第124話 幕間③ 怪人との戦い



 駆け出す少年。 その手に武器はなし。


 自ら向ってくる獲物に「げふげふ」と笑い声を浮かべる怪人。


 その小さな獲物に怪人は斧を振り襲う。 だが――――


 少年は小さな体をさらに低く体勢へ。そして加速へ。


 怪人の斧は目標を外して空振り。


 少年はスライディングのように地面を滑りながら怪人の股を通り過ぎて行った。


 獲物を見失った怪人は一瞬の混乱。慌てて背後を振り向く。


 背後にいる少年はしゃがんだまま。しかし、その手には部屋の隅に捨てたはずの剣が握られていた。


 再び、その剣は怪人の股座へ突き刺さった。


 獣の断末魔を連想させる音が怪人の口から吐き散らかされる。



 「どうする? このままだと、さっきと同じで回復する。首を跳ね飛ばすか?」



 少年は剣呑な提案をメイルにした。 それに対してメイルは迷った。


 この怪人が今回の事件に無関係には思えない。


 しかし、ここで殺してしまっては村人たちの記憶が戻るという保障はない。


 もしかしたら、大学(アカデミー)などの研究機関に協力を求めないといけない事案になる可能性もある。

 

 それらを根拠にメイルが出した答えは――――


 

「いえ、生け捕りにしましょう」


 

 少年は無言で頷き、どこからか紐を取り出した。

 

 それで今も床をのた打ち回っている怪人を捕縛しようとしているのだ。


 しゅるしゅると、まるで紐が蛇のような生き物にでも化けたかのように怪人の体に巻きついていく。


 だが、その直後に奇妙な事が起こった。


 怪人の姿が消えたのだ。



 「なにっ!」と少年は驚愕の声をあげる。 



 動揺は一瞬のみ、すぐさま2人は臨戦態勢を取った。


 そして気づいたのだ。 部屋の様子が変わっている事に――――いや、変わっているのは部屋の様子ではない。


 月や星で僅かな光源を得ていたはずの部屋には、すでに太陽の光に満たされている。



「これは……何が起きた? まるで時間が飛んだような感覚だ」


 しかし、メイルは少年の言葉を否定した。


「いえ、違います。おそらく……これは私たちの記憶が消されたのです」


 ・・・

 

 ・・・・・・


 ・・・・・・・・・

 

 あの直後、メイルを起こしに来た修道女は2人が部屋にそろっているのを見て「あらあら……」と良からぬ想像をしたようだったが、2人は修正する余力も残っていなかった。


 「あの後、どうなったのでしょうか?」

 

 「……わからぬ」とだけ少年は答えた。 それから「想像はつく」と短い言葉を付け加えた。


 「あの後、俺たちはあの怪人を捕縛したはずだ」


 「確かにそのはずでした」とメイルは頷く。


 「だが、記憶を消され、怪人は消え、時間が数時間経過している」


 「怪人を捕まえた後に何かが起きたという事ですね?」とメイルは返した。


 「ならば、何が起きたのか……だ。 だが……」と少年は考え込んだ。


 「捕縛した怪人相手に俺たち2人が油断して縄を抜けられた可能性があるか? それとも……俺たちが油断するような人間、何者かが現れ、怪人を助けて俺たちの記憶を消した」


 「一体……誰が?」


 「考えるまでもないだろう。この深夜とは言え、この教会で大立回りを繰り広げても様子を見に来なかった人物は怪しいだろう」


 「それは……」とメイルは扉を見た。


 修道女を去ったのを無意識に確認したのかもしれない。

 

 

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