第6話 ディーンとアミル、カイナ

 翌日は朝っぱらからカヌムの冒険者ギルドへ。冒険者としての登録は、お金を払うかギルドからの依頼を一度無償でこなすか。手っ取り早くお金を支払う。


 ギルドの中は窓が少なく、薄暗い。なんで酒場が併設されてるんだろう? 体を動かす仕事で命がかかってて酔っ払いって最悪じゃないだろうか。それとも仕事終わりの打ち上げに使うのか?


 冒険者用のタグができあがるまで暇を潰さなきゃならないのだが、朝っぱらから酔っ払いに混じりたくない。幸いなことに酒場だけでなく資料室もあったので、職員に断って資料を読む。読むために金がかかるのもあるし、写しが売られているのもある。


 とりあえず魔の森の資料から。地形、出やすい魔物の場所、倒し方、何に利用されるのか。戦いの歴史は斜め読み。


「で? 冒険者の基礎を学びたいって? あと護衛の依頼か」

「ええ。一通りの手順と、あとは自分がどの程度なのかわからないもので助言をいただければ」


 冒険者の手引きを見つけて、読んでいたら男が一人来た。


 戦うなんて初めてだし、自分がどの程度できるかも謎だ。依頼は誰でも出せるというので、お手本にできるような安全・・なパーティーに付き添いを願う依頼をその場で出した。変な顔されたけど。


 来たのは一人だ。俺には人の良し悪しを見抜く目がないので、自選で来られても困るのだが。なんというか今までの環境のせいで、基本全員敵に見える。


「俺はディーン、ランクは銀の二つ星だ。強制依頼で後進の指導を五人しなくちゃならなくてな。あんたが最後の一人だ」


 品行方正なパーティーが紹介されるのかと思ったら、教官が来た。一応自選ではない様子? 二十代後半だろうか? がたいのいい兄ちゃんだ。


 冒険者のランクは青銅・銅・鉄・銀・金。青銅から鉄まではその中で星の数が五つあって、銀と金は三つ。金の三つ星が最高ランク。


「自分はジーン、一日よろしく」

じんが元の名前だが、ちょっとこちら風に。今聞いたディーンの名前に慌ててちょっと伸ばしてみたともいう。お陰でちょっと似た名前になってしまった。


「ちょっと、ディーン! 勝手に選ばないで頂戴」

銀の二つ星なら破格だと思ってたら、ギルド職員が来た。


「うるせえな。貴族の相手なんかごめんだって言ったろ! 俺を利用するんじゃねぇよ」

慌てた様子でこちらにやってきたギルドの職員をディーンが睨む。


 どうやらギルドとしては、ディーンに貴族のお守りをさせたかったようだ。ここのギルド、貴族を優遇するのか、面倒そうだ。


「いらんゴタゴタに巻き込まれるのはご免なんだが」

「すまん、ちょっと待ってくれ、今片付ける」

そう謝って、ディーンがまたギルド職員に向き直る。チラチラこっちを見てくる職員。俺と同じか少し年上に見えるが仕草は子供っぽい。


 ストロベリーブロンドは金髪と赤毛の混じった珍しい髪の色だが、それよりもピンクな髪が肩のあたりまででゆるく巻かれている。このカラフルな髪色の世界に慣れられるだろうか。


「明日にはクリスが帰る。ヤツならギルドの強制依頼じゃなくても貴族なら喜んで相手をする、相手の指名は銀ランクなだけで俺じゃないだろ?」

「そうだけど、あんまりクリスだけに偏ると貴族とのやりとりの窓口が固定されちゃうわ」

「俺は窓口になんかならねぇっての。冒険者に頼らないでギルドでやれギルドで」

「そうしたいから一人に偏らせたくないの。今ここに銀ランク二人しかいないんだから、ちょっとは協力して欲しいな」

とりなして欲しいのか、あひる口みたいに口をとがらせつつ、こっちを時々チラチラ見てくる。


 俺、もう帰っていいかな?


「アミル、よしなさい。兄妹だからって甘えすぎです」

「カイナさん!」

「カイナ、助かった」

「ディーンが甘やかした結果ですね。ディーンも後進の教育は断っても構いませんが、ギルドが挙げた候補から選ぶものです。――みっともないところをみせて申し訳ありません」


 最後は俺に、カイナと呼ばれたギルド職員が頭を下げてくる。なるほど、やたら馴れ馴れしいと思ったら年の離れた兄妹か。どっちにしろアウトだが。


「いや、いい。こっちも依頼を取り下げる」

「ありがとうございます」


 何を勘違いしたのかアミルが礼を言ってくる。


「代わりに良さそうなパーティーに声をかけておきますね」

どうやらディーンへの依頼を取り下げる、と思っている様子。


「依頼を取り下げておいてくれ」

アミルを無視して、カイナの方を見てもう一度言う。ギルドへの依頼は成立してもしなくても手数料がかかり返金がない。依頼の取り下げは口頭でもよかったはずだ。


 貴族も面倒だけど、姉だとか妹だとかがどうも地雷だ。普通に仲のいい姉弟兄妹もいるんだろうけど、今はまだ冷静に見ることができない。


「おい」

「大変ご迷惑をおかけしました。依頼料はお戻しいたします」

ディーンの言葉にかぶせてカイナがもう一度謝罪してくる。


「いい。代わりにこれを貰っていいか?」

手に持った、冒険者の手引きをあげてみせる。これは依頼料よりは安い。


「はい」 

カイナからの返事を聞いて、何か言いたそうなディーンとアミルをスルーしてギルドを出る。


 本当に他所でやって欲しい。


兄妹まとめて記憶の忘却ボックスにつっこんで終了する。こっちでは人間関係我慢しないぞ! しがらみないし!


自由満喫中なのだ。

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