第202話 夢、意識を失ったベルト

 ベルト・グリムは夢を見た。 高所から落ちる夢だ。


 占いによると、落下の夢は運気の下落。 何らかの警告の暗示らしい。


 ベルトは、そんな事を考えていると、不意に記憶が蘇ってきた。


 「俺は……負けた? 大魔王シナトラが蘇っただと!?」


 その衝撃は夢から目覚めるには十分なほどだった。 しかし――――


 「……どうやったら、目が覚める?」


 どうやら、人間は夢だと気づいても自由に目を覚ます事は出来ないらしい。


 途方に暮れていると――――


 「いやいや、コイツは夢なんて甘いもんじゃねぇぞ。 暫くは2人きりって……俺だって男を2人きりなんて冗談じゃないわ」


 突如としてベルトにかけられた声。 その声の主は―――


 「お前……冥王か?」


 「おいおい、忘れちまったのかい。今まで散々、力を貸してやっただろ? まぁ、貸してるどころか、心臓ごと取られちまったわけだがな!」


 そこには、かつて冥界で戦った王が立っていた。


 ・・・


 ・・・・・・


 ・・・・・・・・・


 世界会議。 


 人類は、大きな動きを生み出すには会議をしなければならないようだ。


 「大魔王シナトラが復活してベルト・グリムが破れた……なぜ、事前に情報が、予兆すら読めなかった!」


 怒声を飛ばすのは、ある国の軍部代表。軍人だ。


 威圧的に振る舞い、指導権を得ろうとしているのだ。


 「それで、戦犯であるベルトはどうしている? 何が単純戦闘なら勇者や魔王よりも強いだ。無様に負けているではな――――」


 「義兄さんなら、まだ眠ったままです」


 そう言ったのはメイルだ。 しかし、普段の彼女とは違い、聞く者が凍り付くような冷たい口調。


 「むっ――――そ、そうか。 容体は、どうかな?」


 明らかに軍人の口調が変わった。 メイルに威圧されたのだ。


 「体の一部が炭化しています。 それでも義兄さんの自然治癒は炭化した部分が再生している最中です。 集中的に回復魔法を続ければ、いずれ目を覚まします」


「ふ、ふん! 聞きしに勝る怪物だな。 炭化しても回復するのか」


威厳を取り戻そうと、眠りにつくベルトを侮辱するように話した。 


すると――――


「今、なんとおっしゃいました?」


「――――くッ! い、いや、何でもない」と視線を外す軍人。


 様々な戦場。 剣を魔法が飛び交う死地でありながら、何度ともなく最前線で戦っていたはずの軍人。


 (こ、この俺が、忘れていたはずの恐怖を思い出すほどの……これがベルト・グリムが相棒として選んだ少女――――ッ。見た目だけではわからぬ怪物性を、有している!)


 威圧するつもりが、逆に威圧された軍人は黙り、自分の席に戻った。


 (これ以上、何かを話したら殺られる。あの殺気……戦場以上だ)


 彼は、必至に隠しているが、乱れた呼吸と汗。 


 その場にいた皆が、軍人の動揺に気づいているが、それを指摘できない。


 それほどまでにメイルの存在は―――


 そんな中、恐れずに「メイルさん」と話しかける人物がいた。


 勇者カムイ……正確には、その分体だ。


「ベルトさんは重傷です。復帰には時間がかかりますが、魔王が復活した以上は勇者探しは急務となりました。引き続き、頼めますか?」


「……はい。ただ、もしも――――」


「もしも? なんですか?」


「もしも、勇者探索で大魔王シナトラが邪魔をしてきたら……殺しても構いませんか?」


その言葉は発した直後、メイルの前にあった机が割れた。


彼女の殺意が質量を得て、机を破壊してみせたのだ。


純度の高い殺意が質量を持つ。それはベルトが得意とした技術だった。

     

 


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る