二十六日目(2)「仏の顔も三度までしか耐久しないので。」
「「死に晒せゴラァ!!!」」
「────ぎゃあああああああああああああ!!!」
俺とシェリーアは炎魔法をばらまきながら肉泥棒を追い詰めた。もちろん周辺に被害が出る前に炎は消えている。
肉泥棒は竜車に乗って逃げようとしたので竜を眠らせた上で竜車に乗り込んだところで車を爆破!!
火だるまになっている肉泥棒から肉を奪い取ったし、泥棒は拘束した。
「────まあ『死ね』ってのは冗談だが、二度とこんなことができねぇようにしてやる」
「ヒッ」
「まずはその手、ちょっと焦げてるがまだ動くだろ? じゃあ」
「ちょっとユーリッド、落ち着いて。肉は返ってきたわよ」
「いや肉がどうとか関係ねぇよ。俺達の邪魔をした、その償いをしてもらわなきゃなあ?」
「ひぃ……っ!!?」
「ゆ、ユーリッド、あんまりこう、痛め付けるのはやめて? ほら、人集まってきてるしさ? こう見えて私王都じゃ有名人なので外聞とかね?」
「知るか」
「はあっ!?」
「しゃーねぇなぁ! じゃあ盗人よぉ? この百人中千人が振り返るような絶世の美人さんに免じて質問ひとつで勘弁してやろうじゃねぇか」
「ユーリッド……!?」
「答えなきゃ丸焼きな?」
「ユーリッド!!!」
なんだよ、横で赤面したかと思ったら怒りだして、肩を掴んでガクガクするなよ……。
もちろんこんな人の集まってきてる往来で殺しなんかするつもりは毛頭ねぇっての。
俺の心のうちなんて他の人間が知るわけもない。シェリーアはガチで止めに来てるのはまあ、心に来るよね。信用がない。
「何をきく、つもりだ?」
────この盗人、何度か思い切り奥歯を噛み締めて居た。大方、自決剤でも仕込んでいたのだろうが無駄に終わったことで盗人は諦めた様子だ。
この一連の事件には当然のように裏がある。そして俺の脳裏にちらつくのは剣姫の
「そもそも俺は帝国の人間で野蛮なんで、黙秘しようものならまあ当然やる人間な訳だ」
「なんだ、なんの話だ早く言ってくれ!! 何を悠長に喋っている……!!」
「何に怯えてんだ? 狙撃か?」
「────ッ!!? なぜそれを」
「あ、これ質問じゃねぇよ? すまねぇな、紛らわしくて。あと狙撃の心配する必要はねぇからな。おまえ、喧嘩を吹っ掛けた相手のことを知らなすぎじゃねぇか?」
「狙撃?」
シェリーアが首を傾げた。こいつ、勘が鈍いときはとことん鈍いよな……男関係は特に。
俺はシェリーアの疑問符を無視して、盗人に聞く。
「じゃあ質問だ。『拠点どこ?』」
「────────言、」炎を鼻先に近付けると、盗人は言葉を切り上げて震えた。
「ユーリッド!?!? あんたもうすぐ何があるかわかってんの!!!」
「分かってるよ、こうでもしねぇとぶっ壊されかねねぇからやってんだ。な? そういう指示だったろ?」
「……それは黙秘する」
「ああ、それが賢い。俺が聞いてるのはお前らの拠点────つーかお前らのグループだけじゃねえだろ? 俺たちを狙い撃ちにするにはいくらなんでも障害が大きすぎる。仮にも首都でコトを起こすのに俺らが到達するまでに兵の一人や二人、居なかったのは不自然に過ぎるからな」
「……く」
「失敗して、その奥歯に仕込んであるのは焼身自殺系統の自決剤だろ? 大方俺の過失に見せるべく。まあ横の大馬鹿の方が俺よりもよっぽど加減も考えずに燃やしに行ったのは大誤算だろうが」
「は? 今馬鹿って」「はいはい言ったしこっちとしちゃ嬉しい誤算だったっつー事でありがとな」「……うん」
シェリーアは相変わらずコロコロと忙しく表情を変えている。まったくかわいい。
「で、まあ一応この後は王都の兵士さん達に任せたいところではあるものの、金か何かで真相を隠されるのは中々めんどくさい。だから俺としてはお前に情報を金持ちの庭にある彫像の口から流れる水のように吐き出してほしいわけなんだよな」
「……」
「まあ死ぬだろうなー。兵士さんに任せたらなー」
「……死ぬのは、怖くない」
「その割には火にビビってるように見えるけどな」
とはいえ、生物的な反射程度だろう。それもかなり抑え込んでいるように見える。下手をすれば焼き殺すまで言っても吐かないかもしれないと俺は思った。
「依頼者からは大金は貰った、その恩がある……黙h「じゃあ金やるぜ」幾らだ、金額次第でいくらでも情報を売ろう。さあ、さあさあ幾らだ!!?」
儚いな、その恩義。
◆◆◆
「お金を貰った上に牢から隔離し、安全も確保してもらえた!?」
「礼ならシェリーアに言え。この女が『殺すのは不味いよ! え!!? 兵士さんに引き渡しても殺されるの!? そんなわけないと思うけど、ユーリッド、本当にそうなら保護しなきゃ』とか言うからな」
「言ってないでしょーが、ユーリッドが『土地勘無いから場所案内だけ頼むわ』って」
「シェリーアが」
「ユーリッドが」
「まあまあお二方、あっしの為に争わないで……」
「「お前のためじゃない」」
「ヒッ」
真顔で凄んだ事で盗人さんは怯えて縮こまる。大体リーダーだから生かされているようなものだ、多分他の盗人は処分されていることだろう。
ユーリッドの話の筋からそのくらい察するし、また私はその程度であーだこーだ言うような甘ちゃんじゃない。ユーリッドの悪評が私たちの結婚前に立ったりしたらとっても嫌だから止めてるのであって、決して猫被りとかでもないし?
「正面から勝てないからって搦め手って訳だ。あいつ、雷落としても懲りねぇか……」
…………なんの話?
「さて、此処であってるな?」
ユーリッドから金の詰まった麻袋を受け取った盗人がほくほく顔で頷いた。
「へへ、あっしは嘘なんて吐きやせんぜ? お金の前では皆正直者になるでやんす!! いやはや戦争が終結して行き場をなくしてどうしようかと思ったでやんすが、なかなかこれだけのお金があれば商売のひとつでも新天地で始めてみたいでやんすね」
「突然口調が賎しくなったわね……って、ここ」
私はその広い豪邸の門の前で唖然としてしまった。
「あ? ここがどうかしたって言うのか? まあ、いきなりこう、でかいところに連れてこられるとは思っちゃいなかったがな……」
「へへ、どうせならセーフハウスより本丸の方に案内しちまった方が金になる。そうでやんすよね???? へへへへへ」
「あーそーだな。シェリーア、見覚えあんだろ?」
はいそうですね、見覚えはある。あるってもんじゃない。あるってもんじゃないから唖然としちゃってるのだよ。
「ま」
「「ま?」」
「またグランデくんなの!!!!!?」
目にしているのがエクスフォード本邸だったのだから。
「……ま、そんなところだろうと思ったよ」
驚く私を尻目に、分かりきってたかのようにやれやれとユーリッドは肩を竦めた。
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