第212話 遠距離攻撃? 水の勇者の痕跡

 巨大な巨大な土龍が倒れてくる。 


 まるで木こりが切り倒した巨樹が予想外の方向に倒れていくように――――


 メイルは逃げる。逃げる、逃げる、逃げる。にげる……


 そして倒れた。


 砂漠という地形上、舞い上がる砂煙は過去に経験したことのない規模となり、視界を零になる。 いや、それだけではない。


 その余波は、砂という極小の物体を大量に四散。 もはや、土の津波の襲い来る。


 ・・・


 ・・・・・・


 ・・・・・・・・・


「お~い、メイル! 生きておるか?」


「メイルちゃん? どこ、返事をして!」


「こ、ここにいます! 無事です」


 土の山。両手だけが出てブンブンと振られている。


「あれ、どうやって呼吸できてるのかしら? 声も?」とエルマ。


「そんな真剣に考えている場合じゃないと思うのだけど?」とカレンも続く。


「いえ、本当に……助けてください!」


 メイルは2人から両手を持たれ、大根のように引っこ抜かれた。

 

「げほん、げほん……ほ、本当に死ぬかと思いました」


「大げさね。メイルなら生存するための魔法が幾つもあるだろう?」


「い、いえ師匠。 最初は身を守るために魔法を使用していたのですが……」


 メイルは、その様子を思い出して、相当怖かったのか? 身を一度震わせ、


「土の津波の飲み込まれ、地面が上下左右わからなくなって、お酒のカクテルみたいにカシャンカションって振られたみたいになって……」


「そ、そうか。それは災難だったな、メイル」


「あぁ、あぁ……耳に砂が……うぅ、口の中まで……水で洗いたいです」


「はい、メイルちゃん。水ですよ」


「ありがとうございますカレン姉さん……でも、砂漠で水は貴重なのでは?」


「ん~? そうでもないみたいよ。あの土龍の死体を調べてみなさい」


「死体を?」と疑問符をつけ、言われたままに土龍に近づいて行く。


「……濡れている? 水を使用した攻撃ですね」


「うん、乾燥した空気だけど、若干の匂いが……水の匂いがするのよね」


「姉さん、それはオアシスがあるという事ですか?」


「うん、そう遠くない位置。 ここまで匂いが届く距離だからね」


 水の匂い。メイルの鼻では、スンと鳴らしてもわからない嗅覚であったが、姉であるカレンが感じ、師匠のエルマも否定しないという事は事実なのだろう。


 そう彼女は判断した。 それから、忘れていた疑問を口にする。


「そう言えば、土龍を倒したのは?」


 エルマもカレンも首を横に振る。 


「私もカレンも、土龍を狩った者の気配を察知できなかった」


「え?」


 メイルは、一瞬、その意味がわからなかった。


 エルマ、最強の暗殺者を育てた伝説の暗殺者。


 カレン、最強の暗殺者を超える次代の暗殺者。


 その2人が気配を読み取れなかった。


 あり得るだろうか? そのような事が? あり得るとしたら……


「水の勇者……ですか? 離れた場所にあるオアシスから攻撃を、それも2人に気配を気づかれずに……それが可能なのは?」


「おそらく、そうだな……急ごう。水の勇者が移動して姿を隠さないよりも早く」


 師匠が急いで移動の準備を開始する。 


 普段とは違い余裕が抜けているのは、自身の気配察知能力に引っかからない存在に焦りのようなものを感じているのかもしれない。

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