第185話 どっちの馬がましなのか

 飲み会再び。こっちの酒はこっちのルールに則って飲むけど、『食糧庫』から持ち込んだものと自作したものは控えている。あと一年したら二十歳だから来年からは堂々と飲める。


 レモンを五、六切れ入れたジンジャーエールを飲むことが多いのだが、本日はディーンがこっちのいい酒を開けてくれた。


 皮とか混じっていない濁りのない赤ワイン、こっちじゃ相当お高いはず。正直、まだ酒の美味しさはわからないのだけども、嬉しくなる。


 渋みの強いどっしりした赤ワイン。レッツェへの差し入れの籠には、チーズが三種類と豆腐の味噌漬け、バゲット、豚バラを塩胡椒とハーブをすり込んで三日ほど干したあとスモークしたの。あと酒。


 熟成度はワインとチーズ合わせとけば間違いないって【鑑定】さんが言ってるので、塩味の強めな熟成したやつを選ぶ。ついでにチーズの顔をしている豆腐の味噌漬け。


 レッツェがチーズを切ってくれてる間に、暖炉で豚バラを焼く。今回はつまみなので適当な厚さにスライスして皿に盛って準備完了。


「酔っ払え、酔っ払え」

笑いながらディーンがなみなみと注いでよこす。


「パンくれパン」

「はい、はい」

代わりにパンを寄越せというのでバゲットの皿をディーンの方に回す。


「相変わらず素晴らしいね! 次は私が白を用意するよ!」

クリスの大げさな物言いにもいつの間にか慣れたなと思いながら、杯を掲げて飲み会の始まり。


「牛……、いや山羊? なんだこの匂い」

レッツェが豆腐の味噌漬けをつついて不思議そうな顔。味噌ですよ、味噌。


 ワインは美味い、と思う。多分。ほぼ水分補給のための度数の弱い酒しか飲まないのでよくわからないのが正直なところ。


「クリスってリードとどんな兄弟なんだ?」

「普通だよ」


 普通。キャラが濃いせいか普通が想像できない。


「仲は悪くもなく、良くもなく。ある一点を除いては品行方正で自慢の弟だけど、可愛い弟と紹介するにはとうが立ってるね!」

うん、リードは二十三、四の青年だから可愛いって紹介されたらこっちも困る。


「うーん。実はリードに憑いてる精霊を見たんだけど」

「おや、私の弟の精霊は美しかったかい?」

クリスがワインを傾けながらにこやかに聞いてくる。


「ユニコーンじゃなかった。俺はティナとリードが一緒にいるところを見たことがないからあれだけど、もしかしたらちょっとなんとかしたほうがいいかもしれない」

「あー、俺ん時と一緒か」

俺の微妙な言い回しに気付いたのか、ばつが悪そうに遠い目になるディーン。


 この三人は俺が精霊に触れて、ディーンが受けていた精霊の影響を取り払ったことを知っている。


 それを聞いて難しい顔をし、考えこむクリス。レッツェは黙って酒を飲み、ちょっと気の毒そうにディーンがその様子を見ている。


 しばらくして目が合ったので、どうする? という意味で視線を外さず首をかしげると、笑顔で口を開いた。


「リードが戻ったら城塞都市の『精霊の枝』に連れてゆくよ。教えてくれてありがとう」

「ああ、本人に見せるのか。あそこ腕のいい魔術師いるもんな。高けぇけど」

ディーンが言う。


「精霊が見えるのか?」

「魔の森にゆく冒険者の一番の拠点だからな。『精霊の枝』やギルドに腕のいいやつが揃ってんだよ。精霊を憑かれた本人に見せて場合によっちゃ話せる魔法陣ってけっこう有名だぞ?」

レッツェを見たらにやっとした、絶対知ってたな!?


「大抵は術者にしか見えないものだね。私も一度、自分に憑いている精霊の姿を見てみたいけど、大金を払う気は起きないかな。見えて話せるって言っても契約には至らないからね」

貯金を出して、魔銀を売って、と指を折ってゆくクリス。軽く言った割に結構な大金がかかるようだ。兄としては弟に出させたくないなぁとぼやく。


 俺が魔法陣を作ってみてもいいんだけど、と言いかけてやめる。まだ時間があるし、作ってみてから言おう。大丈夫です、伝説の金ランクが拾ってきたことにすればアイテムの類は大体解決します。


「見せるだけで改善すると思うか?」

通常、悪意のない精霊が与える影響は、強い意志があれば振り払える程度だとはいえちょっと心配。


 気になって調べたら過去に神レベルの精霊がやらかしたことがあったらしく、はたから見ると何でそうなる!? という目も当てられないようなどうしようもなさのくせに、国全体が影響を受けて精霊が飽きるまで修正が効かなかった事例もある。


「今も諫めれば引き下がるからね、ちょっとユニコーンがついてるからって思って甘えてるところもある。騎士が仕えるべき君主を持つことは願いだけれど、ユニコーンが懐くような乙女に剣をささげるのは夢だから。だから我が弟はユニコーンとは違う姿を見れば変わると思うよ」


 あれか、ユニコーンに自分を重ねてるのか。ナルシズムな気配がするが、馬頭を見せて大丈夫だろうか……。思わず目をそらす俺。


「……やはりバイコーンなのかい?」

不安そうにそっと聞いてくるクリス。


 バイコーンは二本角で清純を象徴するユニコーンに相反し、純潔を穢す存在とされている。そっちか、クリスとディーンはそっちの心配してたのか!  確かにそんなのを見たら自覚持って抑制するよな。


 あとユニコーンは白いからともかく、バイコーン黒いし遭っても魔物と見分けがつかない気がする俺がいる。というか、魔物かもしかして?


「バイコーンではない。悪意のある感じもしないし、ルタと一緒にいる時は嫌な感じでもなかった」

マッチョオネェなつやつや光る馬頭です。


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