第209話 VS八岐大蛇

「~~~ッ!?」と困惑。 精神がぐちゃぐちゃになるメイル。


 さらに追い打ちをかけるように、出現した魔物は、普段なら町の近くで見かけるようなものではなかった。


「これは――――八岐大蛇ヤマタノオロチ!? どうしてこんな所に出現を!」

 

 それは大蛇。


 しかも、見上げる巨体に8つに枝分かれした首と頭部。


 別名としてキング・ヒュドラ―として扱われることもある。 


(ここは町の門から少しの距離。門番や旅人さんたちもこちらを見て不安がっています。なら――――)


「姉さん! お師匠さん! 両人は攻撃に集中して町に近づけないでください。 私は最終ラインを! 最後の壁となります」


メイルが指示を飛ばす。


エルマも「ほう……実戦となれば顔付も変わり、指示も的確になるか」と誉める。


その間に前に出たのはメイルの姉であるカレンだった。


普段は、穏やか。おっとりとした彼女であるが、今は人ならば射殺す事ができるであろう大量の殺意をもって八岐大蛇へ飛び掛かっていく。 


「お姉さん! その技は!?」といつも横で見ていたはずの技にメイルは思わず反応してしまった。


その技とは――――


 ≪魂喰いソウルイーター


暗殺者が唯一使えるとされる攻撃魔法。 魔力によって構成された刃が、あっさりと――――


八岐大蛇の首を2つ同時に切断してみせた。


(す、すごい。義兄さんよりも発動が早かったです。それに切れ味も――――)


だが、心の内で絶賛するメイルとは裏腹に、もう1人は、


「うむ、なんと言うか……雑だな」


「え!?」


 その声の主、エルマの発言に驚くメイル。


「弟子の教え方が悪かったのか。私の指導が悪かったのか……本来はこう」


 エルマの肩が僅かに動いた。そうとしか見えなかった。


 しかし――――


「暗殺者ならば発動すら見せてはならない」 


 エルマの声と同時に、新たに八岐大蛇の首が落ちた。


「――――っ!?」とカレンですら絶句する妙技だった。


しかし、すぐに気を取り直すと、


「だったら、これはどうですか?」と移動系スキルを発動。


一瞬で八岐大蛇の胴体へ飛び乗るカレン。 そして放ったのは――――


 

 ≪致命的な一撃クリティカルストライク


 

 八岐大蛇の巨体が内部からの衝撃によって、さらに大きく膨らんだように見え――――動きを止めた。


「ほう、ただの牽制技。対人でしか使えぬと思われていた ≪致命的な一撃クリティカルストライク

威力を跳ね上げさせ一撃で魔物を滅ぼすほどに磨き上げたか」 

 

 エイルは真似をするように素振りをしてみせる。


 それに対してカレンは、どこか自慢げだ。 


 だから、それに気づいたのは離れていたメイルだけだった。


「避けてください! まだ八岐大蛇は生きてます!」


 その声を合図に2人は素早く離脱した。 しかし、開かれた八岐大蛇の顎。 


 切断された3つの首を外して、5つの首は毒々しい紫の息を放出した。


 毒々しい? いや、まさに強烈な毒素を含んだ気体。


 僅かでも吸引すれば、即死の猛毒。 それが、2人が回避した後方――――町に向かって排出させた。


 しかし、エルマとカレンは考えなしに回避したわけではない。


 最後の防御ライン。 メイルを信じて、そして彼女も、それを理解して――――


不可侵なる壁ウォール・オブ・アンタッチャブル


 それは絶対なる不可侵。


 八岐大蛇の猛毒?


 少数が住む村なら一息で滅ぼす毒素? 


 だが、それはメイルの防御魔法によって防がれる事は決定付けられている。


 そして、人を害す猛毒ならばこそ、浄化され――――ただ健やかな風へ変わるだけだった。


「お前の妹、流石に凄いな。正義の勇者に選べれるほどはある」


「そりゃそうよ。貴方の弟子の相棒よ?」


「なるほど、そりゃ納得。さて――――」


「そうですね。まだ動いている八岐大蛇――――」


「「とどめをさしましょう」」 


その後の八岐大蛇をどうなったか? 語るまでもないだろう。

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