第509話 潜る予定
「なんかナルアディードのある内海に火の精霊が転がってて、セイカイが
「ぶぼっ! ゲホッゲホッ!」
「ちょっ!」
おじいちゃん大丈夫!?
ハウロンが雑炊を噴き出して咳き込み始めた。レッツェは両手に自分の料理を持って、椅子を後ろに引いて華麗に退避している。
「悪ぃ、聞くタイミングを間違えた」
その体勢のまま、ハウロンに謝るレッツェ。
「ゴホ……ッ。アナタ、神と呼ばれる精霊の頼みを後回しにしてるの!?」
咳き込みながらハウロンが言う。
「別に期限切られてないし、猫船長のご飯の方が切実そうだったから。ご飯食べたら様子見してくるよ」
ネギと猪肉の小鍋、卵雑炊、茶碗蒸しで熱くなったところで、ソフトクリーム。
ノーマル、キャラメル味、カカオを混ぜてつくったワッフルカップ。そこにミルクソフトクリーム、自分で作ると色々試せて楽しい。今回はとりあえずノーマルを出してるけど、カカオ味のカップにベリーのソフトクリームも美味しかった。
「なんで隣町の親戚のじいさんの具合がちょっと悪いみたいな反応なの!?」
「やたら具体的な例えだな、おい」
レッツェが小声で突っ込む。
「セイカイ、上はムキムキだったし、下もよくしゃべてったし……」
親戚どころか知らない相手なんで、反応が薄くなっても仕方ないと思います。
「上とか下とか言わないで!」
キッと俺を見るハウロン。
「国単位への影響力を持つのが神と呼ばれるんだろ? あの地方のここ数年の旱魃ってのはそれが原因か?」
レッツェがハウロンを無視して聞いてくる。
「多分? セイカイも自分はちょっと我慢すればいいけど、人間やばいだろって言ってた」
「なら一刻も早く解決しなきゃじゃない!」
割とハウロン、勇者脳だな? 姉たちってことじゃなくって、無償で人のためみたいな物語の
ソレイユは心配しつつも商売につなげようとする逞しさがある。自分ももうかって、相手も助かるなら言うことないし、俺もそっちの方が理解できる。
「あの辺が落ち着いて国力を回復してくれないと、こっちもやりづらいのよ。
ため息をつくハウロン。
カーン王国のためだった。
国民が数人しかいないしね。食べることに切羽詰まった国や人は、何をするかわからないし。自分だけが飢えているならともかく、親しい人が飢えていたら、「いい人」もどちらに振れるかわからない。
衣食住……いや、衣食足りて礼節を知るって言うのはよくわかる。こっちに来た当初、俺も食うことしか考えてなかったし。ピンチの時こそ人間の本性が出るって言うけど、ピンチを作らないよう整える能力も大切だと思う。
「いちいち返り討ちにするのは面倒だし、それで後々しこりを残してもやりづらいでしょうし……」
机に懐いたように突っ伏してハウロンが言う。
まあうん、ハウロンも強いだろうけど、守りは完璧だからね! エスが荒ぶったり、わんわんが吠えたりするだろうし。
「今、小国の有能な官吏を丸っと引き抜けそうなのよね。他国に踏み込まれる前に決断してほしいんだけれども、欲しい人ほど国民が困らないために踏みとどまってるのよね」
ハウロンはこう見えて、カヌムで中原の情報収集をしている。情報収集をしているだけじゃなくって、色々仕込んでもいるみたいだけど。どっちも精霊を使ってやってるので、だいたい本人はここで机に懐いている。
山脈を越えて、海を越えた場所まで行っては、さすがに精霊たちも縄張り違いだしね。だらだらして暇なようでいて、安全なカヌムで色々画策してる悪の親玉みたいなことをやってる。
カーンも一日中暖炉に張り付いてることが多いけど、ハウロンよりは動いてる。現代を自分の目で見て知るっていう目的もあるけど、自由にあちこち行けるのが嬉しいんだと思う。暖炉の前にいる姿と、砂漠で初めて会った姿からすると、元々はどっしり構えてるタイプなのかな?
ハウロンが直接動かないのは、精霊を使ってるのもあるけど、カーンの方に忠誠を集める目的もあるんだろうって、レッツェが言ってた。大賢者の名に惹かれる人は多いんだそうだ。カーンを見れば、カーンが只者じゃないことは分かると思うんだけど。
「これから様子を見にいって、解決できるようならしてくるよ。ダメだったら、他で食料の確保頑張る感じで」
人の食べる穀物のほかにも、豚なんかの家畜が食べる分もなんとかしないと。
「大丈夫だろうが、あんま無理はすんなよ? お前が解決するって義務でもねぇし」
「うん。こっちもセイカイに条件出したし、まるっきりのタダ働きじゃないから」
レッツェに答えて考える。
時間かかるかな? 海の中はきっと昼夜ないだろうし、入る時は明るい時がいいけど、入っちゃったら陽の光はきっとあんまり関係ない。夜中までかかっても別にいいか。
「そういうわけで、お弁当を作ったら行きます」
「どういうわけよ!?」
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