第176話 解決

 エパス私兵団員 キリリは捕縛された後、尋問で当時の様子をこう語っている。


「見えなかった。あの従者は帯刀しているように見えず、間違いなく丸腰だったはずだ」


 だが、間違いなくシルフィドは帯刀していた。


 対峙していた彼らが、それを見えなかったのは……


 魔法とか、そういうものではない。


 技術


 優秀な剣術家は、腰に下げた剣の存在自体を敵に気付かせる事無く抜刀する。


 シルフィドの一撃は、間近にいた敵に叩きこまれた。


 無論、敵も鎧を着こんでおり、その攻撃は胸当てに当たったはずだが


 相手は、その場に倒れ込みた。 


 見れば、金属であるはずの胸当てが剣戟により大きな凹凸が…… 


 シルフィドの剣戟に胸当てが耐えきれず、体の内側までめり込んだのだ。


 胸骨は砕かれ、胸の内部に収納された両肺及び心臓に強打を浴びせた。


 口から漏れ聞こえる苦悶が効果を証明する。


 屈強な私兵団に戦慄が――――否。確かな恐怖が、その場を支配する。


 砕かれた戦意。それでも、逃げ出さない事をほめるべきである。


 そんな男たちに向かい、悠々と歩くシルフィドは――――


 「……2人目」


 次の犠牲者が受けたのは袈裟蹴り。


 肩を打たれ、その部分の鎧が弾ける。


 鎧が弾けた音だけではなく、同時に鎖骨が折れた甲高い音が周囲に広がる。


 こうなれば私兵団も気づく、シルフィドには殺す意思はない。 


「――――ならば!」と踏み出した3人目。


 やはり防御力の高い鎧部分を叩かれ、悶絶も味わう。


 確かに斬られて死ぬことはない。だが、その激痛は耐えがたく……


 斬り捨てられなくとも、激痛のまま死ぬことがある事を失念していたのだ。


 「3人目……4人、5人……」と倒した相手の数を呟くシルフィド。


 その姿が醸し出す恐怖によって恐慌状態に陥って者たちから次々に地に倒れ、死屍累々の山を築く。


 悪夢は、


 「……これで64人目だ」


 ついにエパスを覗いて、全員が倒れるまで続いた。


 そして、その剣先はエパスの鼻先まで付きつけられる。


「ひぃ……わかった。反乱は起こさない! だから、だから、命だけは……む、娘がいるんだ! 助けてくれ」


「呆れた。また娘に頼るのね」とマリア。それから、彼女は、こう続ける。


「貴方、勘違いしているわ。私は、別に貴方らの反乱?それとも革命?それを止めようとしているわけじゃないのよ?」


「な、なにを……」


「当り前じゃない。他国の反乱なんて……起こされた国が悪いに決まってるわ」


「――――ッ! 他国のお前が何を知る!」


 その瞬間、エパスの瞳から恐怖が消え、現れたのは反骨の貴族であった。


「私が、否! 我々は腐心してく国家を、どれほど憂いたか!」


 そう怒鳴りつけるエパスに、マリアは


「素晴らしい。それ! それこそが正しい貴族像ですわ」と絶賛した。


「何を、貴様は何を! 何をしたいんだ!」


「あら、貴族商人が所望する事なんて、この世で1つの真理だわ…… わかりませんこと? ならば教えてあげるわ。


 商売よ?」


 「……」と表情が抜け落ちたエパス。目の前の少女が何者かわからない。


 ただの化け物のようにする感じられた。


「反乱を起こすなら、是非ともフランチャイズ家に協力を、緊急性の高い物でしたら……」


 マリアは、地で横たわる私兵団を見渡しからこう告げた。


「兵力の補強ですね」 


「あぁ、貴様は正しい。 貴族として正しい振る舞い。だが、正し過ぎる化け物だ」


 エパスはうなだれた。


 断れば、国に反乱を告げられる。 受け入れれば、一生フランチャイズ家の言いなり……


 しかし、どちらを選択するのか? といえば、そもそも選択の余地もなく…… 


 マリアの提案……もはや、脅迫とも言えるそれを受け入れるしか選択肢はなかった。


 


  

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