主人公概念な世界に終止符を!

キュータロー

第1話

友人キャラ。

ギャルゲーや乙女ゲー、それに恋愛にとってこのキャラはとても重要な役割を担っている。


時に主人公とヒロインのイベントを起こしたり、ヒロインの好感度を上げるアイテムをくれたり、ヒロインの情報や好感度などを教えてくれるこの友人キャラ達はさしずめ恋のキューピッドの様な役目を担っているとも言えるだろう。


誰からも評価されず、主人公ばかりいい思いをする。

主人公という圧倒的太陽の影に隠れてしまうことで、恋愛ができず、只々主人公のために自分自身を犠牲にする。

果たしてそんな友人キャラは今の人生で満足するのだろうか?


友人キャラになる奴なんて、相当なお節介野郎かバカ野郎のどちらかだと俺はここに記載しておこう。


◇◇◇◇◇◇



カーテンからは光が差し込み朝がやってくる。

バタバタと階段を駆け上がる音。

鳥の囀り。

満開の桜。

まるでなにかの始まりを告げるような朝。

勢いよく階段を駆け上ってきたその人物はバタンッ!ととある部屋の扉をこじ開けると未だベットでスヤスヤと眠る少年の部屋へと転がり込んだ。


「ふっふふ〜ん♪」


形の良い唇をニッと上げスーッと大きく息を吸い込んだその少女は、次の瞬間少年に向かって大きく叫ぶ。


「海斗おっきろー!朝だぞー!」

「うっわああああああ!!」


耳元で大きな声を出された事で、驚いたようにベットから飛び起きたカイトと呼ばれた銀髪の似合う少女にも見える少年は一瞬呆けて、大声を出した張本人の少女を見つけると軽く睨みつける。



「梨花!起こす時はもっと優しく起こしてくれよ!心臓が止まるかと思っただろ!」


梨花と呼ばれた栗色のボブショートの少女は眩しいほどの笑顔を浮かべるとまるで子犬の様に無邪気な顔を浮かべた。


「だって今日は高校最初の登校日だよ!テンション上げてかないと!」

「僕のテンションはダダ下がりだよ!」


海斗ははあーっと少し溜息を吐く。

しかし梨花はそんなの気にしていない様に早く着替えて!と未だシーツを被った海斗を引っ張る。

しかし海斗は何かに気が付いたのかそんな梨花に抵抗して頑なにベット・・・。否シーツを剥ぎ取られない様にしていた。


「ま、待って梨花!今は不味い!僕のエクスカリバーがヤバいから!部屋から出ってくれ!」


しかし梨花ははて?と首を傾げているところを見ると絶対に意味を理解していない。


「意味わかんない!早く早く!」

「やめて!お願いします!」



必死に懇願する海斗だが、全く聞き入れない梨花。そんな2人の仲睦まじい?朝のコントを打ち破る存在が突如現れた。


「2人とも何やってるの!早くしてよ!朝ごはん冷めちゃうよ!」


その少女は海斗と同じく銀の髪を持ち顔立ちもとても良く似ていて、彼の妹だと理解するには簡単だろう容姿をしていた。


「ああ妹よ良いところにきた!梨花は早く下に行ってご飯食べててよ!僕も早く行くから!」


まるで神を讃える様に妹に賞賛の声を出す海斗。しかし妹の方は何やってんの?と冷めた目で見つめ、早くして!と怒る様に手に持ったお玉を海斗たちに向けるとプンスカと一階へと降りていった。それに続き梨花もうーっとどこか渋々と言った表情を浮かべるも大人しくそれに従う。


海斗は相変わらず変わらない幼馴染の態度に少し笑うとカーテンを広げて、青い空を見上げた。


「今日から学校か・・・!楽しみだ!」


そうして少年は人懐っこい笑みを浮かべるとよしッと真新しい制服に身を包み始めるのだった。



ヽ( ̄д ̄;)ノ=3=3=3


その一部始終を向かい側の家から見ていた1人の少年・・・、まあ俺は今日もやってんなーっと思わず1人ぼやく。


今日から俺も彼らと同じ高校へと行くのだが、彼らとは全く違うテンション。背反対と言っても過言ではないほどに憂鬱な気持ちでいっぱいだった。


これから始まる学校生活。俺は何だかやらかす様な予感しかしないのだ・・・。そう俺は恐らく高校デビューに失敗する気がする。そしてこの先彼らと関わることで一体どれほど程自分の時間が潰れてしまうのだろうか・・・。


そう考えると俺 一ノ崎 拓也は溜息を吐き出すのを止めることは出来なかった。


暗い気持ちのまま学校へ行く支度を終えた俺は一階へ降りると無駄に広い廊下を歩き、昨日の余り物のオカズを温め、市販に売ってるパックの味噌汁と炊いておいた米を盛り朝食の準備をし、いただきますと手を合わせて食べ始める。


まるで流れ作業の様な場面で分かる通り俺以外の家族は今この家にはいない。

父と母、それに弟と妹は今とある事情で海外に行っているのだ。


中学2年頃からこの生活を続けているおかげか、1人でいることにすっかり慣れてしまった俺は朝のニュースを聴きながら、特に寂しいと感じることもなく黙々と箸を進めて行く。


「今日の天気は午前中は晴れますが、午後はお天気が下り坂になるでしょう。傘を持って行くことをお勧めします。さあ続いては占いです!」


星座が2位から11位まで発表されると俺は眉を上げてテレビを見る。

7月末生まれの俺は獅子座なのだが今発表された順位の中には入っていなかったのだ。

普段から占いはあまり信じない方だが、星座占いだけはついつい見てしまう。


残るのは1位と12位。


どっちかなーっとテレビを見ていると、1位は獅子座の貴方です!っと言うキャスターの声が聞こえてきて思わず。

おおーっと声を上げてしまった。



「今日は人生最大の幸運が訪れるでしょう!やる事なす事全てがうまく行き、昔の友人にも出会えるかも!ラッキーアイテムは水色のハンカチです!」


今日はどうやら良い1日になりそうだ。

ラッキーアイテムは水色のハンカチだと言っていたな・・・。


タンスの中に確か水色のハンカチを閉まっていたはずなので学校に行く前に取り出そう。そう心に決めた俺が食器を片付けていると、突如鍵のかけていた筈の扉がガチャッと開かれ、ドタドタとこちらに向かってくる足音が家中に響く。



それが誰だかなんという考えは俺にはない、この時間に来るのは決まって1人しかいないのだから。


「おっはよ〜拓也!学校いこ!」


バタンッ!とドアが開かれ、にぱーっと見慣れた笑顔を覗かせる彼女 春川 梨花はいつもと変わらないテンションで、俺に挨拶を返してきた。

彼女の口元には海斗宅で食べてきたであろうご飯粒が数粒付いていて、俺は思わず溜息を吐き出す。



「おはよう梨花。お前顔にご飯粒がついてるぞ?」

「ふへマジ?どこ?」


見当違いの所を触る梨花に再度溜息を吐いた俺は、洗い物を終えると手を拭いて彼女の口元に付いたご飯粒を慣れた手つきで取る。


「全く・・・。俺達はもう高校生になるんだぞ?しっかりしろよ」

「えへへ・・・。ごめん」


少しテンションの高い梨花はなんだか頬を染めて行くが、無視して取ったご飯粒を口元に運ぶ、その光景を見ていた梨花は顔を真っ赤にさせ慌てて俺に詰め寄ってきた。


「拓也なんで食べるの!!」


あまりの圧に体を仰け反らせる俺だったが、何故そこまで彼女が興奮しているのか、訳が分からない。


「いや勿体無いからに決まってるだろ。知ってるか?米には七福神つって7人の神様がいるらしいぞ?だから残したりしたらバチが当たってしまう」

「いや・・・。そう言うこと言ってるんじゃないんだけどなあー」


なんだか小声でボソボソ言っているが、

俺には何を言っているかさっぱりわからん。


「それよりも学校に行くんだろ?ちょっと準備するから海斗の家で待ってろよ」

「うえー!良いじゃんここで待ってても!」


頬を膨らませながらそう文句を言う梨花。


可愛い・・・。


こいつ海斗の事好きなくせしてなんで俺に付きまとうんだ?


「お前海斗の事好きなんだろ?あいつ異様にモテるから今のうちにアピールしとかないと取られるぞー」


奴 佐藤 海斗はそれはそれは小、中と異様にモテていた。

正義感が人一倍強く、運動神経も抜群、その甘いルックスを持つ彼がモテるのはもはや必然とも言ったほうがいいだろう。


海斗とは小6から中学3年間と同じクラスで、妙に馬が合う事や、家が目の前だと言うこともあり今では親友と呼べる程仲良くなっていた。

そんな俺は中学時代、海斗に恋心を持った少女達と海斗の仲介役やら海斗の情報を扱う情報屋の様な事もやっていたのは記憶に新しい。



まあもうあんな思いはこりごりだが・・・。



「拓也には関係ない事だよ・・・」


なんだか暗い表情の梨花。相当気にしているのだろうか?



その答えに俺は肩をすくめるとその反応が気に食わなかったのか梨花が反撃といった様にとある言葉を口にした。



「拓也だって・・・。理穂ちゃんのことどう思ってるの?告白したんでしょう・・・?」



何でこいつは一番嫌な記憶を俺に思い出させるのだろう。星座占いも星座占いだ全然何にもうまく行ってないじゃないか。



「お前はそれがどんな結果だったか知ってる筈だよな最低かよ・・・」

「・・・!ご、ごめんなさい」


俺が思わず黒い感情を吐き出す。

そんな俺の様子にやっちゃたと言わんばかりに一歩後退った彼女はより一層暗い表情を作った。


流石に強く言いすぎたな・・・。


彼女の暗い顔を見て我ながら少し子供っぽい感情を出したなと俺は反省をすると少し溜息をついて、彼女の頭に手を乗せる。



「すまん言いすぎたな・・・」

「い、いや私こそごめん・・・」



と少し涙目になりながらも頬を染め、濡れた目で上目遣いに見上げてくるそんな梨花の顔はやはり可愛いの一言しか浮かび上がらない。


俺はそっと彼女の頭から手を外すとタンスから水色のハンカチを取り出し、胸ポケットに入れてソファに置かれていた鞄を手に玄関へと向かう。


「さっさとでろー。鍵しめっぞー」

「ふぁーい!」



いつの間に盗んだのか、昨日買っておいたチョココロネを口に咥え梨花は手を上げてそう返事するとタッタッと外へ出て行く。


それに習って俺も靴を履き、ドアの鍵を閉めると不意に暖かい春風が頬を撫で、桜の花びらが舞い上った。



「もうこんな季節か・・・」


改めて春なのだと実感しとある記憶が脳内に蘇る。


「ああ・・・。前世よりもやっぱりこの世界の桜は綺麗だな」


俺は決して不思議ちゃんでも、厨二病を拗らせてたどこぞの学生というわけではない。


俺にはしっかりと前世の記憶があるし、この世界は俺が前世で見ていたとあるアニメの世界観そっくりだということ、そして自分が主人公の友人キャラだとも理解している。



だからこそ俺こと一ノ崎 拓也は改めて誓うのだ。


俺はこの世界で友人キャラの仕事を放棄し、この主人公ご都合主義な世界に宣戦布告をすることに・・・。

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