第404話 隠れたる女神

「だから俺は見えねぇんだって。精霊界所属の話は、そういうもんだと思って他人事だ」

レッツェが詰め寄ったディノッソとハウロンに告げる。


 毎回言ってるよね。神殿で精霊見えるようにしてもらえれば、ちょっと変わるのかな? 見えるようになるっていっても神殿にある魔法陣に乗ってる間とかだけど。


「レッツェもわんわんとかリシュは見てるだろ!?」

ディノッソがレッツェに詰め寄る。


「まあ……。次元が違いすぎて理解は諦めてる。俺がどうこうできるとは思わねぇし、そのまま受け入れるだけだな」

乗り出して迫ってくるディノッソを顎を引いて避けながら、半眼で答えるレッツェ。


「なんでそんな達観してるの!? 諦めが早すぎる……っ!」

机に突っ伏すディノッソ。


「終わりのおお……きゃっ! 何するのよ!?」

野太い声の割に字面は可愛く短い悲鳴をあげて、ハウロンが半身をひねって、飛んできたモノをローブの裾で上から叩き落とす。


 絨毯の上に落ちるフォーク。


 執事の攻撃なんだけど、なんでフォークとか、ハウロンってけっこう体術もいけるのか、とか。いや、体型的にむしろいけないとおかしいか、とか。


 執事がフォークを飛ばすところは見えたけど、思考はロクでもないことが浮かんで、対処のできない俺だ。能力があっても活かせないって、こんなことなんだろうな。


「ジーン様の子犬・・でございます」

執事が笑顔をハウロンに向ける。


「……そうだったわね。ごめんなさい」

ハウロンが謝り、フォークを拾って執事に返す。袖にしまう執事。


 やっぱり袖に暗器仕込んでるんだ?


「ジーン様にとって、いつまでも可愛い子犬でありますよう」

執事が俺の方を向いて会釈する。


「リシュはいつでも可愛いぞ。で? 終わりのなんだって?」

ハウロンに聞く。


「――もうこのお話は終わりにしましょう。そういえばス……わんわん様のお座には見込みがついたのかしら? 黒檀を探すならば手伝うわよ?」

ハウロンが立ち直った! ディノッソより先に復活するのは珍しい。


「ああ、黒檀は手に入れたんで大丈夫。犬小屋のデザイン、相談していい?」

「犬小屋って言わないで!」

再びの叫び。


「黒檀なんてどこで調達して来たんだ? 昨日の今日だろう?」

レッツェが首を傾げる。


「ああ、北の大地に湖があって――」

「ちょっと待って。嫌な予感しかしないわ」

手をあげて俺を制してくるハウロン。


「大丈夫、土偶と契約しただけだから」

ワインを飲む俺。


 なんかぷるぷるしてタメを作っているハウロン。


「大丈夫じゃないわよ! 北の大地・湖・土人形とくれば、失われた女神じゃない! やめなさいよ! 何で人の世界からは隠れた女神と契約してるのよ!!」

またハウロンが半泣き。


「失われた女神? 隠れた?」

「人の生活に大きな影響を与える女神でありながら、ある時を境に人を見限って姿を隠したのよ! 呼び出せるのは地の民だけ、それも夏至の日に限るの! どうやったのよ!?」

そう言えば儀式を取り行って、材木もらうとか言ってたような?


「呼び出すというか、湖の中にお邪魔した」

「凍らずの湖に? 氷が張っておかしくない環境で凍てつく水をたたえ、底がわからない、あの湖に?」 

ハウロン、そろそろ落ち着く気はない? 


 ディノッソみたいに机に撃沈してるのも困るけど、カーンみたいに静かに酒を飲むとか、レッツェみたいにつまみに手を伸ばすとか、執事みたいにナイフを布で拭うとか。


 いや待て、最後おかしいな? うん? 執事の行動としてはおかしくない? でもそれ、暗器だよね? 投げるやつだよね? ナイフだけど。


「自信はないけど、あそこ他に湖なかった気がするので合ってる?」

色々迷いの中にいる俺です。


「とりあえず、湖の底に生えてた黒檀はもらって来たんで材料は大丈夫」

「大丈夫じゃない、大丈夫じゃないのよ……」

そして机に突っ伏すハウロン。


 でかい男が二人、カードゲームをするためのテーブルを占拠しています。


「一応、カーンの国に飾るものだし、カーンにどんなのがいいのか相談したほうがいい?」

そう言ってカーンに顔を向ければ、グラスを口につけたまま、無言でこちらを見ている。


 固まってる?


「……ステカー様の期待を裏切らぬものであれば、俺は構わん」

しばし後、ゆっくりとグラスを置いて答えるカーン。


 起動した。


「アサスの台座を考えると、なるべく派手な犬小屋がいいか? 設置した全体のバランスも考えないと。部屋の入り口のデザイン、もっとよく見てくればよかった」

なんでもいいが一番困る。


「小屋は否定しておかねぇと、本当に犬小屋になるぞ?」

レッツェがカーンにむけて言う。


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