第110話 現れた吸血鬼?

 

 ワラワラと現れたモンスターは、今までの骨だけのアンデット系とは違っていた。


 一見すると人間。しかし、強烈な異臭を放っている。 


 腐っているのだ。 体の肉が……


 「こいつら、ゾンビか?」とベルト。しかし、返ってきた返答は違っていた。



 「いえ、違います。こいつらは死鬼……吸血鬼の成りかけです」



 専門家であるノリスが早口で説明する。

 

 ノリス曰く、死鬼とは吸血鬼に噛まれ、生き血を吸われた人間が死に、再生している途中らしい。


 死後、棺の中で肉が腐り落ち、骨だけの姿になり、今度は失われた肉が再生を始める。


 それが終わると新たな吸血鬼の誕生……いや、吸血鬼に血を吸われた者全員が吸血鬼になるわけではない。


 吸血鬼になるのは童貞と処女だけ。それ以外の人間は吸血鬼になることはない。


 喰屍鬼グールとして吸血鬼の支配下に入る。



 「いや、話が飛びすぎました。 兎に角、こいつらは、吸血鬼バンパイア喰屍鬼グールの一歩手前です」


 説明を終えたノリスは大きく、そして強く踏み込むと先頭の死鬼と槍で突こうとして――――


 寸前で止めた。


 火花が飛べば爆発。それを思い出したノリスは槍をクルリと回し、柄の部分と相手に向きなおし――――


 改めて突き刺した。


 ノリスの槍は対吸血鬼用に杭に近い形状をしているが、先端は金属になっている。


 そして、柄の部分は木製。 それも世界樹の枝という神聖な木材から作られている。


 死鬼は触れただけ白煙を上げて倒れていった。


 さらに迫りくる死鬼たちを間合いに入ると同時に突き、次々に消滅させていった。



 「流石は専門家さんですね。よし、私も《真実の弾丸トゥールショット》です!」



 メイルが持つ唯一の攻撃魔法。 通常のモンスターなら怯ませる程度の威力でしかないが、聖属性の魔法は特定の敵に対して破格の効果と発揮する。


 メイルの一撃は二桁台の敵を撃破していった。


 2人が圧倒的戦果を上げていく最中、ベルトはと言うと……


 動いていなかった。


 確かにベルトの攻撃は毒属性。 アンデッドに効果は薄いとは言え、他にも超威力の攻撃スキルと有しているのだが……


 ベルトは備えているのだ。


 死鬼たちの最後尾。 その者が放つ圧力プレッシャーは規格外。


 その圧力が動いた。 


 刹那の時間、最後尾から最前線へ黒い影が飛び――――そして、舞い降りた。


 その者の名前はルーク。


 魔王軍四天王 暗黒将軍ルークだった。


 整った顔立ち。黒髪に黒い鎧。 肩に担いだ大剣ですら黒い。


 その黒い男は「……」と無言でベルトに襲い掛かってくる。


 しかし――――ルークはベルトに一合の剣を振るう猶予もなく吹き飛ばされた。


 やったのは、もちろんベルト・グリム!


 ――――ではない。


 「ルークゥゥゥ!?」と雄たけびを上げたノリスが側面から蹴りを放ち、吹き飛ばしたのだ。 


 「おい」とベルトはノリスに対して憤怒の表情を向ける。


 獲物を横取りされたからではない。 


 前衛であるノリスが陣形を崩したため、その負担が後衛のメイルに襲い掛かっているからだ。


 ベルトは迷うが、すぐに場を離れてメイルの援護へ回る。

 

 残されたノリスは――――

  

 「すいません、ベルトさん。コイツだけは俺が葬り去らないと……滅ぼさないといけないのです!」


 そう言うと、爆発の可能性すら無視して、槍を回転させた。


 杭を模した槍をルークの胸部に向けて狙いを定める。


 つまり、それはルークの正体が吸血鬼であると言う事……



 なぜ、ノリスがそれを知っているか?



 それも目前の相手、ルークこそが彼の村を滅ぼしたアンデッドの軍隊。それ総司令だったからだ。

 

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