サイダーカラーのワンピースガール
長月 有樹
第1話
パァアンと気持ちの良い音が駅前で鳴り響いた。そして一人の少年の頬が紅葉の形を赤く染まる。
「信じられない」
張り手をした少女は怒りの激情をそのまま言葉に乗せる。うっすらと涙を浮かべて。
「っつう〜〜!!何でだよ、てか何がだよ」
叩かれたところを押さえつつうずくまりながら少年は少女にいう。
「全部。あんたが告った事、ぜんぶ!!」
「何でだよ!!三年前から好きだったって俺の気持ちを全部乗せの熱い告白が何で信じらんねえだよ」
短髪。でこは見えており髪の毛は整えたのか寝癖ながら持ち上がっている少年──西野蒼太は声を張り上げる。本当に今、自分は全力で持てるものを全てを。気持ちを全部込めて告げた愛の告白のお返しが、コンマの世界の速さでやられたビンタに憤慨をしている。
登校中の夏の日差しがまだ勢いを止めない猛暑日。愛知県の田舎の駅前で二人は言い争いをしている。
そんな二人に通勤、通学中の会社員やそして同じ高校の生徒達が足は止めないけれども視線を集中させている。
そして、蒼太に告白をされ、ビンタをした少女──星山林檎はその注がれる視線に恥じらいを覚え、若干頬を染める。先程までは限りなく殺意に近い不快感を蒼太にぶつけていたが、少し冷静を取り戻し言葉を続ける。コホンと嘘っぽさのある咳をして整えてから。
「あんたその全力の愛の告白?を昨日はサチにしてなかった?」
「したよ」キョトンと悪びれる事も無く蒼太を続ける。
その反応を見て、林檎のコメカミにうっすらと怒りが浮かぶ。
「一昨日は2組の田井中さん、先週は吹部の椎橋先輩、更にその前の週は陸部の弥生ちゃん、更にその前の週は里穂に告ってるよね??」
「だーから!!したって!!それが何だよ!!」
蒼太は先程からの林檎が言ってることが自分とぶたれた事と何が繋がってるのか理解をできなく、苛立ちをぶつける。
「そ!!れ!!!!!が!!!!!!信じ!!!られないって!!!!言って!!!るの!!!!!」
瞬間湯沸かし器が如く再び林檎のボルテージが上がる。
「だーーーからぁあ!!何で前に告ってる事で林檎に告ってる事が信じられなくなるん!!だよ!!!」
「それを信じられるってほーが馬鹿でしょ!!!何で三年前から好きって言ってるヤツが。その前に告ってるのよ!!!………ソレも全部フラれてるし……」
「うっ……うるせっ」
怒りを止められなくなっていたが、最後の方は林檎は哀れみすら感じていた。
駅前は先程と変わらずに会社員や学生が主であったが。白装束のローブを来た集団がぞろぞろとやってきた。
うわっ……来たと林檎は兎に角この場から立ち去ろうと話を終わらせようと。
「とにかく!!そんな事を言ってるヤツを信じられる訳無いじゃない!!!あ〜もーーー!!ハズカシ!!とりあえず私、今日は先に行くから、着いてこないでね」
と高校の方へと林檎は駆けていった。まだ同じ学校の生徒たちが自分に視線が注がれるのに気づき、俯きながら走るスピードを速めた。
「ぁあ!!おい!!待て!!!林檎!!!ついてこないでって、俺も同じ学校だから!………ってそんな事じゃなくて俺は本気だぞ!!マジで三年前から!!!!お前の事が好きなんだぁぁあ!!!おーーーい林檎ぉお!俺はマジだかんなぁああ!!!」
後ろから響いてくる蒼太の叫びが耳に入ってくる。そして走るスピードは緩めずポツリと呟く。
「三年前って……コッチは十二年前からだっつーの。馬鹿蒼太」
先程、怒りの激情より、更に真っ赤に顔が染まる。
「信じられるのは。まぁ幼なじみの私くらいかな」
口元が緩むのを抑えきれずに。空を見上げる。変わらず照り着く太陽と青い空、灰色が混じる白い雲……だけでなく……
「それに。いつ終わるか……ぅうん……下手したら明日終わるかもしれないからね、こんな変な世界」
林檎は目を細め空を見続ける。輝きに満ちた目に少し闇を携えながら。
照り着く太陽の隣には白い太く何よりも巨大な腕が空に佇んでいた。その異様な光景が異様ではなく、林檎たちの当たり前になっていた。掌を広げて空中にある。まるでこんな世界なんてちっぽけで簡単に握りつぶす事なんて簡単にできると。主張するように。
終わりが恐らく『いつか』ではなく『きっと』来るであろうセカイで少年と少女は愛に夢中だった。愛をぶつけて忘れようとしているのかもしれない。その『きっと』を。
サイダーカラーのワンピースガール 長月 有樹 @fukulama
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