第688話 島の3家

 イーズ家ですでに色々準備をしていたこともあって、すぐにとはいかなかったけどカヌムに帰還。


 なかなか濃かったクリスの一族。


 というか、クリスに憑いている精霊が一番力が強い存在なのかと思ってたんだけど、そんなことなかったな。


 力があっても人間を適切に助けられるかはまた別だし、背後で見学――見守ることを好む精霊もいる。牛とか。


 リードに憑いてた馬に至っては、助けてもいたようだけど、しょうもない影響も与えてたっぽいし。


 精霊は一筋縄ではいかないことを再確認。


 で、俺はまた同じ島に来ている。さっそく拠点を置く場所の下見です、下見。語り部のところには、ほとぼりが覚めた頃、行商に来た風を装ってまた聞きに行くつもり。他の語り部もいるみたいだし、そっちの話も聞いてみたい。


 島の事前情報としては、島には統治する3家があって、ハース伯爵家、ウェス伯爵家、イーズ子爵家。


 伯爵家2つは狭いが都市を治め、子爵のイーズ家は町らしい町をもたないが、広い土地を治めていること。


 本島――クラレッツとは交易以外のやり取りは少なく、伯爵・子爵という地位だけど、ほぼ独立してる感じ。


 なお、ハプロという島があって、元はそこが本国だったそうです。いつの間にかハプロごとクラレッツの王様の統治に変わってたそう。


 昔は伯爵家2家で仲があまりよろしくなかったけれど、イーズ家が均衡を保っていたらしい。騎馬と兵士はイーズ家の方が断然多かったんだって。まあ、それは今もだけど。


 イーズ家領の人々は魔物狩りもするけど、伯爵領の人たちはあまりしない。純粋な戦闘能力の差が大きいんだけど、伯爵2家と違い、イーズ家は今も昔も権力争いにも領土を広げることにも興味がないようだ。


 2家の対立が落ち着いたのは、交易の中心が北からナルアディードに移ったことによる状況の変化だって。反省したとか心を入れ替えたとかいう話じゃないところがあれだけど、世の中そんなもんだね。


 貿易の拠点がナルアディードから移ることはしばらくなさそうだし、かえってまた急に仲が悪くなるみたいな不安定な関係じゃなくってよかったと思っておこう。


 島の北寄りに高めの山があって、東西に裾野を広げ島を分断してる。正確に言うと、時計の10時から3時くらいにかけてかな。山には魔物がいて、北側に2つの町、南側にイーズ家。


 さて、どこにしようかな?


 拠点は町にって思ったけど、ルタを走らせるなら南側の緩い丘陵が続く方がいいんだよね。ただ、ルタも一匹じゃ寂しいだろうし……。


 イーズ家に預かってもらうことも考えたんだけど、だったら今のまま貸し馬屋でアッシュの馬と一緒にいてもらっても同じかなって。


 色々悩みつつ、現場に来てます。


 正直、ウェス伯爵領もハース伯爵領もどっちも似たようなもの。環境も税金も――移住のしづらさも。


 そういえば俺、人のいない誰のものでもない土地か、人の出入りの激しいところにしか拠点持ってなかったや。


 カヌムは冒険者の町で入れ替わりが激しいし、ナルアディードだって商人の入れ替わりは多い。強ければ、商才があれば、なんとでもなる町。


 が、ここは違う。なんの目的もなく住処を得るのは無理そう。


 商売する人はほぼ固定、その家の人が同じところでずっと同じ商売してる系。余程珍しいものなら参入できるかもだけど、ずっとその商売続けて地域に根ざします! みたいなのできないし商売を理由にするのも無理そう。


 この島で新しく人が入ってくるのって、本島にいる親戚から婿とか嫁とかもらうくらいっぽいです。


 港の飯屋で話を聞いただけで、ものすごく目立ったよ俺! 港に出入りする船も決まっていて、知らない船は天気の関係で避難してくるヤツくらいだって。


 行商も来るらしいけど、やっぱり来る人と商うものは決まっていて、商売終えたらすぐ帰っちゃうって。


 閉鎖的すぎる。いや、狭い町ではありがちというか、どちらかというとこっちが標準なんだけど。


 さすがに家を借りるとなるうと、交渉やら何やらで認識されるしハードル高すぎる。



「――というわけで、イーズ家の領地のどっかに、ハウロンの別宅ってことでお願いします」

カヌムに帰って来てクリスに頼んでいる俺。


「かまわないとも。場所を決めたら教えてくれるかい? 見た時に何もなくても、季節によっては人が使う場所もあるのだよ」

「もちろん。ダメなところはダメて言ってもらえれば移動する」

持つべきものは領主の息子の友です。


 領主の息子じゃなくてもクリスは得難い友人だけど。


「お前、ハウロンにも言っとけよ……?」

レッツェが隣で靴の手入れをしながら言う。


「うん、後で言いに行く」


 イーズ家の村に家を買うのは狭いコミュニティすぎてあれだけど、大賢者の別宅なら人の来ない辺鄙なところにあっても普通だし、いきなり家ができても普通だ。だって大賢者だもん。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る