃないの」
っていうか、ユーリッドめぇ……。
『────悪いシェリーア、俺はこれから用事があるから先帰るわ! お前でなんとかうまい感じに貴族の人たちは誤魔化しといてくれ!! なんなら俺の悪口でも広めといてくれていいぞ!』
『はぁ!? 何言って!!? ……行っちゃった────』
なーにが、悪いシェリーア、よ。面倒なことを全部私に押し付けて逃げたなー!? 後で仕返ししてやる!!
────とは、全くなりはしなかった。だってその後にさぁ。
『────あの帝国人はどこへ?』
『────はは、帝国人は礼儀知らずと見えた』
『────帝国人は野蛮ですからな! このような場では耐えられないのも無理もない』
『────さあ剣姫様、今夜は我が────』
同席した貴族どもにべたべたべたべたと……何回斬ろうかと思ったか!!! あーーーもうっ!! 思い出すとむかむかするっ!! なーんで私を放置してどっか行くのかなぁ、あいつはー!!
「…………はぁ」
……分かってる。ユーリッドが何かをしようとしてるのは、重々に。
全部私に投げるのはどうかと思うけど、彼は彼なりに何かを……。
……何しようとしてんのよ、あいつ。そういえば。
いえ、きっと多分、まあそうね、あれでしょ。あれ。グランデくん対策。私は二日前のあの場で踏み込んでしまった方がいいと思ったんだけどね。
まったく。あの子が何度来ようが、返り討ちにしてやるわよ。だってあのときとは違って、魔法が使えるもの。ユーリッドだっている。
私にとって、こんな心強いことはないの。だから、あんまり無理はしてほしくないんだけど…………。
「────この後ろ姿、もしかして、リーアちゃん……?」
「…………ティーさん? あれ!? なんでこんなところに!!?」
振り返ると、ティーさんが何故か
なんで王都に? という疑問のつもりで言ったけれど、ティーさんは私がティーさんの王都滞在を知っていると思っていたみたいで。
「そ、それはこっちの台詞!! ここ、貴族様のいるような所じゃないし……ってリッ君はどうしたの?」
言われて周囲を見渡す。どうやらここは繁華街だ……言われた通り貴族のいるような高級なところじゃなくて、比較的安いものが売ってるような平民御用達なところ。
夜市の最中だろうか人は多かった。
……わあ気付かなかった、けっこう疲れてたのかもね。
「あいつ? あいつは今頃何してるのかなぁ……? わかんないや」
「…………そですか。リッ君てばー、わざわざ招待してくれたのは嬉しいんだけど、それなのに王都に来てからほったらかし……ほったらかしなんだよ!!? こんなの、あんまりよくないと思うよね!?」
「ええっ!? ほったらかしっ!? あの男、酷いなあもう!!」
「だよね!!」
「よおしユーリッド探しに行こー!! あの男を探しだして詫びのひとつでもいれてやれー!!」
「おー!!!」
「おおー!!!」
私たちは意気投合して、肩を並べて商店街に繰り出した────。
◆◆◆
────三十分ほど経ったけれど見つからなかった。三十分で諦めるな? いやまあ疲れたし……今日一日好きでもない野郎を相手になんてしてたし。
「……リーアちゃん」
「(もぐもぐ)、ん?」
「……肉まん美味しい?」
「うん!!」
「……そっかあ」
なんだか諦めたような目で見られてる気がする。なんでだろ。
「(…………もしかしてこういう緩みが私に必要だったのかな……?)」
「(ごく)ん? 何か言った?」
「ううん、なにも言ってないよ? 」
「ふーん、変なティーさん」
「はいはいなー……ってなにこれ」
俯いていたティーさんが、足元に何かを見つけたようでしゃがみこむ。
「……魔方陣?」
私も覗き込んだ。確かに地面に何かあった。
円陣の内側に五角の星が書かれている。ばっちり魔方陣だコレ。
「…………ねぇリーアちゃん、こういうのって見付けたら放置して大丈夫なの?」
「…………ダメだと思う」
「……リーアちゃん」
ティーさんが『どうにかできない?』と目で聞いてきた。
「え? あー、うーん」
……確かに私はこの魔方陣を破壊できる、けれど。いやあ、でも、どうだろう。破壊していいの?
魔法が使えるようになったとはいえ、私には全く専門知識がないので首を傾げてしまう。
だってあれ破壊するとき、種類によっては爆発とかするからね。何回か死にかけたことはあるけど、生き残ってるのは専門家がギリギリ看破してたからだ。
破壊するときに死にかけたのは単に失敗しただけです。てへっ?
「──ってこれ、リッくんの文字かも」
えっ。
あっ。
うーん?
「…………た、たしかにそれっぽいかも? いや、これ、ユーリッドが書いたやつだ!! ティーさんすっごい!!」
私は魔方陣に指を重ねる。確かにユーリッドによく似た魔力を感じた私はすっごく驚いた。
「えへへー、いやあ、お姉ちゃんなのでよく見ているものなのですよ?? 幼なじみだし」
ティーさんはこころなし嬉しそうに胸を張った。それから魔方陣の文字を凝視してから、一度、うんと頷いて。
「じゃあ、帰ろっか」
「え……あ、はい? あいつのこと探さなくていいんですか?」
突然、吹っ切れたように笑ったティーさんに、私は戸惑いつつもそう聞いたけど、ティーさんはとても自然に笑った。
「そんな事よりも昔のリッくんについて教えてしんぜよー!」
「えっ、昔のユーリッド、ですか!? ど、どんな感じだったの……!?」
「それはねー、あー、あのお店に入ってから教えてあげましょー────」
「お、良いですねー、あそこの小籠包はとっても美味いんですよ────」
ティーさんが指をさしたお店へと肩をならべて、私達は姉妹のように入っていく。
◇◇◇
俺は、立ち上がって地面を二、三度踏み締める。
「さてと、これで当日なにも起こらなきゃいいんだがな。今日は夜分遅くにありがとうございます、先生」
「君がそう言ってる時って大抵なにか起こるよね、ユーリッド。あともう君になにか教えることは出来ないし、先生というのは勘弁してくれるかな?」
「いやいや、イルミア先生は一生、俺にとっての先生ですよ」
「そうかい? ははは、それはよかった。それと、そうだ。一つ言い忘れてた」
「…………なんですか?」
「ブーケトス、やるだろう? 私に投げつけてくれないか? ほら、私、恋愛運ないだろう?」
「…………すいませ────」
────先生は言葉を遮るように、人差し指を俺に向けて、振った。
「そうじゃない。謝るな。迷惑だなんて思ってない。違うんだよ、私は期待してるんだからね? ……どうしたんだい、私のことを先生と言ってる癖にこんなときだけ呆然として、返事は?」
「はい……!! わかりました、絶対に投げ込ませます!!」
俺が返事をすると先生は満面の笑みを浮かべた。
「よぉし、OKだ。じゃあ先生も頑張っちゃおうか、な!!」
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