第201話 ベルトの敗北 地獄の炎

 ≪死の付加デス・エンチャント


 不死の存在を殺すためだけのスキル。 それを大魔王シナトラに叩きこむ。


 だが、手ごたえは――――


「効かぬ……効かぬぞ? ベルト」


 叩き込んだ直後、動きが硬直した瞬間にシナトラは杖を振るう。

 

 回避は不能。 辛うじて防御が間に合う。


「――――なぜ、聞かぬ。……そうか」


死の付加デス・エンチャントとは『死』という概念を打ち込むスキル。


 だが、今の大魔王シナトラは――――死を克服している。


 これにより、死の概念が曖昧になったのだ。


『黒き稲妻』


 シナトラの広範囲魔法。 避ける事は不可能……本来ならば。


 ベルトは走る。 一撃でも当たれば、この戦いの勝敗を決めかねない攻撃。


 竜王ゾンビという足場を利用して、地面に向かってかけ下がっていく。


「むっ……そうか、背を向けて逃げるのか。 ベルト・グリム!」


「誰か逃げるかって!」


 加速したベルトの体は飛翔。攻撃魔法の終了を狙って、一瞬でシナトラの目前まで戻り――――


 「≪死の付加≫……冥王襲名バージョン」


 黒い外装。  白い瘴気が立ち上る。


「おぉ! 冥王の力か! これを超えれば……貴様を!」


 シナトラの魔力が跳ね上がる。 そして、それは炎を変化して、その手にある杖に集中していく。


 ベルトの打撃。 繰り出される連撃をシナトラは、素手で弾き――――


 一瞬の隙をつき。杖をベルトの体に――――


 「黒い炭にでもなるがいい――――さらばだ。ベルト・グリム」


 閃光。 一瞬、眩い光にベルトの体は包まれ、炎上。


 そのまま、龍王ゾンビから落下した。


 それを大魔王シナトラは見向きもしない。


「最強の暗殺者ベルト・グリム。もはや他愛なし……ならば、次は勇者を討つべし」


 それだけ口にして、龍王ゾンビは移動を開始した。


 ・・・


 ・・・・・・


 ・・・・・・・・・


 高所からの落下。 全身を焼かれ、呼吸すら危うい。


 だが、それでも彼は生きていた。


 復讐。 もう一度、戦えば――――


 彼の精神、彼の肉体は、復讐を誓う。


 魔王の魔力。 全身を焼き尽くし、肉体を炭へと化す地獄の炎。


 それはいまだ消えない。 それどころか勢いを増している。


 明らかに不自然な炎の揺らぎ――――もし、この場に高名な魔法使いがいたら気づくかもしれない。


 ベルトの肉体が、彼の意思すら無視して、分析――――魔力を帯びた炎を分解して、再現している事を――――





 


 

 


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