二十日目(2)「剣姫と煉獄、死合う」
死霊術師とその眷属がいくら技能を共有しているなんて言っても、俺や先生は突然剣技の達人になったりはしない。なぜなら剣と魔法を同時に使ったことが無いからだ。そして俺も先生も知識があったところで筋力はない。
「燃えて、千切れて」
だが、シェリーアは違う。
元々魔力があった。剣を操る素養はあるし、まほうは一部の錬成系だけは操れるという尖ったやつだった。それ以外の素養はなかったが、それ故に共有がされて最も化けたと言って良いだろう。
いまのシェリーアには、ほぼあらゆる魔法が使える。それがどう言うことか、簡単に言うと遠近攻撃のプロが合わさり最強。真っ当にやりあったら負けるのは俺の方だ。
ただでさえそんなやべえ強さのシェリーアに対して、俺は先生と契約が切れたことで炎熱に関わる魔法以外は殆ど使えず、しかも満身創痍で動くのはままならず、魔力も大分減っているという。
「────これでどうやって勝てって言うんだよ、バカだろこの勝負挑んだやつ」
「ユーリッド様ですわよ」
知ってた。とにかく燃えて飛ぶ十以上の剣を地面にくくりつけるように凍らせる。炎熱だよ、氷なんざ温度変化で生み出せる。どういう理屈かはしらんけど。
って──うおお危な、今頬かすった!!
「毒よ」
「おま、ど、毒!!? 毒かよふざけんな!!?」
「抹殺する」
「正気じゃねぇ……あそうだ正気じゃなかったわ!!?」
しぬぅぅぅぅぅぅぅ!!!! 毒は無理毒無理対策全くしてなかったしそもそも炎熱じゃどうしようもねぇ!!
「さあ、首を寄越せ、苦しませないから」
「やぁだね!!」
首狙いで懐に飛び込んできたシェリーア。それを後ろに倒れ込むことで回避。髪の毛がパラパラと落ちてくる。切りやがったかー。
シェリーアは完全に殺る気だ。俺は当然殺すつもりは毛一本文もないが、勝たなければならない。
先生が消えるなんて御免だからな。という訳で背後を凍らせて地面を滑って離脱だ。
シェリーアは当然追撃するだろうがそれには炎の壁を設置する。あいつの行動が一瞬でも遅れてくれればいい。
「覚悟」
一瞬で壁を越えて降ってきた。相変わらず俺は仰向けである。そもそも立てない。顔に向かって剣の切っ先が降ってきた。
「っ、な、ぐ、おもっ!!」
首捻って避ける。胸を踏みつけられるのは、さすがに避けられなかったが氷を置いて防ぎ────切れてねぇ重いわこいつ!!! 1メートルの壁を踏み抜くなよ!!
「捉えた」
「残念そいつは分身だ」
俺がシェリーアの後ろに立っている。シェリーアはそいつを本物と思ったようで俺の上から退いて、そいつへと踏み込んだ。
因みにそいつが分身だ。一撃でぶっ壊されてたが、俺ならこの満身創痍でも背後から奇襲できると、過大評価頂いてるということかね。残念ながら無理です。まあもう殆ど力入んないね、体。
でも一応、完全に本体から意識が逸れたその隙に立ち上がることくらいは出来る。
「ったく、普通に拘束するのは無理くさいなあ」
「手伝いますわね」
リースがそう言うが、俺は彼女を睨み付けながら返事する。
「やめろ。悪い、無理とかは冗談だ。これは俺だけで勝たなきゃいけねぇだろ」
「そうですの? 死にそうですのよ? 貴方様」
「そうだな。今余所見すると死ぬから、その通りだな」
シェリーアに向き直る。あー、やべ、腹の傷が少し開いたわ。回復維持するのめんどいし……凍らせとけ。
「……何故、戦おうとするの?」
「なぜもなにもねぇよ、プライドの問題だ。────男の子なんだ、好きな相手に格好いいところ見せたいだろ?」
「全くかっこよく無いですのよ? やめては?」
うっせぇよ何で不機嫌なんだよリースハーヴェン。やめてよ心が折れる。なんだその目は、やめて……。
「好きな……相手……? 主ですか」
「……それだけじゃねぇよ」
「リースハーヴェン?」
「それはちげえよ」
「そこの全裸の氷像?」
「敵じゃなきゃ好感は無いことはないが違うわ」
「あそこでまだ気絶しているグランデ?」
「なわけねぇだろ」
「じゃああそこで高みの見物をしているあなたの義父?」
「え、いたのかあのジジイ……!?」
「そのとなりでなぜかニヤニヤしている〈時詠〉?」
「何でいるのになにもしてこねぇんだよあの人達は!!?」
いやマジで何で??? 止めてよマジ────いややっぱり今はダメだ。
「じゃあ誰に?」
「………………お前」
「……………………は?」
まるでわからない、みたいに言われ────それと同時になんだか、表情が揺らいだような。
「記憶違いでなければ、とても貴方も私の事を嫌っているように見えたのですが」
あっはいごめんなさい。それ、売り言葉に買い言葉です。最初から別に嫌いではなかったというか……最初は先生を故郷に返すために利用しようとしてたし、嫌っててもらった方が気が楽だった、と言いますか……最初から希望なんざねぇほうが楽というか……。
「……なぁ、シェリーア──」
「嫌な予感を受信しました殺します」
「急に戦闘モード入るか普通!!?」
剣をぶうんと振りかぶって飛び込んできた。不意を突いたタイミングではあるが、何でこの、言おうとしたタイミングか。完全に会話モードだと思って油断しちゃっただろ!?
だが、俺はちゃんと反応した。剣をギリギリで回避できた。そして、カウンターとしてやったのは──
──右手で胸を鷲掴みにした!!!
あー、触覚が死んでるからわかりませーん!!! だがどうだシェリーアお前はわかるだろ俺はわかんないけど(血涙)!!! 帰ってこい(大混乱)!!!
「にぇっ!?」
少し理性が戻ってきてるのか、反応があったが残念右腕は魔法で強引に動かしているので全くなにもわかりませんね。残念ッッッ(今世紀最大級の悲鳴)!!!
目論見通り────やっぱ嘘です本命外したわはっっっっっっっっっっずかしいわ!!!!
という訳で挙動不審に陥ったシェリーアに向かって左手を伸ばして本命の胸の谷間にある首飾りを掴みとる。
そんでありったけの魔力を首飾りに注ぎ込むっ!!!
「補強と属性強化とそれから麻痺属性の付────ょげほぁ!!!」
吐血。俺がしたのは首飾りについていた幸運の強化。それは掴んでる俺にも効く。
つかやっぱ血を吐いてるのは格好つかねぇ、が!!!
さっき言ったよな俺は!!!
「なあ、シェリーア、覚悟はいいか。俺はできてない!!」
────そんなにお姫様扱いされたきゃお姫様抱っこでもキスでもするからな────ってなぁ!!!
首飾りを今出せる力の限り思い切り引き寄せる。ぐいと、シェリーアの顔が近付く。
「ぇ、何をする気で──────」
◆◆◆◆◆
────口一杯に鉄の香りが広がった。
うわなに!?? なに!!? え!!? ユーッッッ!!! え!!!!! なんなの!!!!!? ユーリッドが目の前に!!!!!!!!?
「おう……戻ってきたか」
おう……じゃない!!!! なに! いまの!? まって、なんか思い出せそ────
「…………………ぁぅ」
────それどころじゃなかった。
え、なに。私なにされたの。わかる。口付け。接吻。俗に言うキスとかなんとか。魚のキスとか美味しいよね。
じゃない。なんでそうなったなんでまってユーリッドは私のこときらいじゃないの? なんでこんな場の勢いでこんななに、えっ、なに??? わかんないけどわかんない。完全に理解した。わかんない。
さっきまでなにも出来なかったけど今もなにもできない。なに? え? 今すごく混乱してることはわかるけどわからない。なにこれ。ん??????
「え、なんで……」
目の前がわからなくなった、冷たいものが頬を伝う。ワケわかんないなにこれ。なに、これ。
「ちょっ、な、泣くかぁ……? まって、キスしたら泣かれたんですけどやっぱそんな嫌なことだったんですかねこれ」
「殿方から無理矢理されたら当然嫌でございましょう」
「……ソウデスネ」
いや、まって。ちがう。ちがうから、ないてないし! そもそもなかないし!! なくわけないし!!
……………………泣いて……ない────ことも、ない。
「…………………ぅぅううううう、こわ、怖かっだぁぁぁぁぁああああ゛あ゛あ゛ああ゛あああ゛」
「ちょっ、抱きつ、やめっ」
────体が勝手に動いた。無理矢理とかじゃなくて、そうしたいという衝動が抑えられなくて。
いやほら、仕方ないじゃん。甘ったるいあの匂いが……あれ?
………………ん、匂いは……?
ま、仕方ないヨネー、ニオイスルモンネー。
「ユゥゥゥリッドォォォォォォおおおお!! ごわがっだあああああああ!!、」
「や、やめ、ちょっ、力つよ、死ぬ、死ぬ死ぬ死んじゃうからやめ」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああん!!!!!!!!」
そうだ、仕方ない。きっとそう思わされている、ってことで────だから、今は泣きついても、力一杯抱き締めてもいいよね? 甘えても、問題はないよね?
「死ぬ、し、ぬから……やめ────……ぐふっ」
「え、あっ、ユーリッド!!!? 死なないでユーリッドぉ!!!」
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