八日目(2)「私は(まともな)友達が少ない」
「シェリーアくん、久し振りに会ったのも何かの縁だ。君のその天才的な戦闘能力の源である体を弄らせてはくれないか?」
「申し入れて戴いたところすみませんが、その要求は受け入れることはできません」
────ロイズ=マシナリー。科学魔法で栄えるマシナリー家の次男。その家柄のせいか、家族みんな科学を信奉しており、彼もまた例に漏れず誰彼構わずサイボーグ化していいか聞いてくる科学狂いである。
ヤバいやつだ。
「メイフィールドのお嬢様、久方ぶりである。此処であったのも何かの縁。手合わせ願おうか」
「慎んでお断りいたします。ここは武闘会場ではなく舞踏会ですよ、危険ですので抜き身の刀を持ち歩くのは控えた方がよろしいかと」
────イアイ=ソードスター。ソードスター家の三男。まああれだ、二人目にして説明がめんどくさくなったけど、舞踏会会場に騎馬で突撃する袴姿の大男、というだけでなんかもう伝わると思う。
ヤバいやつだ。
「こんばんはーシェリーちゃん、ママになってー」
「こんばんは、無理ですよ」
────シルバー=グリーバー。暗殺家業で貴族までなり上がったと噂のグリーバー家。その四男である。戦場で殺した相手をママって呼んでるショタ、どっからどう考えても頭がおかしい。
ヤバいやつだ。
「やはり皆個性的じゃな! なあリーちゃんよ!!」
「あなたも負けず劣らずだと思いますよ筋肉卿」
────ガイ=マッスルウォール。マッスルウォール家の長男であり、自身を筋肉卿と呼び、回りにもそうさせる人である。他に比べたら常識的だって思うかもしれないけれど、舞踏会会場で上裸短パンでダンベルブンブンしていたら当然アレである。
ヤバいやつだ。
(……知識念話してくれるのはありがたいけどよ、普通のヤツはいないのか?)
「…………(ふいっ)」
────ユーリッド。人の心の声を盗み聞きしたり人の寝込みを襲ったり、握手を求めてきたら電気流してきたりスカート捲りしたりと魔導師兵らしい極悪非道変態を働く最低人間である。一般人のただのおっさんですよーみたいな顔をしているところが質が悪い。
………………。
「ごきげんよう、メイフィールド嬢。早速だがあっちにいい茂みがある。まぐあわないか?」
「ごきげんよう、お断りでございます」
────一般人の変態が紛れていたようだ。剣顕現、即斬「ぐびゃーっっっっっ!!!」茂みには一人で逝ってきてください。死んで。
「おいィ!?」
「……あれに対して抜剣するのは国王陛下直々に許可が降りてるの」
「おいおい冗談はその見ているだけでイキそうなくらいエロい体だけしておけ、メイフィールド嬢? それはそれとしてまぐあわないかな? 今日もまた、いい尻をしている」
「死ね」
「はっはっは、これは痛い」
剣を胴に受けても無傷。この男の名前は────。
「この発言の感じ、まさか、あの全裸騎士か……!?」
「おや君は見ない顔だ。誰なんだい?」
「ユーリッドだ。〈煉獄〉って言ったら通じるか?」
「ちょ……っ!?」
……こいつ、いきなり何を言ってるの!? その名前は王国ではあんまりよく思われてないって言うのに。
(どうせ後で話は通すんだ、先に言っておいた方が何かと楽だろ?)
「オォウ、君があの、皆をねちょねちょぐちゃぐちゃにして皆をイかせる沼に引き摺りおろす英雄かい!?」
「そんな言い方されたのは初めてだな……」
酷い言い様に、苦笑するユーリッド。私はこの男と腕を組むのを一度やめて、ある人を探す。
「いた、お母様ー」
「はしたないのう。走らんでも妾は動かぬぞ……それより、お主が今日の主役じゃろう? かかっ、似合っておるぞ」
「本当!? よかったー」
「所であの男はいるか?」
「ユーリッドのお義父さんなら見てないよ」
「そうか、問い詰めたいことがあったのじゃがな……坊やは?」
「あそこ」
「げ……」
指差した先でユーリッドは全裸騎士と仲良さげに談笑していた。
全裸騎士とは、盾と剣と兜以外無装備で戦場を走り回る英雄の男の事である。その顔は誰も見たことはなく、格好はアホなのに異常に強いのだ。
今でこそ鉄兜とタキシードを着ているが、以前別のパーティーでいきなり全武装解除した前科がある男。そりゃあお母様も『げ……』とか言う。近寄りたくないもん。
(ユーリッド、来なさい。お母様が呼んでる)
(わかった)
一緒に全裸騎士が来た。
「メイフィールド家当主様、ご機嫌麗しゅう。さてまぐ────ぉぉあぉぉぉん!!!!」
剣。
股へ。
振り抜く。
「おいィ!?」
「問答無用。すいませーん、外に出しておいてくーださい! ふんっ!! お母様にまで色目を使うんじゃないわよ!!」
「だからっていきなり金的は……」
「なによ」
「いや、まあ、仕方ねえか……」
────うーん。こうして考えてみると、ユーリッドは割と常識的なのでは? と私は少し思った。
「腕、寄越しなさいよ」
「折るなよ?」
「折らないわよ」
◇◇◇◇◇
────舞踏会では様々な事があった。
メインはこの場に居る貴族にだけ、俺達が結婚するということを知らせる事。ついでにパーティーをする訳だがきっと他の貴族にとっては逆なんだろう。俺達がついでなのだ。
ひとまず〈時詠〉とは色々話し合えた。どうやら何も手に入らなかったらしいが、想定の範囲内だ。どれも希少品ばかりなのだ。
「私がこうやってくっついてるのは単なるアピールだからね……だからって、下手なこと言ったらぶっころすわよ」
「分かってる。……どうせ話す相手なんか居ないしな。お前の方がボロを出すなよ?」
「誰にモノを言ってるのよ、これでも口は堅いのよ。私」
「そうかぁ……? お前、すぐ怒るじゃねえか」
「……っ! 何よっ、あんたこそそうじゃないの……!」
「そういうところだからな、気を付けろよ?」
「うぅ~~っ!!!」
なんやかんや隠れて言い合いつつも仲良しアピールしていたのだが、シェリーアが旧知の間柄の人達と話したそうにうずうずしていた。
まあ充分にしたしな、とシェリーアを送り出した。そんなわけで今、彼女は明るい会場の中で酒を片手に貴族たちと談話中。
対して俺は一人で暗い庭に出てのんびりしている。
性に合わない。こうやって月を見ている方が気楽だ。
……貴族になったらこうはいかないんだろうが、まだ少し先の話だし。
「ねぇ」
この庭はとても広い。というかどこの庭も生け垣で迷路を作るのだろうか?
……遊び心あるな。
「ねえ」
芝生も丁寧に手入れをされている。長すぎないし。芝生のよさ、どう良いのかは知らんけど。
「ねえ。聞いてるのかしら? もしかして、聞こえてない?」
「……誰だ、君は」
「見たら分からない?」
蒼銀の髪、蒼白の肌。黒のドレスを着た少女だ。年は多分……十代半ばくらい。
「分からね……ないですよ、俺はこの国の人間じゃないから」
一応敬語に切り替える。身に付けた装飾品やドレスが貴族らしさを演出していたからだ。
「匂うのよ、アナタ」
「…………まだ臭いかよ、ちゃんと風呂入ってるぞ……加齢臭とかもまだまだしないはずだしよぉ……」
「ち、違うわよ。気にしてたのかしら? 言い方が悪かったのね、そういうのじゃないわよ?」
「そうなのか……?」
「そうよ、……涙目になってないかしら!?」
「最近の若い子はみんなおじさんの事を臭い臭いって……」
「な、泣かないでくれるかしら!? 大の大人がそれはキモいわよ!!」
「ぐっ…………!!」
ヤバい、涙で前が見えない。つい先日自分の顔でみっともなく泣く奴がいたせいだ。
「ともかく、アナタはこっち側の人間よ。こんな濃密な闇の匂いを嗅いだのはいつぶりかしら……」
「────あーユーリッドぉ、居た居たぁー! ってうわっ、泣いてんの??? ボッチだから? それとも私が離れてたからかなー??? 私が離れてたからなら嬉しいなー!!」
「うっわ、酒臭っ!?」
シェリーアからは離れてても分かる酒の匂いをさせていた。
「あら、鼻の良い使い魔だこと……」
慌てて酔い醒ましをさせようと俺はシェリーアの方へと近付く。手を取れれば発動できるのだが。
「やーい当たりませんよーだ!!」
避けんな。千鳥足の癖にちょこまかと……!!
「しょーぶしよ、しょーぶ!! 触れたら勝ちー、よーいスタート!!」
「なん────うわっ!!!」
いきなりシェリーアがタックルをしてきた事で俺は思い切り押し倒された。
シェリーアの豊満な胸が思い切り押し付けられるが、相手は泥酔しているので嬉しいと言うよりもこいつを早くなんとかしないと……っていう感情が先行していた。みっともねぇよ!! 一応こっちも舞踏会会場だってのに!!
「えへへー、私の、勝ちー!!」
「ちょっ、離せ、〔酔い醒まし〕!! オラ!! 離せぇ!!」
「やー……っ!? 何するのよ!! 変態!!」
言うくせに背中に回した手をなかなか放さないシェリーア。
「変態はお前の、方だ!!」
シェリーアをはね除ける。
「ちょっ、乱暴にしないでよ、裂けたらどうするのよ」
「じゃあ手を先に離してくれ……。あれ、さっきの女は……?」
「え、女……?」
何故かシェリーアの声の温度が少し落ちた。怖い。
「青みがかった銀髪の黒ドレス女だよ」
「……そんな人、いたかしら……?」
……えっ。
じゃあ、さっきまでいた女は、何だ……?
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