第183話 相変わらずのやり取り

「何かあるのか?」

「リードに憑いてるのはユニコーンではないと思う」

こっちの世界であれをユニコーンというなら仕方がないが。


「違うのか?」

「馬っぽいなにかだが。個人情報になるから……」

敵でもなければ味方でもない。事件も起きていないのに、人に憑いてる精霊の話をするのも何だかためらわれる。


 実は精霊の姿が見えているわけでないというあの衝撃の事実が判明した時、聞いてみたらディノッソとシヴァはエンのリスは見えているそうだ。だいたい人に好意を持つ精霊は、その対象と親しい人を認めると姿を見せてくれることが多いらしい。


 力が強い精霊が望むならともかく、普通にその辺にいる精霊は人の方にも見る能力がないとダメだけど。あと、もしエンに精霊が見えても、ディノッソとシヴァの精霊はプライドが高いので姿は見せないだろうとのこと。


 ……丸見えな俺はどうしたら。


「見たとしたら神殿か? たぶん見える目持ちヤツじゃなく、魔法陣で見たのかもしれねぇな。ありゃ、抵抗を受けるとはっきり見える前に魔力切れちまう。金を積んだ相手にゃ口も甘くなる」

「ちらっと見て、いい方に伝えたってことか」

よかった、どうやらユニコーンの認識がずれてるわけじゃなさそうだ。


「精霊の影響じゃねぇなら、本当に変態なのか」

「ティナは可愛いけれど、困るわねぇ」

「リードは王子様みたいだけど、ちょっと気持ち悪い〜」


 両親の意見とお子様本人の率直な意見が。


「別に金ランクの俺におもねってる感じでもねぇし」

「あと五年後に言ってくれればいいのだけど」

ディノッソが困惑して言えば、シヴァも困った顔で言う。


「パン屋の息子は?」

この間、店の前でティナが花をもらっていたのを目撃した。


「ジョンは鼻水、袖で拭くから嫌〜」

「花に鼻水ついてた〜」

「パン買えな〜い」


 ……ジョン、風邪かアレルギーかどっちだ? せめてハンカチ使え。それでも時々何人かと一緒に駆け回ってるのを見かけるので友達ではあるんだろう。


 ディノッソ家って、こっちの世界の住人にしては、衛生観念がしっかりしてるんだよな。俺が他の農家に行かなくなって、ディノッソ家に通うようになった理由の一つだ。


 シヴァが貴族だったっていうからその影響かな? シヴァの経歴が漠然としてるんだけど、生まれた時からあの精霊が憑いていたとしたら波乱万丈だった気がするので、過去を聞いていいものか迷う。なんか身分とともに過去も捨てたと思っている気配があるし。


 ……俺の周りって訳あり多すぎないか?


「どっちにしてもダメ。ティナは俺といるの! お父さんのお嫁さん〜って言った!」

「ダメ〜、ティナは今ジーンのお嫁さ〜ん」

笑いながら何故か腕を突っ張って言うティナ。


「お嫁さ〜ん」

「お嫁さ〜ん」

続くバクとエン。


 毎度のやり取りが始まり、最終的に全員が俺の嫁ということで落ち着く。たぶん本気でお嫁さんになりたいわけじゃなく、でも一緒にいたいと思う程度には好いて懐いてくれているのだろう。その証拠にアッシュ、ディーン、クリスとどんどん人が増えてゆく。


 ディノッソの家から出るとすっかり夜だ。


「リシュ、ただいま」

カヌムの家から家に転移して、駆け寄ってきたリシュをくしゃくしゃとなでる。


 俺はお茶、リシュに水と肉。水はどこでも飲めるし、肉も食べる必要はないのだろうけど、なんとなく専用の皿で出している。


 その後はしばらく遊んでブラッシング。暑くなってきたのに、夏毛に変わらないリシュは胸毛がもふもふ。暑そうだけど可愛い。


 明日はクリス、いやレッツェに会いに行こう。そしてついでにベッドマット作りの手伝いを頼もう。島と森の部屋のベッドとソファ分だから結構数がある。あと、ランプの組み立てとか。雨の日に俺んちでバイトをしてもらう方向でお願いしてみよう。


 それにしても、ソファ用のウレタン代わりになるような素材は何かないものか。耳かき用に竹も欲しいし、島の水源魔法陣を書き終えたらちょっとあちこちふらふらしてこようかな。


 そんなことを思いつつ、風呂から上がってベッドに入る。牛乳飲んでるけど、背は伸びたんだろうか? リシュが冷え冷えプレートにペタッと寝そべったのを見てランプを消す。


 そして翌日の夕方、朝っぱらから行くのもなんなんで酒と肴を持ってお宅訪問。賃貸物件になっているこの家は、人用の扉を開けると正面に階段、右手に台所とか、居間に続く扉がある。


 誰かいる時はこの扉は鍵がかかっておらず、開けっ放しなことが多い。今日も空いてたんで、先に覗いたのだが誰もいないというか、誰かが井戸で水浴びしてる気配。


 今日も暑かったから仕事を終えてさっぱりしてるのだろう。俺的にはまだそんな暑くないんだけど、こっちの人ってけっこう暑がりが多い。ディーンなんか年がら年中、半袖とか袖なしとか着てるし。


 とりあえずレッツェの部屋に行ってみることにして、階段を上がる。レッツェの部屋は二階の突き当たり。通りから入る扉に鍵はないが、当然ながら部屋の扉には鍵がかかる。


「おう、なんだ?」

ノックをすると、出てきた。井戸の水浴びはディーンかな?


「まず袖の下」

酒と肴の入った籠をおしつける。


「お前、先に断れなくするのやめろ」

呆れながらも受け取るレッツェ。


「オイシイヨ」

「カタコトになんなよ。ほれ、入れ」

「お邪魔します」

みんなの集まる下で喋ってもいいけど、水浴び中がいる。ついでにレッツェの部屋は色々なものがあって面白いので遠慮なく。

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