第504話 謎は解けた?
「秘密基地は見ないふりしてやるのが、いい親ってもんだ」
グラタンのチーズを絡めとる手元を見ながらディノッソが言う。
お父さん!?
「絶妙に作っちゃまずいところにつくるのが子供だがな」
サラダをつつくレッツェ。
お母さん!?
じゃない、兄貴!?
「海の向こうは範囲外でございますので……」
穏やかな笑顔を浮かべる執事。
執事!?
――いや、執事は執事だった。
「……」
ハウロンが固まっている。
俺はどうすればいい? バレてたのは想定内ですって顔しとけばいい?
「貴様か……」
カーンが腕組みを解いて、片手で自分の額を掴む。
掴みやすそうな額だし、手も大きいからジャストサイズだよね。
「イメージが間に暗殺者を挟んでなお、気が抜けた島に……」
深いため息をついて俯くハウロン。
「なんだい?」
「ジーン、どっかに秘密基地作ったのか?」
クリスとディーンがぴんとこない顔。
いいんです。普通はそれくらいだと思うんです。だって、山を越えて海の向こうだよ? ハウロンは行ったことあるだろうし、執事もディノッソもいったことありそうだけど、レッツェに至っては行ったことないのになんでそんな詳しい?
実は千里眼のスキル持ちとか? いや、執事が集めた情報を全部聞いてるのか……。レッツェは安楽椅子探偵なの? 現場に行かないで与えられた情報のみで事件を推理する探偵? 隅の老人? 黒後家蜘蛛の会の給仕さんなの?
「いいわよ、アタシも知らないふりするわよ。まったく、黒幕が猫だったってくらい脱力するわ……」
頭を抱えてハウロン。
「う。聞けねぇ雰囲気」
「大人なら追求するな、ってことかい?」
「自力で理解しろってことかよ」
小声で話すディーンとクリス。
ありがとうございます。でもなんか納得いかないぞ!? バレてるぞってはっきり言わないだけで、バレてるよね?
「あ、猫といえば。島の商館が嫌なら間に茶色さん挟んでやり取りする? けっこう有名な猫らしいし、信用にはなるんじゃないか?」
猫船長にカーンとハウロンのところに、メール小麦を運んでもらうよう交渉しよう。契約があるから一度、ソレイユの商会に引き渡さなきゃいけないんで、ちょっと手間だろうけど。
「……」
ハウロンが顔を上げて、半眼でこっちを見る。
「あ、ごめん。猫船長って心の中で呼んでたんで、間違えた。キャプテン・ゴートさんです」
親山羊さんです。
キャプテン・キッドってこっちで聞いたら確実にキャプテン子山羊って聞こえる自信がある。
「有名どころじゃねぇか」
杯を置いてこっちを見るディノッソ。
あ、やっぱりディノッソってナルアディード行ったことありそう。と言うか、ディノッソの家もタリア半島の山の中にあったし、移動ルート的に寄ってるな。カヌムに来るために無茶な山越してきたけど、元々
「そのご様子ですと、キャプテン・ゴートが精霊に呪われ、猫の姿に変わったという噂は本当でございましたか」
「立派なトラ猫でした」
感心なのか納得なのか微妙な声のトーンの執事に答える。
「あんま、交流範囲を広げられると捕捉しきれなくなるんだが、ジーンの場合は相手が派手で情報を集めやすいところがなんとも言えねぇな」
レッツェが呆れたように言う。
レッツェが捕捉しきれないことってあるの?
「メールの地から、ナルアディードまでメール小麦を運ぶのもキャプテン・ゴートなのね……?」
「はい」
ハウロンの理解が早くて助かる。
「一応、両方と会わせて頂戴。それから決めるわ」
「はい、はい」
前向きにご検討、ありがとうございます。
「で、エス川の運搬はどうする?」
いくら大きい川とはいえ、途中浅瀬や滝までは行かないけど小さな落差もあるので、それを避けなくちゃならない。猫船長の大きな船では無理だ。
逆にエスの川船は頑張ればナルアディードまで来られるけどね。ナルアディードとエスの間の海は大きいけど内海で穏やかだし。ただ、川船は小さいし、海を進むには効率が悪い。
「そっちは目星をつけた荷船屋が二つほどあるわ。でも、ちょっと今は買収する余裕も人をつける余裕もないから、普通に運搬を依頼するつもりよ」
ハウロンが言う。
「了解。じゃあ、キャプテン・ゴートのところはいつ行く? 今のところまだ船の修理でメールにいると思うけど、出発しちゃったらナルアディード到着まで待ってもらわないと」
契約書があるんで、海峡を進んでる船の上に【転移】しても、それを外部には話せないから平気な気がするけど、後でほっぺたの人権が蹂躙される気配もする。
「アタシは明日でもいいわよ。レッツェの予定はどう?」
「おい、さらっと頭数に入れるな」
ハウロンに聞かれて、口に近づけた杯を離して半眼のレッツェ。
頼られてますね!
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