爆弾と木枯らし

朝日 めぐ

空の下

 悪い夢なら何度も見た。怖い夢も一人で耐えられるようになった。

 それでも怖いものは怖い。苦しい事からは逃げたい。でも今までもこれからも、歯を食いしばって生きていくしか無いのだろう。

 「クソっ!ミカン、そっちから逃げられるか!?」

 「……大丈夫」

 私はそう言いながら、短機関銃で敵を牽制する。誰か撃たれたのだろうか、少しの焦る声が聞こえてまた心が痛む。

 「ほら、せーので投げるぞ!」

 そう言って渡されたのは閃光弾だった。閃光弾は嫌いなんだよなと思いつつ、この状況を打開できるのはこれしか無いので仕方なく手に取る。

 敵のマガジンのリロードが終わる。マガジンの音がすると、命を預けてきた壁も紙切れのように穴が空いていく。こんなの、理不尽だ。

 「いくぞ、せーのっ!!」

 光る。明るい。いや、眩しいくらいだ。

 私と彼女は閃光弾を投げた瞬間に走り出した。

 閃光弾を投げた方向とは逆に走る。まだ明るい。景色も明るい。

 このまま誰かに狙撃されてしまえば、こんなに苦しむ事も無かったのに。そう思えるだけの余裕がある事に気づいて、少し笑ってしまった。

 敵から逃げられた安心感からか、さっきよりも体が重い。まだ安心するには早いけど、それでもずっと戦っていたから敵がいないだけで安心してしまう。安心するのはまだ早いと自分に言い聞かせて、意識を集中させる。大丈夫、まだ生きてる。

 だんだん息が上がってきた。既に戦闘を開始して1日が経過している。体力はとっくに底をつきているだろう。

 でも、死にたくない。まだやりたい事はたくさんある。こんな所で死ぬ訳にはいかない。

 体力は無くなったが、まだ気力だけはあった。それが幸か不幸かまだ分からない。でも、少しでも私に価値があるのならば、それが幸になればいい。今はそう思って、味方との合流を急いだ。


 少しだけ、私達が負ける未来を考えてみた。今も戦闘している兵士がいるのに、こんなことを考えるのは不謹慎だと思いながらも好奇心には勝てない。

 そう、少し。たった十秒かもしれない。でも負ける未来はとても残酷で、そして当然の結果だと思った。弱かったから負ける、そういえばそんな簡単な事も忘れていた。

 「隊長、ミカン達が到着しました」

 「そう、よかった」

 ナナの顔を見ると、怪訝そうに私を見ていた。

 「ナナ、なにか私の顔についてるの?」

 「いえ、なにもついてませんよ」

 前にもこうゆう事は何度かあった。なんとなく気になるけれど、今回はのんびりおしゃべりする時間も無さそうだ。

 さっきまで遠かった足音も、今は近くなっている。多分、ミカン達だろう。ミカンは昨日の朝に行った後から連絡も何も無かったので、さっき無線が繋がったときはとても安心した。

 足音が止まる。ドアの方を向くと、ちょうどミカン達が入ってきた。

 「隊長、今戻りました」

 「お疲れ様。セナはミカンの分まで補充してから休憩。ミカンは報告ね」

 「はい」

 「へいへい。ほらミカン、武器貸して」

 セナがそう言うと、ミカンはしぶしぶセナに使っていた短機関銃を渡した。

 「ちゃんと丁寧に扱ってよ。壊れやすいんだから」

 「弾の補充と、あと整備は────」

 「自分でやる。私の机の上に置いといて」

 「はいよ」

 そう言ってセナは武器庫へと向かう。

 「それで、ミカン。どうして連絡がつかなかったの?」

 ミカンはバツが悪そうに笑った。

 「ずっと戦闘していて、休む暇が無かったんです」

 「そう、大変だったのね。どこまで敵は来てたの?」

 ミカンは苦笑しながら答えた。

 「どこまで、ですか……。本当に目と鼻の先まで来てます。増援はまだですか?」

 「ええ。本部からは何も」

 「ここの拠處どうするんでしょうね。私だって、敗走はしたくないですよ」

 「でも、今無事なのは、私とナナとセナとあなただけよ。それで、どうしろって……」

 自然と下を向いていた顔を上げてミカンの顔を見ると、ミカンの表情は不安と恐怖に染まっていた。

 「……ごめんなさい」

 「いえ。大丈夫です」

 そんな風には見えないが、彼女がそう言うからにはそうなのだろう。でも不安はつきまとう。

 「それじゃあ、少しは休みなさい。銃の整備もいいけど、少しでも寝なさいね」

 「そうしますね」

 私はそう言って、武器庫へと向かった。

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