元敵国同士の切り札が和平の象徴として結婚を前提に嫌々お見合いさせられた話~なんかやたら嫁が変な奴にモテてたので気苦労が絶えません~

リョウゴ

一章:政略結婚が嫌だ

二日目「剣姫と煉獄、居酒屋で飲む」


 まず、最初に言っておく。俺の名前はユーリッド。あー、そういや今度貴族になるってんでまたへんな名字が付くかも知れねぇけど、まだタダのユーリッドだ。


 生まれは帝国の辺境。戦災孤児の魔導師兵だ。


 魔導師兵ってのは……いわゆる狙撃担当、遠距離から魔導をブッ放す戦争の華とか言われてるヤツだ。咲くのは気持ちの悪い赤い華だけだが。


 そうだ、戦争だ。隣国のナンタラ王国(名前は覚えてない)となんかどっちが仕掛けたのかわからない戦争を繰り広げていた。どんな状況だったか、言い表すのに適切な言葉を俺はひとつだけ知ってる。


 泥沼だ。


 俺たち魔導師兵は一人で十人は仕留められる位に強い。一人で十人。算数が出来れば分かると思うが、黒字だ。英雄と呼ばれる位になれば、一戦場で五桁の兵を屠る。


 まあ軍隊は魔導師兵だけで構成されてるわけじゃない。全員が全員、敵を殺せるなんて甘い話はない。相手も同じことをする。常に血の舞う生臭い戦。嫌なものだ。もう……思い出したくもない。だが、本題はそこじゃない。これからだ。


 


 帝国の英雄は魔導師兵に一人現れたが、王国にもまた英雄は存在する。むしろ王国の方が数多く。……過去形だ。今残っているのは一人しかいない。全員殺し……死んだからだ。


「…………〈剣姫〉シェリーア=メイフィールド」


 剣姫という称号が表す通り、彼女はだ。


 剣姫。彼女は鎧を纏い、前線で剣を振るう姿から付いた二つ名だ。魔導師兵とは違う。本来であればどう足掻いても一人一人を殺せるかどうか、そんな世界で英雄と呼ばれるまでに人を殺した英雄。それも女。


 文字通り、化け物だ。


「人の名前呼んでおいてむすーっとしちゃって。何様のつもり? 大体、女を呼ぶのにこんな煩くて安っぽくて男臭い居酒屋を選ぶなんて、センスがないね。


 金色ピカピカ女。通称シェリーは目を細めてそう言った。


「るせぇ、あんまその名前で呼ぶな。ここには。ここじゃ俺はリッドだし、お前はシェリー。だろ?」


「だろ? じゃないわよ。ホント何様のつもり? 貴族様? あ、もうすぐ貴族になるんだっけ? オメデトー」


「あんがとよ」


「……皮肉が通じないわね、そう言うところ嫌いよ」


「俺もお前の上から目線、すっげえ嫌いだわ」


「思いが通じたようで何よりよ。……まったく、戦場の奥で魔法を打ってるだけで良い臆病者となんで私が……」


「そりゃあこっちの台詞だ、前線で剣振り回す野蛮人となんで俺が……」


「「結婚を前提にお見合いさせられてるのやら」」


 帝国と王国。かつて戦争を繰り広げていた二国は英雄の力のバランスが崩れたことやらなんやら(この辺俺は詳しくないからわからん)あってを結んだ。


 じゃなきゃ元敵の英雄同士が平和的に会うことは無いだろ? いや目の前にいるのはただの金髪碧眼の場違い女だが。


 そのシェリーとかいうやたらキラキラした場に似合わない露出も多いドレス着たアホ女が続けてアホな事を言う。


「まあ別に? 私もこう、下町暮らしが長かったし、何なら戦場でゆっくりご飯なんて出来なかったし、言ってることは贅沢なのは分かるわよ。ただ、初めてのお出かけ! ディナー!! 仮にもお見合い相手との、よ!? こんな気の抜けた温い酒を出すような居酒屋に!!」


「ほい(冷却魔法)」


「こんな硬い干し肉出すような!!」


「ほらよ(肉の水分を戻し、まるで生肉を焼いたかのように調理する魔法)」


「こんな硬い椅子を」


「こうか(クッションを生成する魔法)」


「うっだあああああああああああああああああああああああああああああああ!!! 何よあんた!! 十徳ナイフか!!!? ふざけるのもいい加減にしなさいよ!! 便利過ぎて一瞬『あ、家に一台欲しいわね……』とか思っちゃったじゃない!! 気の迷いだけれど!!」


「そうか(消音魔法)」


「──────、──────!!! ────!? ────────!!!!」


 なんか叫んでるな……。これがあの戦場で鬼に間違われるような〈剣姫〉とは、笑わせる。つか人の魔法で処理した肉、よくもまあ美味しそうに食うな……。なんだコイツ。


 元敵国の切り札同士が結婚すれば、平和の象徴になる。このお見合いはそういう目論見の政略結婚だ。なんか親父と目の前の酒乱女の母親が勝手に意気投合して発生した話とか聞くけども、一応そんな建前もある。子からしたらよーわからん話だ。


 血生臭いあの戦場に帰るくらいなら、俺はこの方が良いけどな。


「────っ」


 ────そんなことを考えていたら真横から銀色が視界を1/10秒にも満たない一瞬で横切った。俺は動体視力が良くないが、ナイフだろうか?


 すると直ぐ様に横からキャンキャンと甲高い叫び声が聞こえるようになったので、どうやら魔法がらしい。机ごと。


うわ俺のサラダが転覆した!!! これそこそこお高めなんだぞ!!!?


「おのれ煉獄消音魔法耳栓してたな!!? こんな飯のお礼も聞きやしないなんて迷惑通り越して失礼な男ね!!! このお肉に免じて今日のところは許してあげるけども!!! じゃあねバーカ!!! またねバーカ!! 覚えてなさいよバーカ!! 美味しかったわバーカ!!!」


 食べきったからか、言うだけ言って居酒屋から勇ましく出てってしまったシェリー。


「……いや明らかに叫び散らしてテーブルを魔法ごとナイフで叩き斬ったお前の方が迷惑だよ」


「お客さん、どうかしましたか?」


「いや、なんでもない」


 ここには真っ二つの机も、クッションの付いた椅子も、英雄〈剣姫〉も。魔法でそういうことにしながら、俺は店員さんに聞こえないように溜め息を吐いた。


「つか、思ったよりおっぱいでかかったな……」


 あのおっぱいで剣姫は無理でしょ。


 俺はクソどうでもいい事を考えながら頼んでいた酒をぐいっと煽った。


 …………温ぃ……。冷やすのめんどくさいな……。

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